ラーメン誕生まで苦節20週 感動で視聴者の胸が『まんぷく』に | FRIDAYデジタル

ラーメン誕生まで苦節20週 感動で視聴者の胸が『まんぷく』に

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して 第9話

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、週ごとに内容を振り返る。今回は大人気放送中の『まんぷく』第19~20週から。

NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより
NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより

すべての苦難は、最高のまんぷく感を味わうためだった

あるロックスターは言った。「100点満点のステージよりも、足りない1点を探しながら進化する99点のステージの方が最高だ」

萬平(長谷川博己)の挑戦は失敗の連続である。いいところまでいっても妥協を許さず振り出しに戻る。完璧主義の萬平が何度くじけそうになっても心を折らずに挑戦し続けられたのは、福子(安藤サクラ)ら家族の支えがあればこそ。失敗から学び、失敗の質を上げ、ぼやけた希望に輪郭をつける。最高のまんぷく感を味わうためには、希望をあきらめない空腹期間が必要なのだ。

19週。その日も失敗を重ねる萬平に福子が言った。

「また一歩進んだということです。さぁ次を考えましょう」

肩を落とすのではなく、失敗からヒントをたぐり寄せたと激励する福子は、萬平にとって偉大なモチベーターである。その頃、忠彦(要潤)は、絵画モデルの秀子(檀蜜)から画家としてのあり方に疑問をつきつけられていた。

「先生、もっともっと冒険しなきゃ。絵そのものの概念をぶち壊すのよ」

そう言うと秀子はレコードを大音量にして踊りはじめた。克子(松下奈緒)ら家族はただならぬ不安感に見舞われ、忠彦は自分が描く絵そのものを疑いはじめる。既成概念からの脱却、価値観の崩壊、直感との対峙、そしてついに忠彦は新境地を開拓し、あらたな作品を描き上げた。克子らには不評なその絵を、萬平は「おもしろい」と、福子は「見ているとウキウキした気分になってきます」と讃えた。

それは自らの壁を破った忠彦への敬意だったのかもしれない。そして萬平は失敗を繰り返す中、台所で福子が天ぷらを揚げるのを見て閃いた。即席ラーメンの条件を満たすものは天ぷらだと。

福子は表のプロデューサーで、鈴が影のプロデューサー

20週。ヒントは日常のそこかしこに溢れ、何気ない光景に閃きを覚えることがある。天ぷらで揚げた麺は湯をかければ戻り、香ばしさも加えられる。その味覚と食感に萬平は震えた。

「とうとう完成ですね、萬平さん」
「何を言ってるんだ福子。まだまだこれからだ」

99点からどれだけのものを上積みすれば納得するのだろう。萬平がとことんまでこだわり続けるのは、人の口に入れる『食品』を開発しているからだ。安全で安心で安価な日常的なそれは、人の身となり力を支える要となる。直感的で好奇心旺盛、時には家族を顧みることさえ忘れ研究に没頭し、逆風が吹きつけるほどに燃え上がるピュアなマゾヒスト。それが萬平のロマンチシズムでもある。

閃きはさらなるアイデアを誘引し、鉛筆で書いた輪郭に色をつけていく。栄養学の権威・近江谷大学教授(小松利正)より、揚げラーメンの化学的根拠の裏付けをもらい、萬平の研究意欲は加熱する。試行錯誤を重ね、揚げる温度を設定し、揚げるための金枠を作り、麺はあらかじめ揉んで縮れさせる。細かな修正作業を施し、ついに即席ラーメンは完成に近づいた。

試食会は克子の家と『パーラー白薔薇』で行われ、最後まで味に懐疑的だった鈴(松坂慶子)と世良(桐谷健太)も舌鼓を打ち、全員一致で合格点を出し、ついに即席ラーメンは完成した。

感激のあまり顔をくしゃくしゃにしながら抱きついてきた萬平を、鈴は子どもをあやすように、ぽんぽんと肩を叩いて褒め称えた。調子外れで都合が悪いことには耳を貸さない鈴は、実は影のプロデューサー。自分が小言を言うことで家族の調和をつくり、中途半端な段階では賛辞を言わず、家族に一目を置かせてから最後の最後にOKを出す。家族のために、いざとなれば脇差で腹を斬る覚悟もある正真正銘、武士の娘なのだ。

こうして完成した即席ラーメンは、福子により『まんぷくラーメン』と名づけられ、「萬平と福子で『まんぷく』や」と息子の源が補足し娘の幸が大喜びする。家族平等に手柄を分配する演出に拍手を送った。

真一、世良、忠彦がそれぞれの得意分野でラーメンを後押し

画期的な『まんぷくラーメン』の発明に、真一(大谷亮平)は池田信用組合を辞めて一緒に働かせてほしいと、世良は『まんぷくラーメン』を売らせてほしいと懇願する。値段設定、商業戦略、イメージの確立など問題山積の中、包装デザインを忠彦に依頼することに。タカ(岸井ゆきの)が茂(瀬戸康史)との第一子を出産し、家族が幸せを実感した瞬間、忠彦にデザインアイデアが閃いた。

「以前の忠彦さんだったら、こういうお願いはしていません」

萬平からの依頼は、心のままに絵筆を走らせる画風を得た忠彦への挑戦状だったのだろうか。忠彦は見事にリクエストに応え斬新な包装デザインを完成させ、「次は君の番だ」と、萬平から投げられたボールを返球した。

その後、世良が決めてきた老舗の大手百貨店出店に向けて、一家総出のまさに家内制手工業状態に。過労で倒れた福子に代わり、またしても鈴がブシムス魂を発揮して泊り込みの臨戦態勢に入った。鈴の奮闘のおかげで福子は回復し、またラーメンづくりを手伝えるようになった。

「毎日朝から晩までひとりでラーメンを揚げて嫌になりませんか?」
「ならないよ。楽しくてしょうがない」
「みんな楽しそうに手伝うてくれてます。源や幸は袋詰めしながらつまみ食いしてるんですよ」
「僕もときどきつまみ食いしてるよ」

百貨店での発売日前夜、興奮して眠れない萬平が言った。

「福子が僕の奥さんじゃなかったら『まんぷくラーメン』はできなかった」
「萬平さん…」
「ありがとう福子」

素朴な言葉が胸を打ち、これまでの苦難の数々が思い起こされる。単なる視聴者である筆者も苦労を共にしてきたような気分になり、お腹より先に胸がまんぷくになってしまった。

そしてついに、『まんぷくラーメン』は世の中に登場した。NHK大阪制作の前々回作品『ぺっぴんさん』でキアリスが百貨店デビューしたときと同じ状況は避けられないだろうが、それでも大阪の街は瞬く間にまんぷくになっていくはずだ。

<「まんぷく編⑧」 「まんぷく編⑩」>

朝ドラに恋して「なつぞら編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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