1978年熊本県出身。 法政大学でスポーツ法政新聞に携わる。 02年から「月刊ホークス」編集者、球団オフィシャルライターとして福岡ソフトバンクホークスの取材を開始。２年半、勤めた後にフリーとなり、九州を拠点に活動中

田尻 耕太郎

<figure id="attachment_196185" aria-describedby="caption-attachment-196185" style="width: 3712px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8392e400"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2021/07/c16b925429a9535af942fb9c531754cc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-196185" class="wp-caption-text">決勝戦は先発＆抑えと大車輪の活躍</figcaption></figure>
13年の時を経て五輪連続金メダル。上野由岐子（39）が東京五輪で投じたのは389球だった。
新たな伝説が「上野の389球」の中で生まれた。25日に行われた1次リーグのカナダ戦だ。0－0で迎えた2回裏１アウト一塁、インコースを狙った一球はスイングした相手の右打者のバット根元付近に当たった。次の瞬間、金属バットが真っ二つに折れたのだ。その衝撃に思わず打席でへたり込む打者。打球は力なく上がり、上野がキャッチしてそのまま併殺打を完成させた。
上野といえば、かねて「世界最速」と呼ばれたストレートが最大の武器。球速120キロ超は、野球の体感速度に例えれば160㎞とも170㎞ともされる。上野はこの東京五輪期間中に39歳を迎えたが、その力に衰えなしと誰もが驚き、興奮したはずだ。
しかし、アメリカと戦った決勝戦では一転、「技巧派」に徹した。カーブ、スライダー、シュート、チェンジアップ、シンカー、浮き上がるライズボール……。あらゆる変化球を思うままに操って、世界トップレベルの打者たちを手玉にとった。
彼女は、本格派からはとうの昔に卒業したと自負している。ピッチング論をこのように語っていたことがある。
「今の方がすごく余裕があるんです。北京（五輪）の時はまだ『力で勝負』という思いがあった。だけど、今は『ストレートがなくても抑えられるし』みたいな（笑）。別に三振だってとらなくても勝てるし、味方が２点取ってくれたら、私は１点取られてもいい。極端なことを言えば、援護が8点あれば、7失点したって勝てる。そういう心の余裕がすごくある。なんか、すごく偉そうにピッチングするようになりましたよね（笑）」
<figure id="attachment_196188" aria-describedby="caption-attachment-196188" style="width: 3547px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f3d3397f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2021/07/e19f0372a698a1f3bb9fd7db12e973f7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-196188" class="wp-caption-text">トレーニング仲間と。プロ野球界に信奉者が多く、奥にはソフトバンク・千賀滉大の姿が見える</figcaption></figure>
しかも上野の投げる変化球は、それぞれの球種の中で曲げ幅や変化量が微妙に違っていた。七色どころか無限の変化球だ。
その誕生秘話がまた興味深い。
「ある時からピッチング練習がつまらなくなったんです。言い方が悪いけど、やらなくても投げられちゃう。練習する意味が分からなくなっちゃったんです。普通に投げても面白くないから、好奇心でこんな風に投げたらどんな球が行くのかなって色々試すようになりました。たとえばシュートを横に曲げるだけじゃなく上下にも操れたら面白いなって。
こう投げたら浮き上がるかな、こうすればこんな風に落ちるんだとか。面白くなかったピッチング練習をいかに楽しくやるか。そんなことを考えていくうちに、今のようなピッチングになったんです」
カーブやスライダー系の“魔球”は９割方、そんな遊び心から生み出したのだと屈託のない笑みを浮かべて明かしてくれた。
「力を入れて投げたら試合じゃ使えない、ボツになった球種もたくさんあるんですよ」
<figure id="attachment_196189" aria-describedby="caption-attachment-196189" style="width: 5616px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0aedeae6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2021/07/77027c57fe01ebd40057486a4ebd26e2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-196189" class="wp-caption-text">宇津木麗華監督とはチームメートととしても戦った仲だ</figcaption></figure>
まさに世界の頂点に立つ者にしか分からない超感覚だった。
世界最速と称されて相手を圧倒したかつての姿は影を潜めた東京五輪だったが、それは決して衰えなどではなかった。上野が魅せた本当の伝説は決勝戦のマウンドで体現した究極の投球術だった。26歳が一度目、39歳で二度目の金メダリストとなった右腕はまた笑顔でこう言うだろう。
「いつがピークなのか分からない。少なくとも北京の頃とは全くタイプが違うピッチャーですけど、13年分成長していると思います。そうじゃないとやってきた意味がないですから」
<a href="#" data-ident_hash="cbb23757"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2021/07/efe198550695a048f2e603274fee5436.jpg" alt=""></a>

田尻耕太郎（スポーツライター）

2大会連続の金メダルに輝いたソフトボール日本代表。牽引したのはエースの上野由岐子だ。北京五輪から東京五輪まで13年で彼女は速球派から技巧派に変身していた。千賀滉大や菅野智之も師と仰ぐ上野の超感覚。

金属バットをヘシ折る”技巧派”上野由岐子は「39歳の今が究極」

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