追悼『男はつらいよ』佐藤蛾次郎さん「寅さんに愛された素顔」と選挙応援に駆け付けた”男気”

《芸能リポーター・石川敏男の芸能界“あの出来事のウラ側は……”》

大ヒット映画『男はつらいよ』シリーズには欠かせない俳優だった佐藤蛾次郎さんが、自宅のお風呂場で亡くなっているのが発見された。12月10日だったそうだ。

蛾次さんと知り合ったのは松竹時代のこと。松竹を退社してからは会う機会は少なくなっていて、蛾次さんのお店『蛾次ママ』に行った時ぐらいだった。

その店も’20年12月31日で店を閉めた。コロナの影響だと聞いた。

今から約50年前の話になるが、渋谷で飲んでいたオレのポケベルに蛾次さんから連絡が入った。私生活をほとんど見せたことがなかった“寅さん”渥美清さんのお母さんが亡くなって

「関敬六さんと俺で、渥美さんを励まそうとしているけど、一緒にどう？」

という内容。４人で会うことになったが、ホントに渥美さんと関さんは、蛾次さんを信頼しているんだなと感じた。みんなでどんな話をしたか記憶にないが、とにかく蛾次さんが渥美さんを元気づけていた。

そしてもう一つの思い出は、現役の衆議院議員の選挙を応援してもらった時があったことだ。もう28年前だ。

元新日本プロレスの専務・新間寿さんに呼び出され、東京日比谷・帝国ホテルの中華料理店で警視庁の元幹部だった人たちと飲むことになった。その中で

「〇〇くんが東京〇〇区から立候補するんだけど、いいアイデアはないですかね」

という話になった。渥美さんが亡くなった年ということもあって、すぐに浮かんだのが蛾次さんの名前だった。

とにかく下町での『男はつらいよ』シリーズの人気は圧倒的だった。もちろん、蛾次さんの人気も凄い。

「佐藤蛾次郎という俳優がいますが、ご紹介しましょうか？」

と。

「すばらしい、その話に乗りたい」

と、即決で銀座にあった蛾次さんの店に向かうことになった。新間さんも含めて６～７人で向かう。蛾次さんに事のすべてを話して協力を頼んだ。

快く引き受けてくれた蛾次さんは、手弁当で応援してくれることになった。一行はホッと胸をなでおろし

「話をしに来てよかった」

という雰囲気になった。

それからは毎日のように選挙事務所に顔を出し、選挙カーにも乗り続けてくれた蛾次さん。その方は初当選から９期連続で衆議院議員を続けている。超有名政治家だ。

そして何年か前に俳優・田村亮さんが主役で、蛾次さんも出演していた舞台『友情～秋桜のバラード～』という浅草・雷5656会館でのお芝居でもお会いしたことがあった。奥さんを亡くしたばかりの蛾次さんだったが、周囲には知らせないで舞台を務めていた。

お店に小さな仏壇を作り、毎日お参りしていた中での舞台出演。オレもその舞台に出演していて、話を聞いてびっくり。ホントに仲の良い夫婦だった。

二人のお子さんに恵まれた佐藤家。お店でもそうだったが、料理好きで『男はつらいよ』の現場でも出して渥美さんも大好きだった“薬膳カレー”に集まってきていた芸能人も多かったようだ。

そして今年の７月。たまたま行った秋田のクラブで、その店のオーナーが話の流れで

「若いころ佐藤蛾次郎さんに世話になったのですが、そのお礼もいまだ言えてなくて…。『男はつらいよ』も無くなり見かけないのですが、どうしたんですか」

と聞いてきた。電話も知らないという。

まだ時間も早かったということで、蛾次さんに連絡。蛾次さんも覚えていたようで、許可を取り、連絡先を教えてあげた。そのオーナーは

「蛾次郎さんに会いに行く」

と言っていたが、会えたのだろうか…。

本当に面倒見がよく、後輩にも好かれ慕われていた蛾次さん。一緒にお店を切り盛りしていた長男で俳優の佐藤亮太さんは、どんな心境なのだろうか。

気になることばかりだ。ああ、合掌。