子役からバトンタッチ 『なつぞら』若き俳優陣たちの魅力を分析 | FRIDAYデジタル

子役からバトンタッチ 『なつぞら』若き俳優陣たちの魅力を分析

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編②

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は4月よりスタートした『なつぞら』第2~3週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより
NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

夕見子ファンが増加?

主人公なつの子ども時代を演じた粟野咲莉からバトンを受けた広瀬すずが、“子なつロス”を払拭できるかが焦点となったが、そんなものは要らぬ心配だと知らしめた“すずなつ”の力量。その演技は粟野時代から9年経過した展開に違和感を感じさせず、むしろ視聴者は強烈なインパクトを残した子なつの残像を重ねながら、すずなつ時代をご覧になっているのではないだろうか。

なつのみならず、夕見子も照男もなつの同級生の雪次郎もしかり。子役からバトンを受けた若き俳優陣が、子役時代からそのまま大きくなった感をさらりと演じているところに今作の質の良さを感じる。そこには子役時代から明確なキャラクター設定をして印象づけ、配役が変わるとすぐさまそのキャラクターを活かした場面を設けて時の隔たりを埋める制作側の意図が読み取れた。

荒川梨杏から福地桃子へ。子役時代の夕見子が印象づけたなつへのライバル心、大人ぶりたがるクールな印象は、実にスムーズに福地へと継がれた。福地に変わって間もなく、農協との問題でギクシャクする泰樹(草刈正雄)と農協勤務の剛男(藤木直人)との板挟みにあうなつに、寝床で夕見子が言った。

 

「なつ、あんたにだって人生を選ぶ権利はあるんだからね」
「どういう意味?」
「あんたが農業高校へ行ったのは、じいちゃんの期待に応えるためでしょ。その上、父さんの期待にも応える必要はないって言ってるの」
「私は好きで高校に行ってるし、好きでここで働いてるの」
「そう? なつはまだどっかで遠慮してるんだよ」
「そんなことない。余計なこと言わないでよ。これ以上ひっかき回さないで」
「ではどうぞご自由に」

 

夕見子は変わってないなと思わせてくれたシーンには、上から目線で子ども扱いしながらも、なつを大切に想う気持ちがブレンドされている。夕見子の言葉にいちいち頬っぺを膨らませるなつに、ふたりが本当の姉妹になったことが証明されていた。

性格も夢も生き方も違うふたりは、知らず知らずのうちに意識し合い、互いの成長を支え合うかけがえのない友となった。それぞれの生き方に邁進するふたりに、“どっち派”問題が勃発し、圧倒的ヒロイン支持派から夕見子派に多くの票が流れることは必至だ。

なつをめぐるイケメン包囲網

不器用でいつもなつに先を越され、歳下のなつに尊敬の念を抱いていた照男の成長も物語を裏切らない。喉元まで出かかっていた想いをぐっと呑み込む抑えのきいた演技は、子役時代の岡島遼太郎から清原翔へさらりと継がれ、いつも正義感溢れる優しい心でなつを見守り続けている。

中学時代、なつに触発され、泰樹に認めてもらいたいと願い続けた照男は、いまでは泰樹が信頼する牧場の働き手に。その静かでナイーブな佇まいは、泰樹の「剛」に対して「静」の魅力で物語に溶け込んでいる。照男の実直で粘り強い心に、なつが救われる場面はこの先も数多くあるだろう。

菓子屋『雪月』の息子で、なつのクラスメイトの雪次郎。いがぐり頭の吉成翔太郎からイケメン山田裕貴への意外なリレーは、変わらぬお調子者っぷりな演技によりすぐさま馴じむことができた。

同じ十勝農業高校のクラスメイトで、なつを演劇部に誘い、いつも戯けながらなつを勇気づける雪次郎特有の友情表現に心が温まる。やがて菓子職人になるため、なつと一緒に上京する雪次郎の役どころは大きく、親友にしてほんのり恋心を匂わせる展開も存分に予想できる。夕見子にぞっこんだった気持ちはどこへいってしまっただろうとツッコミを入れつつ、三人の不思議なトライアングルにどんでん返しも期待できそうだ。

現段階で、天陽(吉沢亮)と雪次郎の接点はない。彼らがどのタイミングで出会い、なつへの関わり方にどのような動きが見られるのか。友情から恋への移り変わりは一瞬なだけに、今後ふたりの些細な表情の変化も見逃せない。それは兄妹として暮らしてきた照男にも言えること、照男になつへの恋心は募るのだろうか。

やがて登場するなつの幼なじみ、佐々岡信哉(工藤阿須賀)も恋のゆくえの鍵を握るだろう。なつをめぐるイケメン包囲網、ここになつの兄、咲太郎(岡田将生)も登場するのだから、朝版トレンディドラマと言っても過言ではない。

雄大な十勝と大都市東京を舞台に、若者たちの心がどのように交差し、ぶつかり合い、離れていくのだろう。「夢」と「恋」、そこにまつわる人間模様、複雑な青春群像。スピッツの主題歌が苦く感じるときこそ若者たちは成長する。茶の間の我々は、朝っぱらから忘れかけていた青春をつまみ食いしながら、甘くてほろ苦い気分をビタミン剤にして、今日一日を乗り切るのだ。

<「なつぞら編①」 「なつぞら編③」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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