役員待遇で現場に残る人もいるが…活発化する「テレビ業界」辣腕プロデューサー移籍&独立の「裏事情」
スタッフは見た!週刊テレビのウラ側
オリコンが調査する最新ドラマ満足度ランキングで2位に入るなど、長澤まさみ(35)主演の『エルピス—希望、あるいは災い—』(関西テレビ・フジテレビ系)は、回を追うごとに評価を上げた。
「冤罪事件へのアプローチを軸にして、テレビ局の裏側を抉(えぐ)り出しているのですが、あまりにリアルすぎて、系列局のフジテレビ幹部や報道部から不満が出たほどでした」(民放幹部)
同作のプロデューサーを務めた佐野亜裕美氏はTBS出身。ここ数年、プロデューサーの移籍やフリー転身が活発になっている。
「佐野氏が『エルピス』の企画を立ち上げたのは6年前のTBS時代。『99.9—刑事専門弁護士—』『カルテット』と立て続けに担当作品がヒットしたにもかかわらず、海外事業部に異動するハメになった。現場にこだわり、『エルピス』を実現できる場所を探していたところ、関西テレビからGOが出たらしく、’20年に同局に移籍。’21年に恩返しとばかり、話題作の『大豆田とわ子と三人の元夫』を生み出しています」(テレビ誌編集者)
『エルピス』では、目撃証言がウソだったことを暴いて冤罪を証明した若手ディレクター(眞栄田郷敦)が経理部に異動。その後、退職に追い込まれているのだが、佐野氏の古巣・TBSの系列局チューリップテレビで似たことが起きていた。
「’16年にチューリップテレビの報道部が富山市議会の政務活動費の不正受給を追及。市議14名が辞職に追い込まれましたが、取材スタッフのほとんどが異動もしくは退社となった。キャスター兼記者として指揮を執っていた五百旗頭(いおきべ)幸男氏も’20年に退社しましたが、石川テレビに転職すると、ドキュメンタリー制作部兼報道部副部長に就任。石川県政のムラ社会ぶりを描いた’22年公開の映画『裸のムラ』で監督を務めるなど、忖度しないジャーナリズム精神が高く評価されています」(映画ライター)
月9ドラマ『恋仲』や『好きな人がいること』を担当し、フジテレビの若きエースとして期待された藤野良太氏は’19年に退社。フリーで活躍している。
「企画・プロデュースを務めた『教祖のムスメ』(毎日放送)は配信を機に話題になりました。ローカル局やネットメディアなど、より制限の少ないメディアで良質なドラマを作れる環境が整ったことで、キー局の地上波番組にこだわらないプロデューサーやスタッフが増えている印象です」(制作会社ディレクター)
プロデューサーたちの移籍や独立が相次ぐ背景には、現場主義にこだわるテレビマンの増加が関係している。
「『アメトーーク!』の加地倫三氏は役員待遇。『ドクターX』の内山聖子氏が取締役に就任するなど、テレビ朝日は制作現場に残りつつも出世する道がありますが、ほとんどの局は出世コースに乗ると、現場から離れなければならない。人気バラエティ『ゴッドタン』を手掛けた佐久間宣行氏がテレビ東京を退社したのも、管理職への出世より現場を選んだため。再生回数に応じてインセンティブが貰える動画配信メディアの普及も、独立や移籍を後押ししている」(前出・制作会社ディレクター)
優秀なテレビマンが現場に残ることで、令和のテレビは面白くなりそうだ。
『FRIDAY』2023年1月20・27日号より
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- PHOTO:菅原 健