「初めてジュントと会ったその日に『世界チャンピオンになる』と確信した。センスはもちろんだが、志の強さが伝わってきた。当時、彼には別のトレーナーがついていたけど、その後、『教えを乞いたい』と父親と一緒に挨拶に来たんだ。これまで数々のチャンピオンと仕事をしてきたが、彼がナンバーワンだね」
２階級制覇を目指し８月中旬からアメリカ・ロサンゼルスでキャンプ中の中谷潤人（24）。彼を15歳のころから指導しているトレーナー、ルディ・ヘルナンデス（59）はそう出会いを振り返った。竹原慎二（50）、畑山隆則（47）、伊藤雅雪（31）らを手掛け、実弟ジェナロを世界王座に就かせたキャリアの持ち主である。
<figure id="attachment_267526" aria-describedby="caption-attachment-267526" style="width: 1280px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c6fe4113"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/f4786886a0c9255b8ea7473b355173d3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267526" class="wp-caption-text">キャンプは計３ヵ月にも及ぶが「門下生たちをプールに誘ってもジュントだけ興味なし。彼は強くなることしか頭にないのさ」（ルディ）</figcaption></figure>
スパーリング開始のゴングが鳴った瞬間、目の前の光景に息を呑んだ。中谷の戦績は23戦全勝18KO。その全てをサウスポーで戦ってきたが、アマチュアの元全米王者を相手にした彼は、オーソドックス（右構え）で動いていたのだ。
中谷のボクシングは攻守の切り替えが速く、相手のパンチをもらわない。スピード感に溢れ、一つ一つの動きに美しさがある。だが、オーソドックスで戦う様には、ぎこちなさを感じた。実際、何発か被弾していた。すると、片目を瞑(つむ)りながらルディが言った。
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「ジュントの良さは、学習することを恐れないこと。才能に加え、貪欲に学ぶ姿勢がある。だから伸びるんだよ」
インターバル中、ルディは中谷に「ロープを背負ってパートナーのパンチをヘッドスリップかブロックでかわし、ショートの強い右アッパーを入れろ」と指示。次のラウンド、中谷は何度もそれを試みる。右構えであっても、高度なディフェンスは生きていた。ルディは続けた。
「私は自分の選手が打たれるシーンは絶対に見たくない。いつだってそうさ。でもトレーニングの段階でディフェンスを磨くからこそ、本番のリングでパンチをかわせるんだ。彼がスイッチをモノにしたら、大きく飛躍するよ」
トレーニングを終えた中谷に、オーソドックスでの練習について訊ねた。
「ルディに『武器って、ピストルもナイフもライフルも手榴弾もあるよな。お前にはオーソドックスが新たな武器になるんだ』って言われたんですよ。彼らしい言い方でした。選択肢を増やせという意味ですよね。無茶苦茶ワクワクしました。僕はプロ13戦目から重心をやや後ろにしたんですが、実は試合の途中で変えたんです。普段から練習してはいたんですが、ルディは常に最適な戦い方を考え、柔軟に対応させる。今回も、いつか出せるであろうオーソドックスでの戦いを身に付けろ、という意図でしょう」
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15歳で単身渡米し、二人三脚を続けてきたルディへの信頼は揺るがない。
「難しいですし、やりづらさはありますよ。相手に対して、どうしても正面を向いてしまう。パンチの精度や身体の使い方も課題ですね。オーソドックスだと、あるタイミングでガードが下がってしまったり、サウスポーなら反応できる局面でも目にする感覚が違うんです。ただ、オーソドックスで戦うことで『サウスポーは遠く感じるな』とか、吸収することがとても多く、楽しく過ごせています。間違いなく、対応力は増しているでしょうね。血となり、肉となっていることを実感しています」
――この人について行けばいい。
中谷は、そう断言した。
ルディは、「ジュントは、スーパーバンタムまでの４階級制覇は問題ない。５〜６階級の可能性もある」と言った。その言葉を受けた中谷も語った。
「自信になりますね。これからのキャリアの積み方、実績の残し方で、そこまで辿り着ければいいなと感じます。一つの目標をクリアしたら、次を見据えてやる、ということの繰り返しでやってきました。ルディの助言が新たなテーマとなるのです。パウンド・フォー・パウンド最強を目指していますから、満足はまったくしていません。山登りで言えば、まだ１合目、２合目だと思っています」
スーパーフライ級転向初試合となる、11月１日のフランシスコ・ロドリゲス・ジュニア戦に注目だ。
<figure id="attachment_267527" aria-describedby="caption-attachment-267527" style="width: 1280px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="26d98ce0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/fb4982afbcba12a82b38f99d61df546e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267527" class="wp-caption-text">この日は、ルディ（左）の指示で７ラウンドを右構えで戦った。「今は被弾してもＯＫ。学んでいる最中だから」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267529" aria-describedby="caption-attachment-267529" style="width: 1280px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="55f6f773"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/fd7705d2800567e6aeffc54c2e0c08f3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267529" class="wp-caption-text">宿舎の近くをロードワーク。マネージャーを務める弟とレンタカーを借りて、ルディのジムに通う日々</figcaption></figure>
<figure id="attachment_267530" aria-describedby="caption-attachment-267530" style="width: 1280px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="61ca2caa"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/2f2b993f3e617dcdb9c01618178543fb.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-267530" class="wp-caption-text">食事も師の教えを厳守。「身長が172㎝あるので（６階級目の）スーパーフェザーもサイズ的には問題ないです」</figcaption></figure>
『FRIDAY』2022年10月14日号

林 壮一（ノンフィクション作家）

WBOフライ級チャンピオンの中谷潤人。現在、２階級制覇を目指してアメリカ・ロサンゼルスでキャンプ中だ。スーパーフライ級での勝利に向けた鍛錬の日々について、インタビューで語った内容とは驚くべきもので……

WBO世界フライ級王者中谷潤人に名伯楽が授けた「新しい武器」

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