'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井 光太

毎日下剤を飲みつづけ熱い風呂に２時間…死亡率５％の危険！「激やせ願望女性の壮絶過ぎる実話」

吐き気に襲われ頬がこけ…31歳女性教師がＰＴＳＤとなった教頭の強制わいせつ事件「学校の超甘処分」

ノンフィクション作家・石井光太が社会・事件に迫る！衝撃ルポ

<figure id="attachment_303894" aria-describedby="caption-attachment-303894" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4c5c049a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/IMG_3887-2-1-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303894" class="wp-caption-text">パートナーの壮絶なＤＶから逃れようと家を出ても行き場のない女性は多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>東日本に暮らす軽度の知的障害のある女性は、20歳で結婚してからおおよそ10年にわたって一回り年上の夫によってアパートに監禁されていた。ＤＶ（家庭内暴力）である。</p>
<p>彼女は夫の了解なくしては外出することを許されず、話をする時は常に敬語でなくてはならなかった。夫は気分のままに彼女に暴力をふるったり、性的に弄んだりした。気に入らないことがあれば、２日も３日も食事を取り上げることもあったという。</p>
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<p>そんな彼女が保護されたのは30歳を超えてからだ。その間、なぜ逃げなかったのかという問いに、彼女は次のように話した。</p>
<p><span class="strongInContent">「お金がなかったから（外で）暮らしていけないと思っていました。外へ出たら死ぬしかないって。夫からもそう言われていました」</span></p>
<p>精神的に支配されていた彼女には、そういう思いで夫の傍にいつづけることしかできなかったのだろう。</p>
<p>住居を失った若者世代を追うシリーズ〈ヤング・ホームレス〉では、配偶者からのＤＶによって住居を失った人を度々取り上げてきた。だが、社会には被害者を救うための十分な支援があるとは言えない。</p>
<h2>被害者の73％以上が女性</h2>
<figure id="attachment_303904" aria-describedby="caption-attachment-303904" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c2447eba"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/IMG_3879-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303904" class="wp-caption-text">行き場やお金に困り夜の街で身体を売る女性も（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>日本のＤＶ支援における欠陥。そこに陥る人々の問題に光を当ててみたい。</p>
<p>昨年、警察に寄せられたＤＶ相談件数は、19年連続の増加となる８万4496件に達した。ＤＶとは配偶者やパートナーからの暴力を意味する用語であり、被害者の73.1％が女性だ。</p>
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<p>ＤＶ自体は、時代劇でも描かれるように古くから起きていたことだ。それが時代の流れの中でだんだんと社会問題として認識されるようになり、’01年には通称「ＤＶ防止法（配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律）」が施行された。</p>
<p>法律ができたことによって、ＤＶの被害者を保護しようという機運が日本全体に広がった。そして公的機関や民間機関による相談窓口が設置され、被害者をシェルター等で一時的に保護し、社会的自立へとつなげる仕組みができ上がったのである。</p>
<p>にもかかわらず、ＤＶ防止法ができてからも、依然として多くの事件が起きている。なぜなのか。理由の１つに、近年のＤＶの変化が挙げられる。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="変化したＤＶの中身とはーー。"></div>
<figure id="attachment_303895" aria-describedby="caption-attachment-303895" style="width: 3468px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c40823c2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/20230323_152334-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303895" class="wp-caption-text">ＤＶの被害女性をサポートしている「Ｊｉｋｋａ」の遠藤氏</figcaption></figure>
<p>被害者支援を行っているＮＰＯ法人「くにたち夢ファームＪｉｋｋａ」の代表である遠藤良子は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「昔のＤＶは殴るとか蹴るとか、肉体的な暴力がほとんどでした。しかし、ＤＶ防止法ができて、配偶者への暴力行為はしてはいけないことだという認識が社会に広まったことによって、今度は主に言葉によって精神的に配偶者を追いつめる形のＤＶが増えていったのです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">具体的には、配偶者に対して怒鳴り散らす、貶めるようなことを言う、生活費を与えない、嫌がる性行為を無理強いするといったことです。これによって、暴力ではなく、言葉によって精神を支配する傾向が高まりました」</span></p>
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<p>ＤＶは主に「身体的ＤＶ」「精神的ＤＶ」「経済的ＤＶ」「性的ＤＶ」の４つに分類される。近年の特徴としては「身体的ＤＶ」以外の割合が高まっているということだ。</p>
<p>ちなみに、これは親から子への児童虐待や、子供同士のいじめでも当てはまる。家庭では親の暴力や体罰が厳しく禁じられたことによって言葉による心理的虐待が増加したし、学校では校内暴力が厳しく取り締まられたことでいじめが増加した。</p>
<h2>「バカが子供にうつるだろ」</h2>
<figure id="attachment_303905" aria-describedby="caption-attachment-303905" style="width: 1477px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="8a13d4a6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/0FBE6E2F-6156-4DA8-B906-8C1400881145-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303905" class="wp-caption-text">ＤＶの被害女性をサポートしている「Ｊｉｋｋａ」</figcaption></figure>
<p>国が行っているのは原因療法ではなく、上辺だけの対症療法だ。ゆえに、１つを押さえつけても、それが別の問題になって現れるだけなのだ。</p>
<p>読者の中には、それでも身体的ＤＶが減ったのだからいいのではないかと考える人もいるかもしれない。これは大きな間違いだ。</p>
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<p>身体的な暴力が減ることによって、たしかに被害者の直接的な命の危機は減ったかもしれない。だが、その後の人生を考えると、精神的なダメージを負うことの方が難しい状況に陥ることがあるのだ。</p>
<p>私が取材した女性の中に、Ａ美という女性がいた。彼女は19 歳の時に38歳の男性と結婚した。翌年には子供が生まれ、彼女なりにがんばって子育てや家事に取り組んだが、夫にとっては不十分だったようだ。夫は言葉で彼女を追いつめていく。</p>
<p><span class="strongInContent">「おまえみたいなバカは家の中でしゃべるな。バカが子供にうつるだろ」</span></p>
<p><span class="strongInContent">「ブサイクな顔を見ると不愉快だ。俺が家にいる時はトイレに隠れてろ」</span></p>
<p><span class="strongInContent">「金も稼げねえ奴に俺と同じメシを食う資格はない。朝昼晩の食事は食パンで十分だ」</span></p>
<p>こんな言葉を日に何十回と浴びせかけたのである。彼女は罵倒されているうちに自己否定感を膨らまし、私なんて生きていても仕方のない人間なんだと考えるようになった。そして心を病み、何度も自殺未遂をしたのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="男性が女性に暴力をふるうワケ"></div>
<figure id="attachment_303906" aria-describedby="caption-attachment-303906" style="width: 3468px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5b0ea864"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/20230323_152214-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303906" class="wp-caption-text">「Ｊｉｋｋａ」に設置されたハンドメイドコーナー</figcaption></figure>
<p>最終的に、彼女は医療機関と自治体の介入があって保護された。だが、一度刻まれた心の傷はいえることがなく、15年以上経った今も、心を病んだまま働くことさえできずにいる。</p>
<p>このように、精神的ＤＶは被害者の心をズタズタに引き裂き、死へと追いつめることさえある。</p>
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<p>ところでＤＶはなぜ起こるのか。男性が加害者であり、女性が被害者の場合について、先の遠藤は次のように言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「日本にはまだ家父長制の空気が残っています。男性が権力を握って妻子を養うことによって家庭が維持されるという考え方です。しかし、現在の日本社会は不況の影響もあって、男性だけでは家庭を維持しにくくなっていますし、大きなプレッシャーもかかります。</span></p>
<p><span class="strongInContent">もし日本の社会に、男性が堂々と『俺だけじゃ無理だ。ごめん。一緒にがんばろう』と言える空気があればいいでしょう。でも、それがないから、男性の方も限界になって、ストレスを妻にぶつけるようになるのです。女性にしても、社会で活躍して男性に依存せずに済んだり、完璧に家事をこなせたりするような人ばかりではありません。</span></p>
<p><span class="strongInContent">生まれつきの特性や性格、それに育った環境によって、家庭をうまく築けない人とか、他人と一緒に過ごすことができない人というのが一定数いるのです。でも、そういう女性もまた家父長制の中で良き妻を演じることを強いられる。それでうまくいくわけがありませんよね。この時に夫のいら立ちがＤＶとなって女性に向かうこともあるのです」</span></p>
<h2>整わない救済システム</h2>
<figure id="attachment_303907" aria-describedby="caption-attachment-303907" style="width: 3468px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="aab351ea"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/20230323_152244-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303907" class="wp-caption-text">ＤＶの被害女性を温かく迎える「Ｊｉｋｋａ」</figcaption></figure>
<p>実際にＤＶ被害を受けた女性の中には、冒頭の女性のように知的障害や発達障害、それに精神疾患などのある女性も一定数いる。本連載の記事【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/297380">母子生活支援の女性たち「ネグレクトや路頭に迷った」子供時代</a>】でも、母子生活支援施設によっては、ＤＶ被害の女性の半数以上がそれに該当することを見てきた。</p>
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<p>もちろん、大半の女性はそうした特性があっても立派に家庭を維持しているはずだ。しかし、ＤＶ被害者に焦点を当ててみると、そうした女性がより大きな不利益を被っていることが浮き彫りになるのである。</p>
<p>にもかかわらず、日本の社会には、そうした女性たちをうまく救うためのシステムが整っていない。なぜ、そうした事態に陥っているのか。</p>
<p>ＤＶ被害者救済の現場で起きている現実については、【後編：支援者が明かす「ＤＶ被害者」の画期的自立メソッド】で詳しく述べたい。</p>
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<p>【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/303908">後編：支援者が明かす「ＤＶ被害者」の画期的自立メソッド</a>】</p>
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石井光太

「バカが子供にうつる」「家ではしゃべるな」……。夫から壮絶なＤＶを受けた女性の実態です。被害件数は19年連続で増加。深刻化しています。ノンフィクション作家・石井光太氏が描く壮絶なルポ「前後編」です。

「家でしゃべるな」「トイレに隠れてろ」…19年連続増加「ＤＶ被害の女性たち」生々しい実態ルポ

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