『まんぷく』ラーメン開発に苦戦も 萬平を信じる美しき家族愛 | FRIDAYデジタル

『まんぷく』ラーメン開発に苦戦も 萬平を信じる美しき家族愛

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して 第8話

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、週ごとに内容を振り返る。今回は大人気放送中の『まんぷく』第17~18週から。

NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより
NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより

人を幸せにできるラーメンを作りたい

真面目で愚直でお人好し。溢れる正義感が自分の首を絞めることもある。不器用極まりない萬平(長谷川博己)を献身的に支える福子(安藤サクラ)はいかなる苦境に立たされても弱音を吐かない。萬平のインスタントラーメンづくりへの情熱が福子を煌めかせるのだ。

ラーメンという巨大な魔物に何度撥ね返されても挑み続ける萬平と福子。物語はスポ根にも似た様相を呈してきた。“お湯を注いで3分間”。世紀の大発明を前に、ふたりの苦難が出汁や旨味となるのはいつの日か……。

17週。池田信用組合の理事長職を辞職した萬平は、持て余す時間の中で相変わらず多忙な福子の日常を顧みる。

「いちばん大変なのは、毎日の食事を考えることです。萬平さんが言うたでしょ。人にとって何より大事なのは食べることって」

福子の言葉にいくつもの思い出を巡らせる萬平。そこにはいつも食べることの意味があった。戦後の闇市で見たラーメン屋の行列、塩づくりをしていたときに社員たちと食べたラーメンの感動、福子との初デートもラーメン屋‥…どの思い出にもラーメンを食べる喜びがあった。

「みんなラーメンが食べたかったんだ。どうして家でラーメンが食べられないんだ。あんなに人を幸せにしてくれるラーメンが」

思い立ったようにラーメンづくりを決意した萬平は、福子の漬け物づくりの話をヒントに一夜漬けラーメンを思いつくが、問題は山積された。

①美味しいこと
②安く買えること
③便利であること
④常温で保存できること
⑤安全であること

毎日家でラーメンづくりの研究に没頭する萬平、そこにふたりの子どもが服を汚して帰宅した。

「学校で言われたんや。お前の父ちゃん、信組の理事長クビになってルンペンになったんやろって。ルンペンやない、ラーメン作るんやって言ったらまた笑われてケンカになって」

ラーメンづくりを嫌がる子どもたちに、福子が一喝する。

「ウチは貧乏になったけど、あなたたちに不便な思いをさせたことはありますか。お父さんは誰も考えつかなかったものを作って、みんなを笑顔にする発明家やの」

子どもたちを叱る福ちゃんは強くて美しい。褒めて頭を撫でるよりも、厳しく愛をぶつける姿に心が震える。

「そのうちきっとあなたたちを馬鹿にした子たちも、お父さんが作ったラーメンをおいしいって笑顔で食べてくれるようになります」
「ほんま? お父さん」
「ああ、お母さんの言う通りだ」

親子が信じ合うことが家族が幸せになるただひとつの条件。福子が子どもたちに叱りながら教えた言葉は、萬平の心にも響いた。子どもたちが負った傷口は、福子の愛情で瘡蓋となり、より逞しい皮膚となる。

萬平のものづくりの原動力は「否定」である

18週。鈴(松坂慶子)の発案で『即席ラーメン』と名付けられたラーメンづくりは、福子たちの自宅裏に作られた『即席ラーメン研究所』でさらに研究が進められた。スープの出汁を鶏ガラに選定したもののなかなか上手くいかず、ひと山越えては家族に味見をしてもらうことを繰り返す。克子(松下奈緒)や忠彦(要潤)が「おいしい」と口を揃えるが、鈴は「私はおいしいとは思いません」と厳しい評価。時折出る武士の娘らしい鈴の発言に福子も同調する。

「世の中の人をびっくりさせるようなラーメンを作ろうとしているんやったら、この程度の味で満足してはいけないと思います」

味に改良を重ね、ふたたび試食会をしても鈴の口元は緩まない。

「むしろ最初の方がおいしかったかも」

萬平のものづくりの原動力は否定だ。自己否定を繰り返し、緻密な作業でほころびを修正し、ここぞと勝負に出ては否定され、悔しさをバネにまた研究に没頭する。

否定を重ねることで失敗の質を上げ、諦めない心を培いながら希望へと向かう萬平に、神部(瀬戸康史)や塩軍団は惚れ込んだ。それが唯一、人を幸せにできる術であることを萬平自身も知っている。萬平の心が折れないように、そっと寄り添う福子の広い愛。福子にとって萬平はでっかい子どもみたいなものなのだろう。

福子と萬平以外にも場面は展開し、タカ(岸井ゆきの)が神部との子を授かり、真一(大谷亮平)は再婚したいと福子に相談を持ちかける。真一に、鈴や克子家族たちを紹介された交際相手の好美(東風万智子)が言った。

「私は真一さんが愛した前の奥さんも、真一さんが大事にされている皆さんも全部好きになりたいんです」

好美から、真一の家で、忠彦が病床の咲(内田有紀)のために描いた桜の絵を見たときの思いを伝えられ、鈴はふたりの再婚を心から祝福した。それは福子の夢枕に現れた咲の願いでもあった。

ラーメン作りも物語も一歩一歩進む

ようやく鈴と福子に「おいしい」と言わせてスープは完成したが、新たに麺づくりの壁がそびえる。お湯をかけるだけでおいしいラーメンを完成させるには、スープを麺に練り込まなければならない。さらに常温保存という難題も。

悩みが絶えない萬平、そこに息子の源がまた顔にケガをして帰ってきた。萬平にケガの理由を聞かれ、妹の幸が答えようとすると、源が「言うな」と幸の口を止めた。福子が、前にいじめられた子がまた萬平のことを悪く言ったのでケンカになったと告げると、源は「勝ったで。泣かしたった」と胸を張った。逞しくなった息子に、萬平は頑張る気持ちに拍車をかけた。

福子の力を借りながらさまざまな実験を繰り返す萬平だが、思い通りの麺は完成しない。いいところまでいってもまた振り出しに戻される。ようやく完成したスープで煮込んだ麺もお湯をかけたら味がしない。腐って酒に酔う萬平を諭すように福子が言った。

「新しいものを生み出す苦しみは、あなたがいちばんわかってるはずでしょう。一歩一歩、ときには何歩も下がってまた一歩。そうやって苦労するからこそいいものができるんやないんですか」

とろけた目をキリッとさせ、萬平が腹を括る。

「全部やめだ。根本から考え直す」

麺づくりはまたしてもゼロからの出発となった。

今週(19週)のテーマは『10歩も20歩も前進です!』。急ぎ足で列島を吹き抜ける春の風は、福子と萬平に煌めきの時を連れて来るのだろうか。ここのところコミカル班担当となった克子の家では、檀密登場でハリケーンの予感。

ところで萬平があれだけ心を尽くした織田島製作所の件はどうなったのだろう? このままフェードアウトではあんまりである。ラーメン完成の暁には一肌脱いでくれると信じたい。なにはともあれ福は内。節分明けの福ちゃん、今週も前髪ちょんちょんしながら奮闘願います!

<「まんぷく編⑦」 「まんぷく編⑨」>

朝ドラに恋して「なつぞら編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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