「車より速いスピードに『もうダメだ』」…東日本大震災「10ｍの津波から生還した」70代夫婦の実話

あれから12年――。

2011年３月11日に起きた東日本大震災から長い年月を経たが、多くの人々にとっては決して忘れられない出来事だろう。東北地方を中心に震度６強の揺れが襲い、地震の規模は日本の観測史上最大となるマグニチュード9.0。震災関連死を含めると、亡くなった方や行方不明者は２万人以上にのぼる。

『ＦＲＩＤＡＹ』は震災発生直後から、被災地に入り凄惨な現場の状況を伝えてきた。2011年４月１日号では、10ｍを超える巨大な津波にのまれながら奇跡の生還をはたした70代の夫婦の実話を報じている。再録記事から、自然災害の恐ろしさをあらためて実感していただきたい（内容は一部修正しています）――。

東北地方には、住民約１万5000のうち１万人もの人々が安否不明となった街もある。建物は鉄筋コンクリート製の数軒を残し、大半が破壊され高さ10ｍにおよぶ巨大津波に流されてしまったのだ。

絶望的な状況から、奇跡的に生還した人々もいた。岩手県釜石市で被災した70代の男性Ａさん（当時）も、その一人だ。以下、Ａさんが語った生々しい津波の脅威である。

「凄まじい揺れに驚き、慌てて自宅から外に出たんです。すると海岸のほうから、水が流れて来るのが見えました。水量は少なく透明だったと思います。私は家の中にいる妻に向かい、こう言いました。『水が来たぞ。外に出ろ！』と」

ゴゴゴゴゴという恐ろしい地鳴りの先には……

その直後だ。ゴゴゴゴゴと恐ろしい地鳴りがしＡさんが音のする方向を見ると、空を覆うほどの高さの巨大津波が、電柱や木をなぎ倒しながら迫って来たのである。

「車より速いスピードで、津波は近づいてきます。私たち夫婦は逃げる余裕もなく、アッという間に津波にのみ込まれてしまいました。凄まじい勢いで流され、水面から顔を出すのがやっとです。『もうダメだ。このまま死んでしまうのか』。

そう思った時、目の前に近所の見覚えのある家の２階の窓が見えました。私は必死に窓枠に掴まり屋内に入ったんです。しかし濁流の中には、まだ妻がいます。無我夢中で周囲を探すと、流されている人々の中に畳に掴まっている妻を発見しました。私は室内にあったバスタオルをロープ代わりに、近づいてきた妻へ向かって投げたんです」

幸いＡさんの奥さんはロープを掴むことができ、室内へ引っ張られた。

「窮地を脱した私たちでしたが、恐怖と寒さでしゃべることもできません。しばらくは無言で、ただブルブルと震えていました」

Ａさん夫婦は身体を温めるため、ズブ濡れの服を脱ぎ全裸で抱き合った。身体が温まると、タンスの中にあった若い女性の服を着て水が引くのを待つ。避難所に指定された中学校の体育館に向かったのは、夕方になってからだ。

「避難所では、私たちが逃げ込んだ家の家族にも会いました。私が『娘さんの服を勝手にタンスから出して着てしまい申し訳ない』と謝ると、彼らは『助かったなら何よりです』と笑っていました。避難所での食事は３回ありましたが、おにぎりが２人で一つなどひもじい思いをします。しかし、夫婦そろって生きのびられたのですから本当に良かった……」

多くの尊い命を奪った超巨大地震の被災地では、Ａさん夫婦のような生還劇もあったのだ。【後編：巨大津波で生死を分けた40代男性の一瞬の判断】では、10秒の差で命びろいした被災者の実話を紹介したい。

【後編：巨大津波で生死を分けた40代男性の一瞬の判断】