想像を絶するDV…暴力団員の子の悲痛告白「鬼親からの虐待地獄」 | FRIDAYデジタル

想像を絶するDV…暴力団員の子の悲痛告白「鬼親からの虐待地獄」

ノンフィクション作家・石井光太が日本社会の深層に迫る!

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暴力団の家に生まれた子供の「その後の人生」とは
暴力団の家に生まれた子供の「その後の人生」とは

「ヤクザの家では、DVや児童虐待が常習化していることが多いんです。でも、親が親なので、なかなか子供を保護することができない。世間もかかわりたくないし、彼らも社会とかかわろうとしない。ヤクザの家の子供をどうするかというのは、児童福祉の仕事の上で非常に難しい問題なんです」

西日本の児童相談所の職員が発した言葉だ。同じような声は、教育現場からも聞こえてくる。

暴力団とは、暴力性を誇示して人々を恐怖に陥れて支配下に置き、無理やり利益を吸い上げようとする組織のことだ。彼らの行動原理では、暴力がすべてだ。そして、その生き方は、配偶者だけでなく、子供に対する暴力として現れることも少なくない。

日本には暴力団の構成員、準構成員は合わせて2万5900人いるとされている。無軌道な彼らはあちらこちらに子供をつくることがあるが、一人平均3人いたとしても7万人以上になる計算だ。

私は拙著『ヤクザ・チルドレン』で、暴力団家庭で生まれ育った子供たちが何を体験し、何を見せつけられ、どう生きていくのかをルポとしてまとめた。その中から、子供たちが暴力と隣り合わせで生きている状況を示したい。

暴力団構成員で凄惨な虐待が起こるケースの多くは、大きく分けて三つある。

1.構成員の義父が子供に虐待をするケース

2.実の母親が虐待をするケース。

3.祖母や義母が虐待をするケース。

ケース1:義父のDV

親から虐待を受けるヤクザの子供たちは多い
親から虐待を受けるヤクザの子供たちは多い

最初のケースでは、静岡県下田市にある指定暴力団A会の二次団体に属する親のもとで生まれたH子の例が挙げられる。

母親は地元で有名な不良少女だった。10代の終わりに、同じ地元のA会の構成員の男性と結婚して、長女のH子を産んだ。しかし、間もなく母親の浮気が原因で離婚。地元にいられなくなり、大阪の西成に逃げるように移った。

母親は経済的な理由から、H子を児童養護施設に預けた。だが、H子は性同一性障害で体は女の子なのに男児のように振舞うことから、施設の児童から激しいいじめに遭った。数年我慢したが、H子は耐えられなくなって、小学4年の時に母親の暮らすアパートに逃げ帰った。

当時アパートには母親の他に、関西を拠点とする指定暴力団B組の構成員の男性が住み着いていた。H子が夜の街で知り合って男女の関係になっていたのだ。後でわかるのだが、二人は覚醒剤でつながっていた。

構成員の男性にしてみれば、せっかく一つ屋根の下で覚醒剤をつかった性行為を楽しんでいたのに、いきなり血のつながっていない子供が転がり込んできたことになる。男性は邪魔だといわんばかりに、連日のようにH子に殴る蹴るの虐待を加えた。

H子は言う。

「あの男の暴力はとにかくすごかった。もともと人を暴力で支配しなきゃ済まないってタイプで、母さんのこともDVでコントロールしていた。そのせいもあって、母さんは、いくら私が殴られても、風呂に沈められても、煙草の火を押し付けられても、止めに入ってくれなかった。

一番嫌だったのが夜で、母さんが商売に行くので、私とあの男の二人で過ごさなければならなかった。あいつは酒や覚醒剤をやりだすと、今度は暴力だけじゃなく、セックスをしてこようとした。母さんの代わりに、うちを性の道具にしたかったんだろうね。もちろん、母さんには言えないし、つらくてたまらなかった」

厄介なのは、男性は覚醒剤の常用者だったため、警察など公的機関とのつながりを徹底的に拒絶していたことだ。住むところを頻繁に変えたり、地域住人とつながろうとしなかったりした。ゆえに、DVや虐待が見過ごされた。

H子は言う。

「ヤクザって本当に普段から絶対に表の世界にかかわろうとしないし、どうやったら自分の犯罪を隠せるかを知りつくしているんだよね。

だから、暴力一つにしても、周りを支配してバレないような環境をつくった上でやる。さらに、児童相談所も含めて一般の人は、ヤクザの家ってだけでかかわりたがらないんだから、家庭内の実態が明るみにならないのは当然だよね」

幸か不幸か、半年ほどしてこの男性と母親が警察に覚醒剤で逮捕されたことで、H子は虐待下から逃れられることになった。逆に言えば、警察に逮捕されていなければ、H子の悲劇は家を出るまでつづいていたはずだ。

ケース2:実母の暴力

第二のケースは、実母が子供を虐待するというものだ。

暴力団構成員と結婚する女性は、元不良少女だったり、風俗嬢だったりと、それ以前から問題を抱えていることが少なくない。そんな彼女たちが夜の街で出会って、羽振りの良さに目がくらんで構成員と結婚するというのが大半なのだ。

だが、このご時世で金を持っている若い暴力団構成員など、ほとんどが覚醒剤の密売に関与している者だ。彼らはセックスの道具として覚醒剤を妻にも覚えさせるし、それゆえ女性はますますおかしくなっていく。

千葉県松戸市にあるA会三次団体の組長の妻がまさにそうだった。娘のS絵が物心ついた時には、彼女は覚醒剤に溺れて正気を失っていた。覚醒剤をやっていない時はないほどで、組の金を横領するとか、組の若い衆を虐待するなど、常軌を逸した言動が日に日にひどくなっていった。

やがて彼女は夫に見放され、千葉から追放される。彼女はS絵を連れて実家のある四国へ引っ越した。彼女は前夫から養育費が振り込まれるのをいいことに、そこでも覚醒剤をやりつづける。

S絵は言う。

「母はもともと不良だったんで気性が荒いんです。それで若いうちに組長の父と結婚したから怖いものなしになって、気に入らないことがあれば誰かれとなく殴りつけるんです。そのせいで私は幼い頃から殴られて過ごしていましたが、覚醒剤のせいでどんどん暴力は激しくなっていきました。

四国に住んでいた時の家は、ゴミ屋敷でしたね。家事をしているのを見たことがないし、私の服だって1着か2着くらいしかなかった。学校の給食費さえ払ってもらえなかった。学校では『貧乏人』って言われ、近所からは『ゴミ屋敷の子』って言われる。家に入れば、虐待される。どこにも居場所がありませんでした」

この母親もまた覚醒剤を手に入れるために暴力団と付き合っていたし、警察や学校など公的機関とつながることを避けていた。

10歳~18歳まで、S絵はそんな母親と暮らしていたが、この生活に耐えかねた姉が自殺未遂をしたのをきっかけに、四国から逃げ出すことを決意。彼女が頼ったのは、千葉に暮らす実の父だった。彼女にとっては、母と暮らすより、暴力団組長の父と一緒にいた方がよかったのだ。

ケース3:義母や祖母の虐待

第三のケースは、義母や祖母が子供に虐待をするというものだ。

暴力団構成員は、自分が懲役に行ったり、先のS絵のように別れた妻が子供を虐待したりすることが頻繁にある。それゆえ、懲役に行く際に実家に子供を預けたり、前妻との子を引き取って妻に預けたりするのだ。虐待は、そこで起こる。

東京のA組系二次団体に属し、盗難車の密売を手掛けている男性がいた。彼は前妻との間に4人の子供がいたが、40歳の時に離婚して別の女性と再婚。新たに二人の子供をつくった。

ある日、男性は、前妻が薬物中毒で正気を失っているようだという噂を聞く。それで久々に家に会いに行ったところ、前妻はほとんど家に帰っていないらしく、4人の子供は飢えてガリガリにやつれていた。聞くと、家事どころか、食費さえわたしてもらっていないのだという。

男性は見るに見かねて4人の子供たちを引き取り、家に連れていったものの、今の妻が良く思う訳がない。ただでさえ二人の子育てに追われているのに、なぜ夫の前妻が育児放棄した4人の子供まで育てなければならないのか。彼女は4人の子供たちを邪魔扱いし、いじめるようになった。

4人の子供の一人は次のように述べる。

「最初、私たち4人きょうだいは義母のところに預けられて、しばらくして祖母の家にも預けられることになった。半年ごとに義母と祖母のところを行き来することになったんです。

どちらの家でも、私たちは邪魔だったらしく虐待を受けました。食事は白米に醤油やソースをかけたものだけで、布団の代わりにタオルを一枚わたされて床で寝起きさせられていました。異母きょうだいからも、すわっているだけで『邪魔』とか『ムカつく』とか言われて殴られてました。

義母も祖母も、私たちを施設に送る気はなかったみたいです。お父さんがヤクザで違法なことをやっているからってことが大きかったんでしょうね。だから、面倒をみれないのに、施設にも預けられないっていう状況になったんです」

父親もまた、刑務所を行ったり来たりして4人の娘を守ることができなかった。

4人は誰一人として高校へ進学してもらえず、中学卒業後に追い出されるように寮付の仕事に出された。

三つのケースを見ると、暴力団の家庭には、虐待を生みやすい要素がたくさんあるのに、公的機関が発見、介入しにくい状況があるのがわかるだろう。

拙著『ヤクザ・チルドレン』を読んでいただければ、暴力団の家庭で育った子供たちの多くが、明らかに保護が必要な環境下に置かれていることがわかる。それは暴力団の行動原理を踏まえれば、ある意味必然的なことなのだ。

暴力団の家庭で生まれた時点で、凄惨な虐待下に置かれるということが少なくない。だが、世間が暴力団を避ければ避けるほど、家庭内の出来事は表に出てこない。ならだ、こうした家庭の子供たちを虐待から守るにはどうすればいいのか。

虐待家庭のあり方についても深く考えていく必要があるだろう。

  • 取材・文石井光太

    77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。日本大学芸術学部卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『「鬼畜」の家ーーわが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『レンタルチャイルド』『近親殺人』『格差と分断の社会地図』などがある。

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