福子が大活躍の『まんぷく』 安藤サクラの真骨頂をみた

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して 第3話

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、週ごとに内容を振り返る。今回は大人気放送中の『まんぷく』第6~7週から。

NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより

プロデューサーとしての素質を見せ始めた福子

朝ドラが夜枠のトレンディドラマと決定的に違うのは、視聴者をテレビ画面の内側に招き入れてしまうことだ。リクライニングポジションを決め万全の態勢で観賞していたはずなのに、気がつけば劇中に参加しているような錯覚に陥ることがある。

作風にリアリティを滲ませる朝ドラならではの作りが、観賞から干渉へと視聴者意識を巧みに変化させるからだろう。思わず「わかる」と相槌を打ち、「ふざけんな」とボヤいてしまうのは、作り手の術中にまんまとハマってしまった証拠。そう自覚してなお、おせっかいをやきたくなる親戚気分が『まんぷく』の醍醐味でもある。

第6週、萬平(長谷川博己)は神部(瀬戸康史)が集めた帰還兵たちと塩づくりを始めるが、ものづくりに妥協しない萬平の指示でできた塩はわずかな量だった。落胆する帰還兵たちの思いを代弁するように鈴(松坂慶子)が言った。

「塩づくりはやめるのよ。商売にならないものに手を出したってしかたないでしょう」

義母の言葉に愕然とする萬平に、頼みの福子(安藤サクラ)が追い打ちをかける。

「お母さんの言うとおりかも。もうやりたくない人は大阪に帰ってもええわ。今までのお給料はお支払いします」

まさかの表情で福子の言葉を追う萬平。空気は一瞬にして固まった。その沈黙こそが福子の仕掛けだった。

「俺はあきらめませんよ。せっかくここまで頑張ったんやから」

神部のひとことで帰還兵たちが奮い立つ。誰ひとりとして、帰る場所も仕事のあてもないのだ。はじめから帰還兵たちを奮起させるつもりだった福子は、さらに器の大きさを見せつける。

「このお塩、清香軒さんに差し上げませんか」

福子は、萬平に塩づくりのヒントを与えてくれたラーメン店『清香軒』に塩を届けることを提案したのだ。全員で塩を届けると、塩不足で満足な味をこさえられずにいた清香軒の店主夫婦は喜びの涙を流しながらラーメンをごちそうし、従業員たちは自分たちがつくった塩で味付けされたラーメンの美味しさに感激する。

「塩づくりは大変やけど、こんなに喜んでくれる人がいるのよ。みんなは世の中の役に立つ仕事をしているの」

個々人を鼓舞する福子はまさにプロデューサー。“雨降って地固まる”の実現ため、リスクを怖れず果敢にチャレンジする姿に、筆者は茶の間で拳を突き上げてしまった。福子により一致団結した萬平たちだったが、くせ者・世良(桐谷健太)がまたしても萬平たちを掻き回す。

安藤サクラの真骨頂をみた第7週

第7週、製塩業の許可が下り『たちばな塩業』となった萬平たちに、世良が「塩を専売局に売って来てやる」と持ちかける。最初からピンハネ目的だった世良は、まんまと売り上げの半分をせしめ、闇業者にも商品を横流しし、従業員たちの初任給は細やかなものとなった。

薄給にむしゃくしゃした従業員たちは仲間割れし、リーダー的存在の岡(中尾明慶)が闇市で騒ぎを起こして警察に連行される。岡を引き取りに来た萬平と福子に、ふてくされながらも心を動かす岡の演技に、怒りと謝罪と感謝と照れが混在する。神部とともに、従業員たちをリードする使命を与えられた岡のスリリングな演技は、今後もさまざまな局面でアクセントになるだろう。

不正を問い正そうと世良の会社に電話をした福子は、世良が大阪経済界の重鎮・三田村(橋爪功)と会うことを知り、するするとその場に潜入しお茶だしの役を担う(この抜け目なさこそ福子の、いや安藤サクラの真骨頂。実にコミカルで愛しいのだ)。

かつて福子から、萬平を憲兵隊の牢から出すために嘆願されたことを三田村は覚えていた。「立花萬平はやがて大阪経済を背負って立つ逸材である」とう福子の言葉とともに。

三田村は福子から萬平が製塩業を営んでいることを報告される。

「それやったら質にこだわったらあかんな。上等な塩を100kg作るよりも、質を落として300kg作った方が手間ひま考えたら金になる」

三田村の助言にさらりと首をふる福子。

「それは無理です。主人は最上級の塩しか作りません。品質だけは絶対に譲らないんです。闇業者に売るようなことも絶対に」

三田村の肩を揉む世良の顔が固まる。

「主人は世の中の役に立つ仕事がしたいんです。正しいやり方で。それが難しいことは重々承知していますが、私は主人なら必ずやってのけると信じています」

この言葉こそが、萬平への愛と信頼の証。ここぞという場面ではかならず、意思表示する福子に人々の心は動かされる。三田村も例外ではなかった。

「彼がこれからどうなるのか実に興味深いな。よし、分かった、立花萬平に投資してみよう。投資額は3万や」

水戸黄門の名シーンが頭をよぎった

逆転満塁ホームランにはいささか早いが、福子の献身的な守備がチャンスを呼び寄せたことに変わりはない。萬平のプロデューサーとしての本領が発揮されていく。くせ者の世良に至っては、一攫千金を夢見て萬平の将来に全財産を投資させてくれというどんでん返し。

「不正なお金は受け取れません。これを受け取ったら、うちも闇業者と取り引きしたことと同じになりますから」

すべてお見通しよと言わんばかりのスマイルで世良を一蹴するヒロインに、『水戸黄門』の名シーンを彷彿とした。あわわとする世良に視聴者は肘を折り曲げてガッツポーズを作ったことだろう。

その頃、鈴は、萬平に向き合いながら、ひょんなことから持ち上がった福子の浮気疑惑を真っ向から否定していた。

「私は信じます。誰がなんと言おうと、どんな噂が流れようと、福子を信じます。そやからお願い、福子を信じてやって」

鈴がはじめて見せた真の親心に、萬平がはっとする。

「申し訳ありません。お母さんの言う通りです。福子がそんなことをするはずがないと思っていながらも、ついつい疑ってしまいました。福子を信じます。福子は僕の妻です」

穏やかなBGMが流れる中で土下座をし合うふたり。互いに福子を信じる気持ちが萬平と鈴の心を強く結んだ。そんなふたりのもとに福子が三田村からの吉報を届ける。赤ちゃんができたというサプライズとともに。福子、萬平、鈴、物語を牽引する三人のほどけた笑顔に、今後の希望ある船出を予感せずにいられない。

それにしても浮気疑惑で動揺しながらも福子に問い出させない萬平のだらしなくて弱くてビビリで「あ”ー」という情けない男心。その演技の見事さに『いいね!』ならぬ、『わかる!』を100万回押したくなるのは筆者だけではないだろう。役者として新境地を開拓した長谷川博己のみならず、適度にちりばめられた役者たちの行き過ぎないコミカルな演技が物語にストレッチの役割を果たしている。不安な展開で凝り固まった肩こりをほぐしてくれるあたりもさすがである。

<「まんぷく編②」 「まんぷく編④」>

朝ドラに恋して「なつぞら編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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