『最愛』はなぜ視聴者を惹きつける?計算された“闘い方”のスゴさ | FRIDAYデジタル

『最愛』はなぜ視聴者を惹きつける?計算された“闘い方”のスゴさ

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『最愛』で主演を務める吉高由里子。約1年ぶりのドラマ主演ということもあり、放送前から注目度は高かった 写真:共同通信
『最愛』で主演を務める吉高由里子。約1年ぶりのドラマ主演ということもあり、放送前から注目度は高かった 写真:共同通信

12月17日放送の第10話で、最終回を迎えるTBSドラマ『最愛』。毎週、放送前後にはTwitterのトレンド入りを果たし、話題作・力作がそろった2021年秋ドラマの中でも人気を博している。

15年前と現在を行き来しつつ、ふたつの殺人事件の真相を紐解いていく構造になっており、毎エピソード新事実が判明。「真犯人は誰なのか?」と視聴者の中で考察がはかどる作品であり、追いかけて観ていくことで楽しさが増す「続きが気になる」ドラマといえる。

視聴率で見れば『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』7期(テレビ朝日)や、『日本沈没-希望のひと-』(TBS)などが大きくリードしているものの、観賞スタイルが多様化した昨今において、視聴率だけで一概に良し悪しや人気/不人気を語ることもまた早計だ。実際、『最愛』第1話の見逃し配信はTBSドラマの初回無料配信数で歴代1位(287万回)を記録したという。

この『最愛』だが、ストーリー的な“引き”の魅せ方はもちろんのこと、キャスティングや細かな演出に至るまで、きっちりと「ターゲティング」が行き届いている点が興味深い。

もっというと、ファン心理を的確に理解し、視聴者がアガるものを与え続けている実にスマートな作品なのだ。地上波ドラマという戦場でのサバイバル術がいたるところに感じられる本作の“業(わざ)”を、改めて解析していきたい。

『最愛』は吉高由里子が主演を務め、脚本は奥寺佐渡子と清水友佳子、プロデュースは新井順子、演出は塚原あゆ子らが担当。第1話の“食いつき”を観てわかる通り、本作は放送開始前の“座組”の時点で注目を浴びていた。奥寺・新井・塚原(プラス音楽の横山克)は、2014年に放送され多くの“ロス視聴者”を生み出した『Nのために』のメンバーなのだ。

また奥寺と清水は『夜行観覧車』(13)や『リバース』(17)含め、湊かなえ原作のドラマを中心に多くの良質なミステリーを生み出してきた。そして奥寺・清水・新井と吉高は『わたし、定時で帰ります。』でも組んでいる。新井と塚原といえば、『アンナチュラル』(18)や『中学聖日記』(18)、『MIU404』(20)など、人気作品を次々と世に放ってきたコンビ。つまり、個々に固定ファンがしっかりとついているチームなのだ。

そのメンバーが結集しただけでなく、完全オリジナル作品を作るということで、ファンからすれば鑑賞意欲は十二分に刺激されていたはず。また、これまで放送されてきたエピソードを観ていても、『最愛』には『Nのために』を彷彿とさせる要素が多数含まれており、長く追いかけている視聴者にとっては嬉しい“おまけ”があるように感じられる。

たとえば過去と現在を行き来する構成であったり、「罪の共有」ともいえる切なさを含んだラブサスペンス、それぞれのキャラクターが抱える闇――。細かい部分でいえば、スロー演出や宇多田ヒカルの主題歌「君に夢中」の使い方に至るまで、オーバーラップするような意匠が凝らしてある。

こういった“遊び”の部分は、作り手たちが「TBSの金曜ドラマ」の層をきっちりと把握しているからこそであろう。そういった意味では、新規の流入というよりもむしろ、これまで一緒に成長してきた視聴者に向けたドラマである、という見方もできる。

このスタッフ陣の作品は、F2層(35~49歳の女性)に対するリーチが高いものも多く、『最愛』においてはF3層(50歳以上の女性)に差し掛かった視聴者にも届くよう、仕掛けを施してある印象だ(合間に流れるCMを観ると、大体どこの年齢層を想定しているかが見えてくる)。

そのひとつが、男性キャスト陣の起用について。NHK連続テレビ小説『スカーレット』(19)で注目を浴びた松下洸平、ライダー俳優の高橋文哉といったフレッシュかつ、視聴者層と親和性の高そうな若手をメインのメンバーに起用。そこに井浦新という世代間での安定した人気を誇る俳優(かつ、『アンナチュラル』で知られた存在)を入れている。この3人はラブ(ドラマ)パートも担っており、本作における支持は非常に強力。放送前後にトレンド入りするワードは彼らの名前か、役名がほとんど。

そこに及川光博や、ある種のチャレンジとして人気声優の津田健次郎(とはいえ2020年放送のNHK連続テレビ小説『エール』にナレーション他で出演しており、これまた親和性は高い)や、映画好きには知られた存在の奥野瑛太を投入。最終回間近では岡山天音の出番も増やし、彼らにはサスペンスパートを中心に担わせている。善人にも悪人にも振り切ることができる彼らの存在もまた、重要な位置を占めている。

加えて、作品の中心にいる吉高由里子扮する主人公に共感できるかどうか、或いは「推せる」かどうかも肝要だが、その点においても彼女の憑依型の演技や、脚本・演出含めた細やかな心情描写が行き届いており、死角はない。

主人公のON/OFFのギャップをメイクやスタイリングで明確に表現している点も秀逸で、対立する存在として記者役に田中みな実、刑事役に佐久間由衣を配している(スタイリングにも違いが施してある点が上手い)。同性が観てどう感じるか、といった部分にも細やかな気配りとこだわりが感じられるのだ。

NetflixやAmazonプライム・ビデオ、ディズニープラスといった動画配信サービス、あるいはYouTubeやTikTokの台頭もあり、コンテンツ過多は日増しに加速中。これまで以上に視聴者を奪い合う構造のなか、「広く・浅く」よりも「狭く・深く」な局地的な人気――いわば少数精鋭の熱狂的な“濃い”視聴者=“沼感”を出せるかどうかが、昨今の映像コンテンツにおけるひとつの成功のカギといえる。

そうした意味で、『最愛』はクオリティの高さはもちろん、実に現代的かつクレバーな闘い方をしている印象だ。

新井プロデューサーによれば、最終話以降にも何かしら施策がありそうで、この“熱”が今後どう動いていくのか、注視していきたい。

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

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