フリーアナウンサー神田愛花 母の日のプレゼントが形成した私の光と闇 | FRIDAYデジタル

フリーアナウンサー神田愛花 母の日のプレゼントが形成した私の光と闇

第11回 神田愛花 わたしとピンクと、時々NY

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今年も近づいてきたなぁ、母の日。今年は何をあげようかな。ベタにお花? ちょっと奮発してバッグ? きっと何でも喜んでくれるから大丈夫! なわけではないのが、私の母だ。

©下村一喜
©下村一喜

ちょうど20年前の今頃。5月の第2日曜日にやってくる母の日が、記念すべき初任給で購入したプレゼントを母に渡す日になった。気合は十分。ふと、しばらく母が傘を持っている姿を見たことがないと気づき、傘をプレゼントすることにした。年齢に相応しい一生モノの良い傘をあげたい! と、当時大人気だった5万円ほどするルイ・ヴィトンの長傘にロックオン。購入場所にも気合を入れ、銀座のヴィトンへ。「母になんです。初任給で」なんて会話を店員さんと交わしながら、テンションアゲアゲで購入。

さぁいざ母のもとへ! 泣いて喜ぶんじゃない!? ウヒョー!! と胸を躍らせ渡すと、母の眉間にシワが寄った。

「えぇぇ……なんでこんな高価なもの。私、傘使わないじゃない」

え? どういうこと? 想像していたリアクションと正反対なことに理解が追いつかず、私は鳩が豆鉄砲を食ったような表情になった。と同時に母の笑顔を見られなかったショックで、何とも言えない気持ちになった。母はさらに、

「このマンション、駅までずっと屋根続きでしょ? その間にお店も全部揃っているし。生活していて雨に濡れないなんてこと、わかっているでしょうに。もったいないことをしてぇ……」

そうだった、母が住んでいるマンションは駅ビルとコンコースに直結し、スーパー・薬局・本屋・飲食店などがあるため、たいていは事足りる。どうりで傘を持った母の姿を見たことがなかったわけだ。私も住んでいた時期があるのになんで忘れていたんだろう!!

今だから推測できる。母は、初任給を自分へ必要のない高価なモノに使わず、大切に使ってほしいという親心で、あのリアクションをとってしまったのだろう。初任給といっても実際はまだ新人研修中の身。正直なところ5万円は大痛手だった。そういう悔しさもあるし、嘘でも「ありがとう」と笑顔で受け取ってくれなかった母への腹立たしさや悲しさもあった。まだ若かった私はそんないろんな思いの矛先をどこに向けたらよいのかわからなかったが、この出来事でわかったことがひとつだけあった。″相手のことを理解せずに選んだプレゼントはただの自己満足に過ぎない″ということだ。

夫の思考に触れ、更生の道へ

その日以来、ある程度の金額のプレゼントを購入するときは、「これをあげたい!」という気持ちを二の次にし、相手の趣味嗜好や行動パターンを想像して、その人が「欲しい!」と思ってくれそうなモノを選ぶようになった。気が利く大人になった気分だったが、これが別の問題を引き起こした。

それはプレゼントをもらう側になったとき。「私へのプレゼントを自己満足の吐け口にしていないか!?」という考えが誕生してしまったのだ。私の好みや行動パターンに沿っていないモノ、なんなら苦手なモノ、そういったモノを頂戴し、かつソレが高価だったときに「わぁ……こんなにお金を出してくれているのに……もったいない」と思うようになってしまった。いつの間にか頂戴するモノに対して合理性を求めていた。相手の気持ちを素直に受け止めて喜べない自分が嫌になった。そう思うなら「プレゼントが欲しい!」なんて思っちゃいけないのに、欲しい気持ちは明確にある。タチが悪かった。

それから数年が経ち、夫と出会った。私のような考え方は微塵も持っていない。「プレゼントしてくださった気持ちが何よりもありがたい!」と素直に思う、汚れのない真っ直ぐな夫の思考に触れ、私の闇の部分が浄化されていくような気がした。今も毎日その浄化を受け、更生への道を歩んでいる。

ちなみに例のヴィトンの傘は、今日までに2回ほど使ってもらえた。もうメルカリで売ってもいいかなぁとも思うが、一応″私の思い出″として実家の傘立てに置かせてもらっている。そして今年の母の日のプレゼントは、前から母が行きたいと言っていた観光地への二人旅行にした。大変ご満悦だ。更生期間の継続とともに、母への日本一のプレゼンターであり続けたいと思う、42歳の春である。

1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中

「FRIDAY」2023年5月26日号より

  • 文・イラスト神田愛花

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