ピロートークで女性に”海外出稼ぎ”を勧め…歌舞伎町・悪質ホストによる「売春のすすめ」が横行中
現役慶應大生ライターが描くぴえんなリアル 令和5年、歌舞伎町はいま……第55回
「カネにこまっているなら、立ちんぼしてみなよ」
女性客に売春をするよう唆(そそのか)したとして、歌舞伎町の20代のホストを売春防止法違反の教唆の疑いで逮捕したと、4月27日、警視庁が発表した。このホストはSNS上で冒頭のように指示をしていたという。
売春を勧めた容疑での逮捕は異例らしく、歌舞伎町にはこの事件を受けて激震が走っている。
「逮捕されたこのホストみたいにがっつり文面を残すケースは珍しいですけど、ホストから売春を勧められるってのはよくある話ですよ」
そう語るのは歌舞伎町の風俗店で働くナツミ(仮名・22)である。彼女は風俗嬢をしつつ、アプリでのパパ活や出会い喫茶での売春、大久保公園での立ちんぼなど、ありとあらゆる手段でカネを稼いでいる。
「大久保公園での立ちんぼは簡単に客が取れるんで、タイパ(タイムパフォーマンスの略)が良い。でも、私服警官に見つかったらアウトなので、最近は『マジでお金がない!』って時しかやってないですね」(ナツミ)
ナツミが売春してまでカネを稼ぐ目的は、ホスト通いのためだ。彼女のように、″本業″の合間に個人で売春をするホス狂いは珍しくない。
生活に支障をきたさない範囲で娯楽としてホストクラブに通うより、犠牲を払って嫌な仕事をして稼いだカネを使うほうが、想いが通じる――。そんな価値観が歌舞伎町のホス狂いには存在する。そのため、「担当(指名しているホスト)のことが本当に好きならNS(コンドームなし)ソープでも海外出稼ぎ売春でもできる」という過激派も存在するのだ。
一方、こういったホス狂いの心理を把握しているからこそ、彼女たちに巧みに売春を勧めるホストも少なくないのである。売れっ子ホストのレンヤ(仮名・25)が言う。
「俺たちからもっと大事にされたい、お願いされた金額を使って好かれたいっていう気持ちから夜の仕事を始めるコは多いですね。そういうコはこっちからしたらありがたいんで、普段から、『風俗をやってる女のコに抵抗はない』って話をして刷り込んでおくようにしてます」
そうして「夜職」で働くようになると、接客で抱えたストレスで、さらにホストクラブで大金を使うようになる。
「ホストのなかには、自分の知り合いのスカウトを紹介して働かせる奴もいます。そうすると、そのスカウトから女のコの情報が全部入るので、ちょっとでもカネの流れがおかしかったら詰めれるんですよ。俺らはこういうのを女のコの『管理』の一環だと思ってるんです。女のコの稼いだカネを全額預かって、その中から女のコに生活費を渡してる、なんて奴もいますよ」(レンヤ)
ホスト業界とは切っても切り離せない歌舞伎町の売春問題だが、無論言い方を間違えれば女性側にも不満が生まれる。前出のナツミが言う。
「担当とセックスして、ピロートークで海外出稼ぎを勧められました。『海外の客はあんまりキスしないから、しんどくないらしいよ』って。でも、その担当も私とヤってるときキスしてくれなかったんです。私とのセックスも仕事なんだなってわかって、さすがに萎えましたね」
歌舞伎町の売春事情はかくも根深い。取り締まりを強化するだけでは、なかなか解決には至らないだろう。
佐々木チワワ
’00年、東京生まれ。小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、幅広い人脈を持つ。大学では歌舞伎町を含む繁華街の社会学を研究している。『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認 』(扶桑社新書)が好評発売中
連載記事
- 取材・文:佐々木チワワ
ライター
’00年、東京生まれ。小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、大学ではフィールドワークと自身のアクションリサーチを基に”歌舞伎町の社会学”を研究。主な著書に「歌舞伎町モラトリアム」(KADOKAWA/'22年)、「『ぴえん』という病 SNS世代の消費と承認」 (扶桑社新書/’21年)がある。また、ドラマ「新宿野戦病院」(フジテレビ系)など歌舞伎町をテーマとした作品の監修・撮影協力も行っている。 『FRIDAY』本誌の連載が書籍化、「ホスト!立ちんぼ!トー横! オーバードーズな人たち ~慶應女子大生が歌舞伎町で暮らした700日間~」(講談社/'24年)が好評発売中。