「今でも『ドラえもん』を読み返す」…”とうめいマント”を発明した東大教授が創る「次のひみつ道具」 | FRIDAYデジタル

「今でも『ドラえもん』を読み返す」…”とうめいマント”を発明した東大教授が創る「次のひみつ道具」

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

25年前に開発された「とうめいマント」!

頭からかぶると全身が透明になる、『ドラえもん』の「とうめいマント」。これを実際に作ったのは、東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授だ。

「中学生のころ、ロサンゼルスオリンピックの開会式で人がロケットのようなものを背負って、スタジアム上空を飛ぶのを見て、ドラえもんのひみつ道具のようなものを作りたい。テクノロジーをまとうことで、ふつうの人ができないことができるかもしれないと思ったんです」

なんと稲見教授が「とうめいマント」を作ったのは25年前。マントに使われているのは、入射した光を散らすことなく、まっすぐ戻すという特性をもった再帰性反射材。交通標識などにも使われている素材で、この特性を利用して、背景と同じ映像を投射すると、まるで人物が透明になったように見えるのだとか。

それから、これまでに稲見教授の研究室では眼電位が測れる眼鏡「JINS MEME」(JINS社と共同開発)、けん玉が早く習得できる「けん玉できた!VR」(イマクリエイト社と共同開発)など、さまざまな“稲見版ひみつ道具”を開発してきた。

「JINS MEME」を学生にかけさせると、眼電位によってその学生が講義に飽きてきたのか、しっかり理解してテストの答えを書いているのかわかるし、「けん玉できた!VR」はVRでけん玉を練習するもので、最初はスローモーションの動きで基本動作を覚え、だんだんと速度を元に戻していって技術を習得するというもの。この技術を応用して、正確に筋肉注射ができるソフトを開発し、コロナ禍のワクチン注射のトレーニングで利用されたという。

「とうめいマント」の技術を応用して、自動車に装着し、車内から外が見えるようなシステムを京セラと開発中。「後ろの状況を見ながら車庫入れすることができるようになります」(撮影:工藤睦子)
「とうめいマント」の技術を応用して、自動車に装着し、車内から外が見えるようなシステムを京セラと開発中。「後ろの状況を見ながら車庫入れすることができるようになります」(撮影:工藤睦子)

生身の人間ができないことを、できるようにしたい

ふつうの人ができないことをできるようにする研究……「人間拡張工学」が稲見教授の専門だ。体の不自由な人、たとえば足が不自由な人に義足をつけるなど、失われた機能を補うことを「補綴(ほてつ)」と言い、昔から研究が続けられているが、

「補綴はマイナスの状態をいかに“ゼロ”にもっていくかというもの。私が目指しているのは、マイナスを“プラス”にしたり、ゼロを“プラス”にすることなんです。 

これまでできなかったことができるようになれば、非常に喜びを感じられる。たとえば私は昔からスポーツが苦手ですが、技術の力を借りればスポーツで活躍できるようになるかもしれない。そうなったら、うれしいですよね。 

年を重ねていくと、できないことが増えていきますが、それができるようになれば、より未来に希望をもつことができる。そんなことを実現したいと考えています」

理論で伝えるだけでなく、できないことができるようになる楽しさを体験してほしいと、稲見教授は2013年から“超人スポーツ”を推進している。2015年には「一般社団法人 超人スポーツ協会」を設立。バネでできた西洋竹馬を足につけ、上半身は弾力性のある透明な球体をかぶって相手と格闘する「バブルジャンパー」、岩に見立てた腕を装着して対戦相手とぶつけ合う「ロックハンド」などが、それだ。

東京タワーフットタウンに開設された「esportsパーク『RED゜TOKYO TOWER(レッド トーキョータワー)』では、数種の超人スポーツが楽しめる。

ジャンピングシューズを履き、上半身をエアクッションの“バブル”で包んで対戦する「バブルジャンパー」。「ひみつ道具」には人の10倍速く歩ける「快速シューズ」があるが、それも人間拡張の一つかも(画像提供:Team BJ / AXEREAL inc.)
ジャンピングシューズを履き、上半身をエアクッションの“バブル”で包んで対戦する「バブルジャンパー」。「ひみつ道具」には人の10倍速く歩ける「快速シューズ」があるが、それも人間拡張の一つかも(画像提供:Team BJ / AXEREAL inc.)
「人間拡張は心にも働きかけることがわかった。次は心の自在化にチャレンジしていきたい」(撮影:工藤睦子)
「人間拡張は心にも働きかけることがわかった。次は心の自在化にチャレンジしていきたい」(撮影:工藤睦子)

「第3・第4の腕」を世界に広めたい

もう一つ、稲見教授が目指しているのが、自分がやりたいことを、やりたいときに自分の体のように機械がアシストしてくれる“人機一体”のシステムだ。工場でロボットが作業したり、人間の代わりに機械がやるのは“自動化”だが、

「たとえばPCで文字を入力するとき『漢字変換』や『予測変換』で書く能力や、速く文章を作る能力を助けてくれる。このようにAIやロボットにより人間の能力を拡張する。それが人機一体であり、私はそれを“自動化”ではなく、“自在化”と呼んでいます」

稲見教授が今いちばん力を入れているのが、「第3・第4の腕」や「自在肢」。2本や4本のロボットアームを装着して使いこなそうというものだが、そもそも我々の腕は2本しかなく、それ以上の数の腕をどう動かしたらいいかわからない。

「『Fusion』は、装着したロボットアームを、別の人間が遠隔操作するというもので、いわば二人羽織のように装着者と操作者が“合体”して共同作業を行うというものです。

これを応用した『自在肢』は想像力が刺激されることにより、これまでになかった動きが誘発されるような表現の可能性を広げる作品。すでにダンサーの方と一緒に行ったパフォーマンスが披露され、世界中に広めていきたいと考えています」

これが自在に動かせるようになったら、書道の先生が手を添えて書き方を教えてくれるように、ロボットアームが自分の腕をガイドしてスポーツのトレーニングやリハビリテーションにも使えるようになるかもしれないし、ダンサーが自在肢と一緒に踊ってみたら、ジャズのように引き込まれて自然と人機一体になり、新たな世界が広がるかもしれない。我々の生活は、どんなふうに変わっていくのだろうか。

提供:東京大学 稲見・門内研究室&KEIO MEDIA DESIGN

提供:JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト・東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学分野  稲見・門内研究室・東京大学 生産技術研究所機械・生体系部門 山中俊治研究室

今でも『ドラえもん』からヒントを得ています

「今でも『ドラえもん』を読み返すことがあります。新しい技術が入ったとき、生活はどのように変わるのか、人々の動きはどう変わるのか、ものすごくシミュレーションされている。『こういう方向性はあるのかな』と思いながら読んでいます」

教授が開発したものではないけれど、現実になりつつあるドラえもんのひみつ道具もたくさんある。タケコプターとまではいかないけれど、「空飛ぶ車」は、小型航空機の米新興企業ジョビー・アビエーションが「型式証明」を国土交通省に申請し、2025年の大阪・関西万博を起点に関西圏での運航サービス開始を目指している。

「実際の場所以外にいるように見せたり、存在しているように感じさせるテレイグジスタンスは、『どこでもドア』に近いと思います。ロボットに乗り移った感じで、世界中どこでも行ける。 

ドラえもんのひみつ道具に『スモールライト』という、光を当てると小さくなるという道具がありますが、あれもVRゴーグルを使えば、それと近い体験ができるようになった。 これからもドラえもんのひみつ道具は、どんどん実現していくのではないでしょうか。

私はやっぱり飛びたい。今、ドローンに乗ったりできるようになりましたが、操縦がむずかしそうですよね。タケコプターはどうやって操縦しているのかわからないくらい自由に飛べる。まさに人機一体。ああいうものを作ってみたいですね」

稲見昌彦 東京大学 総長特任補佐・先端科学技術研究センター 身体情報学分野 教授。東京工業大学在学時は入学当初より学生サークル『東工大ロボット技術研究会』に所属し、趣味でバーチャルリアリティシステムを多数自作した。東京大学リサーチアソシエイト、マサチューセッツ工科大学コンピュータ科学・人工知能研究所客員研究員、電気通信大学電気通信学部知能機械工学科教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授などを経て現職。再帰性投影技術による光学迷彩(とうめいマント)を実際に開発した研究者として世界的に有名。2003年、米国「TIME」誌 Coolest Inventions 2003に選定。

  • 取材・文中川いづみ撮影工藤睦子

Photo Gallery3

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事