自伝的映画『フェイブルマンズ』製作のスピルバーグ監督 実母が「父の親友と浮気」を告白
映画『フェイブルマンズ』が公開中のスティーヴン・スピルバーグ監督が、米TVのインタビューで、同作で〝母親の浮気〟を描いたことについて語った。
「『フェイブルマンズ』は巨匠スピルバーグ監督初の自伝的作品で、’52年に主人公のサミー・フェイブルマンが、両親に連れられて『地上最大のショー』を見たのがきっかけで、8ミリカメラで撮影を始めた子供時代から、10代になり編集まで手掛けるようになり、高校の同級生らを動員して戦争映画を製作。
やがてハリウッドの扉を叩き映画監督になる夢を叶えるまでを、家族や学校での波乱のドラマを交えて描いた感動作です。第80回ゴールデングローブ賞で作品賞、監督賞を受賞。第95回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門にノミネートされている話題作です」(映画誌ライター)
スピルバーグ監督は、米CBSの深夜トーク番組『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』に出演。司会のコルベアのインタビューに答えて『フェイブルマンズ』の撮影エピソードなどを語り、その中で母親の浮気シーンについて言及した。
「映画では、主人公のサミー・フェイブルマン少年が、家族と父親の親友で会社の同僚のベニーと一緒に行ったキャンプの様子を8ミリカメラで撮影したフィルムを編集しながら、母親とベニーのただならない親密な様子が映っているのを発見してショックを受けるシーンが登場します。サミーは母親を避けるようになり、やがて両親は離婚してしまうのです」(同・映画誌ライター)
監督が
「『フェイブルマン』で描いているのは比喩ではなく記憶なんだ」
と語っているように、ほぼ事実と思われる。サミーは自身を投影した存在であり、サミーが母親の浮気疑惑を発見することを描くのはさすがに抵抗があったようだ。
スピルバーグ監督は、この映画を製作するにあたって、共同で脚本を担当した劇作家で脚本家のトニー・クシュナーと17年前から何度も話しあい、自分の人生について詳しく話す中で
「母が、彼女と父親の親友で、父親のビジネスパートナーと浮気をしていることを知ったという話をしましたが、それは決して公にする必要のないことだと思いました。私はそのことについて、何度も考え直しました」
と語っている。しかし、クシュナーは
「それが、この映画のマクガフィン(小説や映画などの登場人物の動機付けや話を進めるために用いられる作劇上の概念のことで、作中人物の重要なキーアイテム)です。あなたの人生の中心なのです」
と言い続けたという。そして
「私はそれが非常に美しいと思う。この映画で最も素晴らしい瞬間は、『発見の瞬間』かもしれません。サムが、何の疑いもなく、発見の瞬間を迎えるのです」
と語ったという。クシュナーの説得で監督は映画に取り入れることを決心したようだ。
両親の離婚や、映画の中にも出てくるが、ユダヤ人だからといじめを受けた体験などが後の作品に大きな影響を与えたといわれる。
司会のコルベアが
「レンズを通して見える以上に、日常生活で(母の浮気を)見たことはありますか?」
と聞くと、スピルバーグ監督は
「はい。なぜなら、母の行動や、バーニー(映画のベニーに当たる人物)と一緒にいるときに彼女が輝いているのを観察したからです。でも、そのようなことがあったとは思いもしませんでした。母には親友がいて、その親友は偶然にも父の仕事上のパートナーでした」
と語った。
撮影の初日に、衣装の担当がやってきて、監督の話を基に再現された衣装を着た父親役のポール・ダノと母親役のミシェル・ウイリアムズを連れてきたと言われて、
「振り返るとそこには父と母がいた。私は突然泣き出してしまいました。何も考えずに、ただただ、そうなったんです。ミッシェルは駆け寄り、私を抱きしめました。ポールは私の後ろに回り込んでハグしました」
という。
少年時代に体験した「母親の浮気」に正面から向き合ったスピルバーグ監督。3月13日に発表されるアカデミー賞で、栄冠を手にすることはできるのだろうか――。
文:阪本良(ライター)
東京スポーツ新聞社(文化部記者、文化社会部部長)出身。退職後、Webマガジン『PlusαToday』を始め、映画、ハリウッド情報などの記事を書く。日本映画ペンクラブ会員
PHOTO:AP/アフロ