<h3><span class="strongInContent">草創期に丼を彩った「ナルト」が先端ラーメンからは消えゆく中…</span></h3>
<p>ラーメンの定番トッピングといえばチャーシューや味付け玉子、海苔……そして、メンマ！　食べ手にとって、コリコリとした食感は絶好のアクセントになる。具材のイノベーションも半端ない’20年代のラーメンシーンの中で、メンマはいかなる進化を遂げているのだろうか。「卓越したメンマ調理技術と類稀なるメンマ愛」を表彰する「Menma Craftsman Award」受賞のラーメンから「メンマの現在地」を探ってみた。</p>
<h3><span class="strongInContent">手打ちプルプル麺に合う！　極厚ボードメンマの正体は／手打麺祭 かめ囲（調布）</span></h3>
<p>見てみ！　この分厚さ!!　 通常のメンマは細切りスライスが一般的だが、『手打麺祭 かめ囲』の正方形ボード状のメンマは分厚い。そして味がしっかり染み込んでいてウマい！</p>
<figure id="attachment_311630" aria-describedby="caption-attachment-311630" style="width: 2804px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2a13abda"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/1-1_Photo_1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311630" class="wp-caption-text">真四角カットのメンマが存在感を発揮！</figcaption></figure>
<figure id="attachment_311633" aria-describedby="caption-attachment-311633" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="71eb5656"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/1-2_Photo_3.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311633" class="wp-caption-text">手打ちの麺が濃いめの醤油スープにマッチする。「特製手打中華蕎麦（醤油）」（1350円）／【手打麺祭 かめ囲】東京都調布市菊野台1-55-１・アクセス：京王線柴崎駅より徒歩4分</figcaption></figure>
<p>『かめ囲』は’22年6月に調布市にオープンして以来、甲州街道沿いに行列をつくる注目のルーキーだ。店主は大学在学中からラーメン店でアルバイトを始め、店に泊まり込んで猛修業。24歳の若さで独立を果たした亀井康太さん。手打ち麺と、厚みのあるリッチなスープを手がける。このボードメンマをはじめ、チャーシューなどの具材を担当するのは妻の朱蘭さんだ。</p>
<p>もともと、メンマが苦手だったという朱蘭さん。「私のようなお客さんにもおいしく食べてほしい」と、約2週間をかけて丁寧に仕込む。</p>
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<p>一体どんなプロセスなのか？</p>
<p>まず、メンマの一般的な仕込み方法を解説しよう。ラーメン店が仕入れられるメンマは主に4タイプ。乾物の「乾燥メンマ」、メーカーの工場で乾燥メンマを湯戻ししてパックした「水煮メンマ」、湯戻ししてから保存がきくよう塩蔵した「塩漬けメンマ」、湯戻し後に味付けまで施した「味付けメンマ」である。</p>
<p>味付けメンマはそのままラーメンのトッピングに使えるが、水煮メンマは店舗での味付け作業が必要。塩漬けメンマは仕入れ後に湯戻し（塩抜き）してから味付けをしなければならない。乾燥メンマも店舗で湯戻ししてから味付けを施すが、乾物だけに湯戻しには時間と光熱費がかかる。汚れなどを取り除きながら何度も水を換えるため、仕込みは手間暇がかかる一仕事だ。</p>
<p>ただ、地道に湯戻しすると乾物特有のにおいが抜け、メンマはたっぷりと水分を含む。湯戻しの温度や水換えの頻度を調整し、自店のスープや麺にフィットする食感を目指せる。つまり、乾燥メンマのメリットは「職人のねらい通りの風味、食感に仕上げられる」こと。塩蔵メンマや味付けメンマはメーカーの仕込み工程で熱が加わり、湯戻し作業のループでどうしても柔めになってしまう。食感もコリコリ、シャキシャキというよりは、しっとりしゃっくりに寄りがちだ。</p>
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<p>『かめ囲』の朱蘭さんが仕込んだボードメンマはさっくりとした歯ごたえが心地よい。甘めの自家製醤油ダレで味をつけ、スープとの相性も抜群だ。緻密なチューニングで食感と風味を高めつつ、既製品にはない独特の形状と目を引くサイズに仕上げてラーメンを彩る。これが『かめ囲』流のメンマなのだ。</p>
<h3><span class="strongInContent">枕木を並べた極厚メンマが圧巻！／ウミガメ食堂（横浜）</span></h3>
<figure id="attachment_311637" aria-describedby="caption-attachment-311637" style="width: 838px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="defd0de0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/2-1_Photo_4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311637" class="wp-caption-text">ごろんとした素材感が目を引くが、極限まで柔らかく、瑞々しい。これぞ至宝のメンマ！</figcaption></figure>
<figure id="attachment_311640" aria-describedby="caption-attachment-311640" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b0609382"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/2-2_Photo_5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311640" class="wp-caption-text">ぷりぷりワンタンとしゃくしゃくメンマのマリアージュ！「タケノコワンタン麺」（1100円）／【ウミガメ食堂】神奈川県横浜市都筑区茅ケ崎中央24-12・アクセス：横浜市営地下鉄センター南駅より徒歩6分</figcaption></figure>
<p>ボード状の極厚メンマの次は角材、いや枕木!?　とたとえられそうな逸物。横浜市都筑区『ウミガメ食堂』の名物、極太メンマだ。ラーメンの上でドーンと主役級の存在感だが、口に運んだら、さくっと軽快に噛み切れる柔らかさ。</p>
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<p>『かめ囲』のメンマは繊維をざっくり噛み切る食感が楽しかったが、『ウミガメ食堂』は繊維質を感じさせない、瑞々しいテクスチャー。こちらでは乾燥メンマを3週間かけてじっくり水戻し。水煮しては寝かせるという工程を10回ほど繰り返すという。ゴマ油、チャーシューダレで丁寧に味付けを施し、枕木メンマの隅々までほの甘い醤油が浸透。シャクっと噛み切った後には、奥深い旨みが口中にじ～んわりとあふれ出してくる。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="スティックタイプ、穂先メンマ…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">ポリポリ＆コリコリ、スティックメンマ！／Tombo（武蔵野市）</span></h3>
<p>厚さと太さの重量級メンマの後は、従来型の細切りスティック状ながら、絶妙なコリコリ食感を届ける『Tombo』（武蔵野市）の佳作を紹介しよう。こちらはTRYラーメン大賞’23の「名店しょう油部門」8位にランク。TRY審査員から「一都三県の淡麗しょう油の最高峰レベル」と評される強豪ラーメン店だ。</p>
<p>メンマは乾燥ものを丁寧に戻して風味を残しつつ、パリポリ食感を生かすようにチューニング。傑作醤油ラーメンの名脇役になっているが、合わせて頼みたいのが「メンマごはん」。メンマファンなら絶対に頼むべき一品と言えるだろう。</p>
<figure id="attachment_311656" aria-describedby="caption-attachment-311656" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="86c9cb66"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/3-1_Photo_6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311656" class="wp-caption-text">パリポリのスティックメンマの食感が最高！　箸が止まらない「メンマごはん」（300円）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_311660" aria-describedby="caption-attachment-311660" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7ed113fe"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/3-2_Photo_7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311660" class="wp-caption-text">「醤油の旨味ソバ」（1100円）／【Tombo】東京都武蔵野市吉祥寺南町4-16-12・アクセス：JR中央線ほか吉祥寺駅より徒歩13分</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">ネギと穂先メンマのミクスチャーが未体験の食感／ラーメンショップ幸手 金田亭（埼玉県幸手市）</span></h3>
<p>近年は穂先メンマを採用するラーメン店も増えてきた。しなやかにスープを泳ぎ、つるりとなめらかな歯ごたえは、まさにメンマ界のエンジェル。淡麗な醤油スープ、クリアな塩スープによく合う……と思われがちだが、ボリューミーな活用もある。</p>
<p>Menma Craftsman Award 2023で「トッピングとしての領域を超え、それ単体で一つの料理として完成している」と称されたのが、幸手市で1993年にオープンした『ラーメンショップ幸手 金田亭』の穂先メンマ使いだ。</p>
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<p>ネギと穂先メンマは、スープと馴染んだ上でパワフルに混ざり合い、シャキシャキ／しっとりの超絶ミックス食感を実現。穂先メンマを白髪ネギのように細く裂いており、全体に調和する設計が見事だ。</p>
<figure id="attachment_311664" aria-describedby="caption-attachment-311664" style="width: 3258px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d42d2e7f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/4-1_Photo_8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311664" class="wp-caption-text">「ネギラーメン」（900円）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_311665" aria-describedby="caption-attachment-311665" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2ebd2b01"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/4-2_Photo_9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311665" class="wp-caption-text">風味をほのかに残すよう、換水を繰り返して乾燥メンマを水戻し。醤油や本みりんなどでじっくり炊き込む／【ラーメンショップ幸手 金田亭】埼玉県幸手市東2-15-19・アクセス：東武日光線幸手駅より徒歩7分</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="「Menma Craftsman Award」開催の訳…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">「ナルト」が先端ラーメンからは消えゆく中…「Menma Craftsman Award」開催の訳</span></h3>
<p>ボードに枕木、スティックに細裂きと、変幻自在なメンマのメタモルフォーゼを見てきた。その背景には真摯に具材を追求し、ラーメンの完成度を高めようとする職人の技巧、そして志がある。Menma Craftsman Awardを主催した株式会社タケマンの会長・吉野秋彦さんが、メンマ職人表彰の思いを熱く語った。</p>
<figure id="attachment_311666" aria-describedby="caption-attachment-311666" style="width: 711px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c6b0dc83"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/5_sub4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311666" class="wp-caption-text">全国的に問題視されている放置竹林の竹を使ってメンマを製造することに成功した株式会社タケマンの会長・吉野秋彦氏。中国や台湾で本場のメンマ製造に15年以上従事し、その技術を日本でのメンマ作りに応用している</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「このアワードは、ラーメンの中でもあまり注目されてこなかったメンマの調理技術にスポットライトを当てるもの。私たちは福岡県糸島市で国産メンマの製造開発を手がけてきました。メンマにフォーカスすることで、調理技術の向上と、メンマ・ラーメンがもっとおいしくなる世界を目指しています」</span></p>
<p>多様に進化を遂げたメンマだが、ルーツをたどれば中国や台湾料理の食材に行き着く。そもそも、これは中国南部の福建省や台湾で育つマチク（麻竹）を乳酸発酵させてつくった食品だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「国内で流通するメンマの99％は海外産です。日本ではラーメンの具材として定着したため、『麺にのせるマチク』＝『メンマ』と呼ばれるようになったと言われています」（吉野さん）</span></p>
<p>中国本土や台湾ではマチクを麺類にのせることは少なく、煮物や炒め物として使われるのが主流。日本でもラーメン店以外では中華料理店のメニューで見かける程度で、食卓にもそこまで浸透している食材ではない。なぜラーメンの名具材として丼を飾るようになったのか？――その答えは、実は明快ではない。</p>
<p>明治43年（1910年）に創業し、日本で初めてラーメンブームを起こしたとされる『淺草 來々軒』で1919年に使われていたとする中華そばオリジン説や、明治30年代の横浜、南京町（現在の中華街）で提供された「シナそば」にあったという横浜発祥説、さらに1937年に神戸の貿易商が台湾から大量に輸入して浸透したとする神戸ブレイク説など、「ラーメン具材として」の起源には諸説あるのだ。</p>
<p>ともあれ、明治大正期は物流も整備されておらず、中国料理の食材をフレッシュなまま仕入れるのが極めて困難だったのは確か。その点、メンマは乾物だけに保存がきき、中国や台湾から取り寄せやすかった。アワビや貝柱などの乾物に比べると安価でもある。ラーメン創世記の職人たちには使いやすい具材だったのだろう。</p>
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<p>今や、エリンギや山くらげ、キクラゲなど、コリコリ食感を担保するポストメンマも続々登場している。「仕入れやすい」「保存がきいて扱いやすい」からメンマを起用する時代ではなくなった。ただ、今回紹介した逸品たちからもわかるように、職人の研鑽と努力でメンマは今なお進化をやめていない。</p>
<p><span class="strongInContent">「メンマのように、一つひとつの素材を丁寧に取り扱い、すべての工程に神経を集中させることで、おいしいラーメンがアウトプットされます。メンマにこだわれば、ラーメンはさらにおいしくなるのです」（吉野さん）</span></p>
<p>草創期に丼を彩ったナルトが先端ラーメンからは消えゆく中、古くて新しいバイプレーヤー素材には、まだまだイノベーションの余地がある。今こそ、メンマに注目したい。</p>


1972年秋田県生まれ。キッズファクトリー代表。『石神秀幸ラーメンSELECTION』（双葉社）、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』（講談社）、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』（晋遊舎）などのラーメン本を編集し、執筆では『中華そばNEO:進化する醤油ラーメンの表現と技術』（柴田書店）に参画。ラーメンを愛し、「ラーメンの探求マインドは変態であれ、振る舞いは紳士であれ」がモットー。

佐々木正孝

具材のイノベーションも半端ない’20年代のラーメンシーンの中で、メンマはいかなる進化を遂げているのだろうか。「Menma Craftsman Award」受賞ラーメンから「メンマの現在地」を探る。

古くて新しいラーメンの「バイプレーヤー」！極厚ボード、角材状…「メンマ」の進化が止まらない！

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