鮫島浩×望月衣塑子・徹底対談② 菅前首相の意外な素顔と功罪 | FRIDAYデジタル

鮫島浩×望月衣塑子・徹底対談② 菅前首相の意外な素顔と功罪

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注目のジャーナリスト。鮫島氏(右)と望月氏

気鋭のジャーナリスト、『朝日新聞政治部』(講談社)著者の鮫島浩氏(50)と東京新聞社会部記者・望月衣塑子氏(46)の対談2回目。今回紹介するのは、新聞報道の舞台裏や政治家の素顔だ。

 鮫島 官邸記者クラブで菅義偉官房長官(当時)に突っ込みまくった手腕で一躍有名人になった望月さんですが、実は社会部では特ダネ記者としても有名だったことはあまり知られていません。

望月 いえいえ、そんな……。とは言え、男社会の組織では女性記者は男性記者よりも有利に取材ができていたことは確かでしょうね。政治家でも役人でも相手がおじさんばかりなので、自分の娘くらいの記者が夜な夜な訪ねてきたら「ほんと、お前はがんばっちょるな」と相手してくれる。

もちろん、セクハラ被害と隣り合わせな面があることも否定できませんが、警察でも特捜部でも女性記者のほうがネタを取れていたような気がしますね。ただし、鮫島さんのように「オフレコ破り」でいったん政治家を怒らせるようなテクニックを持つ女性記者がいるのかどうか……。

鮫島 望月さんだってテクニックありますよね。県警担当の支局時代は相当ネタを取っていたと評判です。

望月 刑事部長が毎朝5時にジョギングをしていると聞いて、私もその時間に朝駆けしてジョギングしたりと、けっこう地道にやりました。毎朝ジョギングして「じゃあ、朝飯でも一緒に食うか」となって、食い込んだことはありました。他社からは「望月が刑事部長に食い込んだぞ」と警戒されていたとは思います。ある時、読売新聞が特ダネとして用意していたネタを、私が同着で書いたことがありました。読売の特ダネをつぶしてしまったわけですから「望月に漏らしたのは刑事部長だ」と批判めいたうわさがたちましたね。でも、実は違うんですよ。

鮫島 刑事部長がカモフラージュだったと(笑)

望月 刑事部長とは携帯でつながる間柄だったのですが、彼はとにかく口が堅い。それでいつも「なんで教えてくれないんですか」とケンカしていたんですよ。だから、犯人扱いされて可哀そうなことをしたなと。

鮫島 さすがです。そんな特ダネ記者だからこそ、番記者制度の弊害がよく身に染みているのだと思います。望月さんが官邸記者クラブに批判的な最大の理由ですね。

ネタを取ることと権力批判の違い

望月 官邸記者クラブのひそひそ話ではこんなことも言われていたそうですよ。「もし望月が政治部で安倍番や菅番だったら、NHKで安倍晋三首相に食い込んで特ダネを連発した岩田明子さんのようになっていた」と(笑)。

鮫島 それは望月さんの本質を、まったくわかっていないよね。政治記者クラブに属していない望月さんだからこそ、菅義偉官房長官に噛みついているわけで。

望月 その通りです。岩田さんは新聞協会賞を受賞していて確かに優秀。しかし、ネタは取れるけど権力に対する批判は弱いなとどうしても感じてしまう。かく言う私も、特ダネを取ってもそれを批判的に表現できなかった反省があるわけです。例えば、鮫島さんが『朝日新聞政治部』で書かれていましたが、政権交代前夜の民主党の小沢一郎さんや鳩山由紀夫さんへの東京地検特捜部の捜査はいま考えても異常でした。

鮫島 政治部記者をしていた私から見れば、あの時の特捜部の異様さは際立っていましたね。まさに政権交代が起こる総選挙が迫っている中で、野党第一党の党首に強制捜査をかけるというのは、民主主義のガバナンスを考えたときに検察ファッショとも言える愚行だと感じました。こうした民主主義の危機を指摘するのがジャーナリズムの役割だと考えて、編集局長室に単身で乗り込んで「紙面の最終責任者である編集局長が民主主義の危機であるという論文を一面で執筆し、朝日新聞の覚悟を示すべきだ」と訴えたんです。

望月 そうなんです。番記者ではそういう視点を持てなくなってしまうんですよね。当時は、田原総一朗さんとか、マーティン・ファクラーさんなど日本の既存の記者クラブメディアの外側にいるジャーナリストが、鮫島さんと同じ視点に立って検察批判を展開していました。それが検察番の私にはできなかったという反省に立つと、やはり当時は私もニンジンを目の前にぶらさげられて、ひたすら走っていただけだったと思うのです。そこにものすごい後悔がありました。

近著『朝日新聞政治部』が4万部を超えるヒットの鮫島氏

鮫島 黒川弘務・元東京高検検事長を定年延長させてまで検事総長にしようと菅さんが画策した時も、批判の最中に黒川さんと番記者たちが「賭けマージャン」をしていて大スキャンダルに発展しましたね。

望月 あの人事は検察庁法にも抵触するという意見が検察OBからも出されるほど、異様なものでした。三権分立の要のポストを政治がコントロールしようという意図が透けて見えるのに、安倍政権はお構いなしに閣議決定までしてしまう。ガバナンスのタガが外れる人事を、やはり政権や黒川さんに食い込んでいた一部の番記者たちは擁護する書き方をしていました。

既存メディアは懐に食い込むことだけを評価して、最後に刺すのがジャーナリズムという基本的な理念が失われている。私は官邸記者クラブを批判してきましたが、その悪しき構図は、政治部でも社会部でも同じなのです。

鮫島 だから私は、政治部や社会部どころか経済部までもぶっ潰してしまえと思っています。記者クラブから飛び出した調査報道主体の取材体制を築くことでしか、立ち直れないと思いますね。権力監視の観点から、記者が主体的に取材できるシステムをつくることが、これからのメディアの役割だと思います。

 鮫島 対談の第1回で私は、政治家は「悪い」と言われるよりも「弱い」と言われるほうが嫌だと説明しました。望月さんから見て菅さんはどんな政治家でしたか?

望月 鮫島さんの解説を聞いて、納得がいきました。やはり菅さんは「弱い」と言われたくない政治家なんだろうなと。だからこそ私の批判に強く反発してくるのでしょう。

執筆者への強い圧力

鮫島 言語能力に自信がなく、質問を事前に集めて官僚の用意した答弁書を読み上げる。それでいて、望月さんの質問には威圧的に回答。一方で官僚たちを人事権で支配し、岩盤規制の壁を破っていく突破力を持っています。

望月 その姿勢が空回りして逆に「弱い」印象を受けることがあります。例えば、昨年末に『孤独の宰相 菅義偉とは何者だったのか』という本が出ました。著者は日本テレビの柳沢高志さんという元菅番の記者です。菅首相の姿が赤裸々に綴られています。ある意味で暴露本ですが、一方で首相の孤独や苦悩が見事に表現されて菅さんの人間味あふれる姿も垣間見ることができます。ところが、本が出ると分かった時、菅さんは「原稿を見せろ」「とにかく見せろ」と激高したらしいのです。柳沢さんは検閲を断って、無事出版されました。

鮫島 菅さんはきっと、弱みをさらされ裏切られたという思いでいっぱいだったのでしょう。

望月 そういうところが小さいなと思うわけですよ。本書によれば、そもそも菅さんはソファーに座って「俺の本、書いて良いから」と言っていたそうです。柳沢さんは警視庁担当、ニューヨーク特派員を経て、菅番になっています。いわゆる純粋培養された政治記者ではなくご自身も「食い込むことは手段」であり「何を伝えてきたか」の結果で評価されるべきだと書いています。この気持ちがあるから書けたわけです。記者の本分でもあるのですが、菅さんにはそれが理解できない。

鮫島 おそらく菅さんは柳沢さんを自分の子分だと思い込んでいた。だから裏切られたという感情が先に立っているのでしょう。私は政治家には常日頃「書く」と宣言しているし、その行動をウォッチし続ける政治分析を旨としているので柳沢さんとは流儀が違う。

記者としての活躍は映画やドラマにもなった望月氏

望月 また、菅さんが危ういのは、黒川さんの時もそうだったように官僚たちの恣意的な論功行賞をあまりに露骨にやっちゃうことですね。たとえば、伊藤詩織さんへの準強姦の容疑で元TBSワシントン支局長・山口敬之氏に逮捕状が出た時に、執行を停止させたのが菅さんの元秘書官で当時の警視庁刑事部長・中村格氏だと言われています。

山口氏は安倍首相と関係が深く、著書『総理』で持ち上げていることはあまりに有名です。そんな山口氏の逮捕を止めたことが評価されたのか、中村氏は警察庁長官に上り詰めました。しかも、中村氏が警察庁長官に就く人事が発表されたのは菅さんが総理を退任するギリギリのタイミング。岸田文雄首相に代わってからではできないからと、私的な人事を断行したのではと疑われます。

鮫島 森友学園の国有地払い下げ問題で安倍総理の「私と妻が関係していたら、総理も国会議員も辞める」という答弁を擁護するために決裁文書を改ざんした当時、財務省理財局長だった佐川宣寿氏が国税庁長官に昇格したのと同じ構図ですね。

望月 そもそも警察の中村さんは「起訴できるかどうかわからない」と言い訳していたそうですが、「それは警察が判断することじゃなくて、俺たちが判断するんだよ」と知り合いの検察幹部が批判していました。準強姦の疑いが強いからこそ逮捕するわけですが、強制捜査をするとしないとでは、証拠資料や証言もケタ違いになる。

あげく記者のオフレコ懇で中村氏は「記者クラブの記者長を起訴できる見込みがわからないまま逮捕するなんて、言論弾圧と言われかねない。だから逮捕には踏み切らなかったんだ」「お前たち(記者クラブの記者)に逮捕状が出た時だって俺は同じ判断をする」などと言っていたそうなのです。法治国家の国民で、この理屈を理解できる人はいるのでしょうか。本気でそう思っているのならば、オフレコにせず、堂々と国民に向けて会見で言い切ってほしいです。

鮫島 政治記者も含めた、上級国民だけは守りますよということですね。政治不信を招く最悪の理屈です。

 望月 結局、伊藤詩織さんは孤軍奮闘するしかなくなり、気づけば『BBC』とか『ニューヨーク・タイムズ』などの海外メディアが「日本の闇」「ブラックボックス」と批判を強めていった。これが「ザ・ジャパニーズ・ジャーナリズム」の真相なんです。

鮫島 本当に恥ずかしいですね。

※7月6日14時配信予定「対談第3回」では、これからの政治報道のあるべき形を語り合います。

永田町でも大反響だという鮫島氏の近著『朝日新聞政治部』

さめじま・ひろし 71年生まれ。京都大学法学部卒業後に朝日新聞へ入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、与謝野馨などを担当。21年に退社し「SAMEJIMA TIMES」を創刊し連日無料で公開。「YouTube」でも政治解説動画を積極発信している

もちづき・いそこ 75年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後に東京・中日新聞へ入社。経済部、社会部などで活躍。官房長官会見での鋭い質問は話題となった。著書に『新聞記者』『武器輸出と日本企業』(ともに角川新書)など。

  • 撮影濱﨑慎治

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