フリーアナウンサー神田愛花　新人時代に洗礼を受けた「ネイル」「履き物」「家賃」

神田、おめでとう！　神田の初任地は……福岡放送局に決まりました。いいなぁ、福岡は楽しいぞぉ。美味しいものもたくさんあるしなぁ。君にとっては縁もゆかりもない土地かもしれないけれど、行けばきっとわかる。君のことを待ってくれている人、君のことを必要としてくれている人が必ずいるから。それを信じて一生懸命頑張ってきなさい！

私がＮＨＫアナウンサーとして最初の赴任地を言い渡されたとき、新人研修の先生たちはこんな言葉をはなむけに送り出してくれた。

私を待ってくれている人、私を必要としてくれている人……かぁ。どんな人たちなんだろう！楽しみだな！　とワクワクドキドキしながら、2003年6月、NHK福岡放送局での勤務がスタートした。

新人アナウンサーは入局すると全員必ず、新人研修後の６月から、東京以外の局に赴任する決まりだ。

一応研修中に希望赴任地を書かされる。私は決まりに関係なく、第１希望＝渋谷（理由：実家から近いから）、第２希望＝横浜（理由：自分にとって故郷だから）、第３希望＝札幌（理由：寒冷地は肌がきめ細かくなると聞いたので）と書いたが、結果は真逆の方角の福岡だった。

それまでずっと実家暮らしだった私は、福岡での生活が初めての一人暮らし。部屋は１日で決めないとならないが土地勘はゼロなので、「緊急時はすぐ局に出て来られる場所にしたほうがよい」という先輩のアドバイスのもと、局から徒歩７分のマンションに決めた。築年数が浅く、高級感のある内装。しかも８階で、窓からは公園が見える、45平米。東京なら家賃15万円はするのでは!?　と思ったが、なんと７万円台！　こんな格安物件を見つけたんだから、きっと上司から褒められる〜!!　と思ったが、契約後に話してみると、福岡局在籍のアナウンサー（15人、20〜50代）の中で一番高い家賃だということが判明し、贅沢だと言われた。

「家賃滞納のお知らせ」

さぁそこからが大変。毎日何かしら一つは、注意を受ける日々だった。

まずはネイル。フランス人の手元に憧れて赤のネイルをしていたら「その色で殺人事件のニュースを読んでみろ。血を連想させるだろ」。次に靴。ケイト・スペードの可愛い突っ掛けサンダルを履いていたら「緊急時にその靴で走れるのか？」。次は持ち物。泊まり込みで人質事件の被害者家族に取材をする際、ちゃんとしなきゃと英国王室御用達ブランドの赤のスーツケースで行ったら「そんな派手なモノとこの現場、合うと思うのか？」。

私の一挙手一投足が社会人として未熟すぎて、すべての注意がごもっともだった。先輩方が私のせいでヘトヘトという状況の中、極めつけの出来事が起きた。

赴任して３ヵ月が経った９月。自宅のポストに「家賃滞納のお知らせ」なるものが投函されていた。なんでだろう？　仕事どころじゃないじゃん！　と、すぐさま上司の元へ。

「すみません！　家賃が支払われていないんです！　なぜでしょうか！」

と動揺しながら大きな声で聞くと、沈黙が走った。そして上司が落ち着いた低いトーンの小さな声で、

「おまえ。家賃払ってないのか？」

「私は払っていません！　家賃は局が払うんですよね！」

「契約するときに引き落とし口座を書かなかったのか？　家賃は自分で払うんだぞ。当たり前だろ……。なんでそんなことも知らないんだ!!」

驚愕だった。家賃って自腹なの!?

そう、実はこの出来事が起こるまでずっと、実家から通えない場合の家賃はすべて、ＮＨＫが払うものだと思い込んでいたのだ。ヒョエー!!!　どうりで格安物件を見つけても褒めてくれなかったわけだわ！　私が支払うんなら関係ないもんね！　だから先輩方はもっと安いお部屋に住んでたのか！　納得!!　と、とてつもなく深い合点がいった。

と同時に、３ヵ月分の家賃なんて通帳に残っていないことに気がつき、冷や汗が出てきた。すぐさま廊下に移動し、小さな声で母に電話。出世払いということで、一旦お金を借りた。

どうだ。これが私のＮＨＫアナウンサー１年目の、春から夏だ。こんな感じだったが今でもピンピンしている！　読んでくれている新社会人の君。社会は落とし穴だらけで怖いぞぉ!!　思いっきり頑張りたまへ！

1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2023年4月21・28日合併号より