未来の朝ドラヒロイン?『なつぞら』子役・粟野咲莉の天才的な演技

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編①

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は4月よりスタートした『なつぞら』第1週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

広瀬すず無しでも面白い

『なつぞら』がはじまった。早々にして主人公なつの子ども時代を演じる粟野咲莉(あわの・さり)の演技がすごい。子役の評価を占うにあたり不憫な役どころの演技が試金石となることが多いが、粟野は視聴者を泣かせるだけの力量を存分に持ち合わせ、その才分をリアリティ溢れる演技を通して画面に放出している。

絶好調でゴールした前作『まんぷく』から引き継がれたばかりの今作、『まんぷく』ロスが癒えない第一週の、それも子役パートとなれば、これまでの作品同様ウォーミングアップ段階と捉えられても仕方がなかった。ところが今作は、初回からフルスロットルのレッドゾーン。ひときわ粟野の演技には引きつけられ感情を揺さぶられ、番組改変期の泣きどころを、その天才的な演技でクリアしたといっても過言ではない。

戦死した父の戦友、柴田剛男(藤木直人)に引きとられ北海道十勝の牧場で暮らすことになったなつは、剛男と妻の富士子(松嶋菜々子)に懇願する。

「お願いがあります。私をここで働かせてください。なんでもします。だからここにおいてください」

立ち聞いた柴田家の頑固じじい・泰樹(草刈正雄)が間髪入れず言った。

「それでこそアカの他人。明日から夜明けとともに起きて働け」

なつと泰樹、それぞれの挑戦状が物語に深みを与える。序盤に重心を低くし土台を固めておかなければ、その夏空の眩さは希薄なものになる。不幸で不憫、それだけではすませず、辛抱&試練という朝ドラ伝統のエグミを存分に盛り込むことで物語の骨格は太くなる。泰樹はなつの人生の師となり、なつの生き方に多大な影響を及ぼしていく人物でもあるのだ。

泰樹はみるみる仕事を覚えていくなつを連れ出し、帯広の菓子店でアイスクリームを食べさせた。

「うまいか」
「はい、おいしいです。すごくおいしいです」
「うちの者には内緒だ。お前の搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ」
「はい」

「ちゃんと働けば必ずいつか報われる日がくる。報われなければ、働き方が悪いか、働かせる方が悪いかだ。そんなところはとっとと逃げ出しゃいいんだ。お前はこの数日、本当によく働いた。そのアイスクリームはお前の力で得た物だ。お前なら大丈夫だ。だからもう無理に笑うことはない。堂々とここで生きろ」

泰樹の言葉は、なつへの敬意に溢れていた。その証拠に、泰樹は、菓子屋の小畑とよ(高畑淳子)に、なつのことを「弟子」と言った。そこに伴う感情は、血の繋がらない祖父と孫の関係性だけではなく、人として認めた仕事仲間、ひいては友情に近いものではないだろうか。

新入社員の、それも研修期間に、こんな上司と巡り会えたならば、そのサラリーマンライフはどれだけ素晴らしいものになるだろう。コンプライアンスの「コ」の字もない時代の北の大地に、今に足りない濃密な人間関係づくりのそれを見た気がする。

他の子役たちも仕上がってる

なつが泰樹に認められるにつれ、柴田家の長男・照男(岡島遼太郎)と妹の夕見子(荒川梨杏)にはなつへの嫉妬心が募っていく。ある日、なつに手を振る泰樹に、照男がふと心の内を漏らした。

「あっ、手振った」「俺はまだ搾乳、教わってないのに」

妹の夕見子には、不憫ななつをかわいがる富士子をとられたくない思いがありあり。剛男から、なつを引き取った理由を聞かされた夕見子は気持ちを切り替えるが、郵便局員に兄への手紙を託すなつを見て思いを口にした。

「はっきり聞くけど、あんたは本当にこの家にいたいと思ってる? それとも仕方なく? 私はどっちだっていいけど、はっきりしたいのよ。あんたの気持ちがそうじゃなければ、あんたをどう受け入れていいかわかんないんだもん。そこがわかんないと、どう優しくしていいかわかんない」

本音と建前。少女を飛び越え女の入り口に立ち、上から目線を浴びせる夕見子に、なつが返す。

「それなら無理に優しくしなくたっていいよ。私は大丈夫だから。無理しないでね」

これまた見事なおしゃまっぷり。立場の違いを重々感じながらも目線は対等だ。ふたりはまだ互いを名前で呼びあうことはない。夕見子にとってなつは、「あの子」のままだ。女同士の湿気を含んだ微妙な関係が、なつを受け入れかけていた夕見子の気持ちを元に戻した。

「あの子、腹立つ」

それにしても素晴らしい子役陣。なつ演じる粟野咲莉には女優魂を感じさせる大物っぷりさえ漂う。近い将来、ヒロインの座をヨロシクと言わんばかりの堂々たる演技に、NHKキャスティング部は早々にスケジュールを押さえにかかるのではないだろうか。

また造形的にもすでに仕上がりを予感させる夕見子は、なつにとって物語幼少期のライバル関係にとどまらず、朝ドラやトレンディドラマの主役を争う永遠のライバル的予感さえする。酪農仕事でなつに先を越された照男は、内に秘めた想いをやがて大地のような優しさに変え、清原翔演じるその後の照雄に継がれていくのだろう。なつにアニメーターを目指すきっかけをつくるクラスメイトの天陽(荒井雄斗)は吉沢亮の幼少時代を演じるに相応しい爽やかイケメン。なつの兄・咲太郎(渡邉蒼)のタップダンスは希望の調べだ。

ヒロイン・広瀬すずの登場を心待ちにしながら、すでに子役ロス、とりわけ粟野ロスになることは否めそうもない。

「なつぞら編②」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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