『イカゲーム』がやっぱり『愛の不時着』を超えられないワケ | FRIDAYデジタル

『イカゲーム』がやっぱり『愛の不時着』を超えられないワケ

世界とはちょっと違う、日本の韓流ファンのある特徴とは――?

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大ヒットした韓国ドラマ『イカゲーム』。キャストのイ・ジョンジェ(左)、チョン・ホヨン(中央)、パク・ヘス(右)は一躍世界的なスターに 写真:ロイター/アフロ
大ヒットした韓国ドラマ『イカゲーム』。キャストのイ・ジョンジェ(左)、チョン・ホヨン(中央)、パク・ヘス(右)は一躍世界的なスターに 写真:ロイター/アフロ

韓国ドラマの快進撃が止まらない。ある日、ネットフリックスで「今日の総合TOP10(日本)」を見ると大半が韓国ドラマで、日本の作品はせいぜい1~2本。日本では話題になっていたはずの『日本沈没 希望の人』は入っていなかった。

日によって視聴ランキングの順位は変動するが、11月下旬には「今日の総合TOP10(日本)」のうち9本が韓国ドラマだった。日本の作品でランクインしたのはアニメ『世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する』のみ。もはや「ここは一体どこの国なんだろ?」というぐらい、韓国ドラマが強さを見せつけている。

その翌日も9本が韓国ドラマ。しかも5位に『愛の不時着』、7位には『梨泰院クラス』が再びランクインしている。一年前に人気だった韓国ドラマが今も視聴されているのだ。

今年の韓国ドラマの大ヒット作は、なんといっても『イカゲーム』。アジアのみならず世界的な大ヒットを収めたことは今さら言うまでもない。

配信がスタートすると瞬く間に全世界の視聴者数が1億1100万世帯に達し、日本の総合ランキングでも2ヶ月に渡って1位の座を独占した。

アメリカで韓国ドラマが1位になったのは初めてのことで、『イカゲーム』はネットフリックス史上最大のヒット作となり、米国の放送映画批評家協会賞3部門にノミネートされている。

ところが、そんな勢いのある『イカゲーム』でさえも、日本では『愛の不時着』級のヒットには及ばない。それには、日本の韓流ファン独特の傾向が関係している。

■日本では“長期的”な人気になるのは難しい

アメリカで行われる世界最大のコミックイベント「サンディエゴ・コミコン」。今年は『イカゲーム』のコスチュームに扮したコスプレイヤーの姿が 写真:AFP/アフロ
アメリカで行われる世界最大のコミックイベント「サンディエゴ・コミコン」。今年は『イカゲーム』のコスチュームに扮したコスプレイヤーの姿が 写真:AFP/アフロ

『イカゲーム』の人気を引き継いだのが同じく韓国ドラマの『地獄が呼んでいる』だ。『地獄が呼んでいる』は韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)のヨン・サンホ監督の最新作となる。『新感染』はハリウッドでもリメイク版が進行中で、それに加えて韓国ドラマの面白さは『イカゲーム』で実証済み。期待が高まる中での配信スタートだった。

『イカゲーム』と入れ替わる形で『地獄が呼んでいる』も各国の視聴ランキングで1位の座に就き、71の国と地域でTOP10入りを果たしている。

近隣のアジア諸国や欧米と同じく、日本でも『イカゲーム』『地獄が呼んでいる』はヒットしたが、その人気はこれ以上は続かないだろう。昨年、新たな韓流ブームを巻き起こした『愛の不時着』とは対照的に、今年2月に人気だった韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』も消えていくのは早かった。

『ヴィンチェンツォ』は春頃に注目され、ランキングの1位を独占していた。日本のメディアもこぞって盛り上げたが、予想に反して早々とトップ10から姿を消している。

日本では“爆発的”な人気となっても“長期的”な人気になるのは難しい。『イカゲーム』や『地獄が呼んでいる』も作品のジャンルからして長期的な人気にならない可能性が高い。

実際、『イカゲーム』『地獄が呼んでいる』は早くも順位を落とし、韓国時代劇『恋慕』が抜き去っている。衝撃のストーリー展開が繰り広げられる『イカゲーム』に比べ、『地獄が呼んでいる』は残酷さのほうが際立っているせいか、急激に順位を落としている。

■日本の韓流ファンは“ラブストーリー”と“イケメンキャラ”が好き

『地獄が呼んでいる』で宗教団体の教祖を演じたユ・アイン。映画『声もなく』(2020/日本では 2022年1月21日(金)より公開)で青龍賞の最優秀主演男優賞を受賞するなど、目覚ましい活躍を見せている 写真:REX/アフロ
『地獄が呼んでいる』で宗教団体の教祖を演じたユ・アイン。映画『声もなく』(2020/日本では 2022年1月21日(金)より公開)で青龍賞の最優秀主演男優賞を受賞するなど、目覚ましい活躍を見せている 写真:REX/アフロ

韓流エンタメ誌で企画やコラムを担当していた頃に気づいたことがある。日本の韓流ファンはとにかく“ラブストーリー”と“イケメンのキャラクター”が好きということ。

もちろん、それ以前に“視聴者を惹きつけるストーリー”であることが大前提だ。
そして日本の韓流ファンは一度気に入ると、その作品をひたすら愛する傾向にある。数年に渡ってファンを魅了した『冬のソナタ』や『美男<イケメン>ですね』がいい例で、『愛の不時着』もこの部類に入る。

一方、『イカゲーム』や『地獄が呼んでいる』は世界的な大ヒット作となり、今現在も韓国はもちろん、世界ランキングでもいまだトップ10にランクインしている。

両作品とも過激な内容で、手に汗を握る展開だが、そこで得られるハラハラドキドキは『愛の不時着』のトキメキとはまったく違う類のもの。恋愛モノには程遠く、『イカゲーム』はゲームに負ければ即死で、『地獄が呼んでいる』はワケも分からず人が殺されていく。

同様に、前出の『ヴィンチェンツォ』もいろいろな要素の詰まったドラマだったが、恋愛色よりはハードボイルド色のほうが強かった。人気女優ハン・ソヒ主演の『マイネーム:偽りと復讐』もアクション中心の復讐劇。韓国ではいまだトップ10内にランクインしているが、日本での再浮上はなさそうだ。

どの作品も多額の制作費がかかっており、よくできたエンタメ作品に違いないが、日本の女性ファンの趣向とは違ったジャンルになり、『愛の不時着』のようにドラマそのものに恋をするファンは少ないように思う。

『イカゲーム』は終盤での展開を知ると最初から見直したくなるが、『地獄が呼んでいる』は「何度も見たい」と思わせるドラマではなく、リピート視聴は少ないだろう。

『イカゲーム』『地獄を呼んでいる』の主演俳優に対する注目度も一年前の『愛の不時着』のヒョンビンほどではなく、熱狂的とは言い難い。『イカゲーム』のイ・ジョンジェは90年代から活躍しており、韓国では抜群の知名度を誇っている。『地獄が呼んでいる』のユ・アインも次から次へとヒット作に出演し、オファーが絶えない。

どちらも韓国での人気は申し分ないが、やはり今回演じたキャラクターで日本の視聴者のハートを射止めるのは難しかったようだ。そういう意味では『ヴィンチェンツォ』に主演したソン・ジュンギも、日本においては去年のヒョンビンのような存在にはなっていない。

『ヴィンチェンツォ』主演のソン・ジュンギ。『トキメキ☆成均館スキャンダル』(2010)で脚光を浴び、『太陽の末裔』(2016)で人気俳優としての地位を不動のものとした 写真:AFP/アフロ
『ヴィンチェンツォ』主演のソン・ジュンギ。『トキメキ☆成均館スキャンダル』(2010)で脚光を浴び、『太陽の末裔』(2016)で人気俳優としての地位を不動のものとした 写真:AFP/アフロ

■韓国でヒットしたドラマが必ずしも日本でウケるとは限らない

単に“ラブストーリー”で“イケメンキャラ”ならいいわけではない。前述したように、大事なのはストーリーの吸引力だ。内容が単調で、キャスティングに頼ったラブストーリーは日本でも話題にならずに忘れられていく。

例えば、ソン・ガンとハン・ソヒ主演の『わかっていても』のように、前評のわりに韓国の視聴者をガッカリさせたドラマは日本でも論外といえる。

もう一つ言えるのは、韓国で大ヒットした作品でも意外と日本ウケしないことが多々あるということ。韓流ブーム全盛期の頃と同じく、今も日本ファンの趣向や視聴ランキングの順位は本家の韓国とも、韓流エンタメ好きのアジア諸国とも違った特異な動きを見せている。

韓国でも『愛の不時着』は話題になったが、日本のように引きずることはなかった。その後に放送された『夫婦の世界』のほうがはるかに高視聴率で、『愛の不時着』は忘れ去られたのだ。

また、韓国では去年から今年にかけて『ペントハウス』がダントツの人気を誇り、シーズン3まで放送されている。ところが、韓国でどれほどヒットしようとも、日本においての『愛の不時着』の絶対的な人気は変わらなかった。今になって再び『愛の不時着』がトップ10にランクインしているのもその表れと思う。

ネット配信によってドラマを視聴するのが主流になった現在、日本では“ネットフリックスが一人勝ち”の状態。『夫婦の世界』や『ペントハウス』のように、韓国でどれほど話題になった作品でもネットフリックスで配信されないと、日本で人気を得ることは難しい。

反対に、韓国での大ヒット作がネットフリックスで配信されたとしても、キャストが渋いとやはり日本ではあまり視聴されない傾向にある。韓国で『愛の不時着』以上に高視聴率だった『SKYキャッスル 上流階級の妻たち』がいい例だ。すでにU-NEXT等で配信されていたこともあるが、ネットフリックスで配信スタートしても、特に話題にはならなかった。

同じく、韓国で人気の脚本家イム・ソンハン氏のドラマ『結婚作詞 離婚作曲』はシーズン2までネットフリックスで配信されたが、日本での注目度は高くない。ドラマ自体は面白いが、『愛の不時着』を機に韓国ドラマを見始めた若い層は食指が動かないようだ。

こうした背景もあってか、近隣諸国とは違った動きになる日本の視聴ランキング。いまだ『愛の不時着』を引きずっているのは日本とタイぐらいだが、時代劇『恋慕』がどこまで善戦するのか目が離せない。

  • 児玉愛子(韓国コラムニスト)

    韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウォッチャー。
    メディアで韓国映画を紹介するほか、日韓関係のコラムを寄稿。

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