桐谷健太、奥田瑛二、松坂慶子の3人に泣かされた『まんぷく』 | FRIDAYデジタル

桐谷健太、奥田瑛二、松坂慶子の3人に泣かされた『まんぷく』

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して 第10話

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、週ごとに内容を振り返る。今回は大人気放送中の『まんぷく』第21~22週から。

NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより
NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより

まんぷくらーめんをめぐる抗争が勃発!

毎朝わずか15分でも半年間の長丁場となればテレビの向こうの出演者はもはや家族。それを大袈裟と言うなら親戚ぐらいに留めておこう。気がつけば筆者はちゃぶ台を囲んで座り、源と幸に挟まれて萬平(長谷川博己)と福ちゃん(安藤サクラ)の話に耳を傾けている。鈴(松坂慶子)が膝を折り、真一(大谷亮平)と世良(桐谷健太)があぐらをかき、玄関先で克子(松下奈緒)と忠彦(要潤)の声がする。

役者たちが家族のために心をぶつけ合う週6話の人生教科書。桜の頃まで、このちゃぶ台を離れられそうにない。花粉症よりもまんぷくロスの兆候で目を腫らしそうだ。

21週。デパート発売したものの、足踏み状態が続くまんぷくラーメンだったが、栄養学の権威・近江谷大学教授(小松利昌)の協力により国立栄養研究所のお墨付きをとりつけると一気に売れ始める。福子がテレビCFに目を付け、自らが出演するCFを仕掛けると全国の問屋から注文が殺到する。

家族だけでは生産が追いつかなくなり、神部(瀬戸康史)や岡(中尾明慶)、森本(毎熊克哉)、克子の次女・吉乃(深川麻衣)らを呼び寄せ社員を増員。工場も拡張し売り上げが大幅アップしたのもつかの間、世の中にはあっという間にまんぷくらーめんのニセ物が氾濫した。

しかも、まんぷくラーメンよりも値段が安く売れているのだ。数ある粗悪品の中で、唯一、味がそっくりなものがあった。テイコー食品の『本家まんぷくラーメン』だ。その裏側では萬平の会社で働いていた坂部(今野浩喜)が産業スパイ役を働いた予感が。

早速テイコー食品に乗り込んだ萬平たちだったが、社長の猿渡(田中哲司)はのらりくらりと躱した挙げ句に、「ウチが最初に作ったんや」と開き直る。おまけに宣伝用ポスターには無許可で福子の写真を使用。まんぷくラーメンをめぐる抗争が勃発した。

萬平のダークサイドが出現するも……

22週。粗悪品による食中毒が新聞に載り、萬平たちはニセ物を出している会社に発売中止の警告書を送るが、テイコー食品だけは応じなかった。社長の猿渡は「偉大な芸術家はマネすることからはじまるんや」ともっともらしいことを言うと、「ウチは本家やで。本家には本家の意地と誇りがあるんや」と一歩も引かない。

即席ラーメン製造の特許申請がようやく下り、福子、鈴、世良、真一が胸を撫で下ろす中、萬平が鬼の形相で吐き捨てた。

「ざまぁみろ」

心の奥底に潜む憎悪、復讐心。人間の性の醜さを萬平に見た福子の表情が青ざめる。台詞をあてこまず、人の心模様を巧みに映し出すのも今作の魅力である。

特許をとったところで、即席ラーメンを先に作ったのはウチだと、猿渡は先使用権をかざして一歩も引き下がらない。そこで岡と森本が坂部を追いつめ、ついに自白させた。

証拠を揃え裁判を持ちかけた萬平に、ついに猿渡が降参。萬平が意気揚々と家に帰ると福子に叫んだ。

「勝ったぞ福子。これでまんぷくラーメンのひとり勝ちだ」

敵を打ちのめして歓喜する萬平は人が変わってしまったよう。福子はたまらず萬平に心を打ち明けた。

「私は今でも『僕は世の中の役に立つ仕事がしたい。みんなが喜んでくれるような仕事を』といった萬平さんの言葉が忘れられません。でも今の萬平さんはみんなを喜ばせていません。まんぷくラーメンができなければ、ニセ物は出回らなかったんです。萬平さんにも責任があるんやないですか?」

ともすれば正義感のはき違え、お人好しにもほどがあると言われても仕方ない福子の言葉が突き刺さる。この言葉がやがていつもどおりの萬平の心を取り戻すきっかけに。福子が続けた。

「ひとり勝ちやって喜んでる萬平さんは嫌いです。あの頃の萬平さんなら、こういう身体に悪いものが出回っていることを嘆いていたはずです」

見失っていたものに気づかせてくれた言葉に、萬平の目から険しさが消える。朝ドラならではの爽やかなラブストーリー。

福子の気持ちに応えるように、萬平はまんぷくラーメン製造の特許を開示し、即席ラーメン業界全体を盛り上げようと提案するが、ライセンス契約する業者は現れず、福子に相談を持ちかけられた世良は、萬平の言うことを“きれいごと”だと一蹴した。

「きれいごとは通りませんか? 私は萬平さんが正しいと思うことを貫いてほしいんです。萬平さんが純粋でいられたのは世良さんのおかげです。世良さんがいてくださらなかったら萬平さんはここまでこれませんでした。萬平さんのきれいごとを通してあげられるのはあなたしかいません」

福子の純真に世良が寄り切られる。

「しゃぁないなぁ。そこまで言われたら断るわけにいかんやないかい。僕が立花君を助けたろ! でもな、立花君が頑張ってこられたのはきれいごとを通したからやない。福ちゃんがおったからや」

世良さん、あなたも萬平さんと福ちゃんとの関わりの中で、こんなにも清い心を育んだのですね(涙その壱)

安藤サクラの実父・奥田瑛二の演技が光った

福子との約束を実行すべく、世良は東京で元食糧庁長官で衆議院議員の土井垣(奥田瑛二)との約束をとりつける。早速、萬平が上京し、世良共々、土井垣に特許を開示したもののうまくいかないことを告げた。

「消費者の健康を最優先したい」という萬平らの発言に、土井垣は「粗悪品がなくなることで最終的には君たちの会社が利益を得ることができるんじゃないか」と切り返す。

安藤サクラと奥田瑛二の親子共演に大興奮
安藤サクラと奥田瑛二の親子共演に大興奮

「でもわが社の利益が最優先ではありません。即席ラーメンが日本人の食生活に浸透し、安全な食品と認知され、その便利さが多くの人々の助けになることを私は望んでいます」

萬平と土井垣の間に流れる沈黙。無言の睨み合いの中、萬平の真意を受け取った土井垣が顔を崩した。

「なかなかおもしろいな君たちは」

そして土井垣は即席ラーメン協会を発足させることを提案した。入会すればラーメンの製造特許を無償で使用できるという条件であれば、食糧庁に掛け合うと。萬平は迷うことなく提案に応じた。

「でも初めて会った私たちのために、どうしてそこまで……」

土井垣がウインクするように萬平をチラリ、次に世良に視線を送った。

「まんぷくラーメンが大好きだからだよ」

鳥肌が立つような奥田瑛二の名演に震える(涙その弐)。

土井垣の尽力もあり一ヵ月後に即席ラーメン協会は発足し、萬平は会長に就任した。

「大したもんやわ、お前の旦那様は」

「え?」

「あんたの萬平さんは偉い。私の想像を遥かに越えたすごい人やった」

最後の最後までラーメンを「うまい」と言わず、事あるごとに萬平を否定してきた鈴が、はじめて萬平を認めた。ここで三たび涙が溢れるのだが、あの鈴さんがこんなことを言うなんて、身体でも壊すのではないかと不安が過る。役柄では70歳、まだまだお若く、白髪も目立たないので最終話まで元気でいてほしい。

そうそう、福子の夢に現れた咲姉ちゃん(内田有紀)のファインプレーも忘れてはならない。福子の心の葛藤を、そっと読みとってくれる咲は、いつまでも福子たちとちゃぶ台を囲む大切な家族である。家族、仲間、幸せ‥…『まんぷく』の言葉の意味に、それらを加えたとしても視聴者に異論はないだろう。

時は流れ1970年。大阪万博の頃に、あらたなる萬平の、まんぷくラーメンの挑戦が、あの世界的発明へと繋がっていく。80歳になった鈴さんが元気なこと、大人になった幸(小川沙良)が透明感あふれる美人に成長したことが、親戚のおじさんとしてはなによりも嬉しい。

<「まんぷく編⑨」 「まんぷく編⑪」>

朝ドラに恋して「なつぞら編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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