フリーアナウンサー神田愛花　ベランダに１００匹超現れる梅雨直前の風物詩

３年前から毎年、梅雨直前の５月に必ず我が家のベランダに現れるヤツがいる。全身が鮮やかな夕陽色で、胡麻よりも小さい。何かに追われているかのように素早く動く。どこからやって来たのか、さっぱりわからない。これくらいで「あーアイツだ！」とピンときた方はきっと、自宅に陽当たりの良いベランダがあるか、乾いたコンクリートをジーッと観察した経験があるはずだ。

今住んでいるマンションに越してきたのは５年前。広いベランダが気に入って購入した。最初の２年間はヤツの存在を知らず、そこで朝食を食べたりビールを飲んだり思いのまま過ごしていた。だが新型コロナウイルスが広がり始め、最初の緊急事態宣言で在宅時間が長くなった３年前の春、突如としてベランダの床をヤツがウヨウヨと歩いていることに気がついた。その数、100匹は超えていた。

ちなみに私は虫が大・大・大嫌いだ!!　何の虫か調べて駆除できる方法を見つけなきゃと、住んでいる地域の保健所に電話で聞いてみた。すると「それはアカダニですねぇ。ベランダって陽当たり良いですか？　そういう場所によくいるんですよ。駆除の方法は特にないのですが、梅雨が明けたら自然といなくなりますから、大丈夫ですよ」とのこと。

ヤツの本当の名前は”カベアナタカラダニ”。体長は0.3〜1.0mmで、活発な活動時期は春先〜夏前。人を刺すことはないとされているが、潰したときに出る体液に触れると痒くなることがあるらしい。ちなみに体液の赤色は、衣服に付着すると洗濯しても落ちないとのこと。

ネットに、水を撒くと流れていなくなると書いてあったので、撒いてみた。確かにその瞬間はいなくなるが、すぐにどこからともなく湧いてきて翌日には同じ状況に。殺虫剤も考えたが、全面に撒くのは身体に良くなさそうだから諦めた。

ある日、隣に住む若くて可愛らしい奥様にエレベーターで会い、アカダニの話をしてみた。すると堰(せき)を切ったように、その方のベランダにも出現していること、生態をネットで調べたこと、水を撒く方法を毎日繰り返していることを話してくれた。お隣さん同士まったく同じことをしていたのが判明。なす術がないのも同じだった。

そんなこんなで梅雨入り。その間少しでも晴れるとまた現れたが、梅雨が明けて夏になると、本当に聞いていた通り、見事に１匹も現れなくなった。しかし翌年以降も５月のその時期だけに必ず出現。もはや我が家の風物詩になっている。

大勝利も束の間、まさかここに

今年の春先、あの奥様と久しぶりにエレベーターで一緒になったので、「そろそろアカダニの季節ですね。何か良い殺虫剤があったら教えてください」と話しかけてみた。すると「実はすごく良い殺虫剤を見つけたんです！　何種類も試したんですけどそれが一番効きます！　我が家はもうシューシューしました！　買い込んだので今度持って行きますね!!」とハツラツと答えてくださった。

翌日、玄関扉の前に、クリスチャン・ディオールの紙袋に入った、30cmはある大きなスプレー缶が置かれていた。ゴールドをベースカラーに赤の太いラインが引かれ、そこに黄色で大きく「プロ用！」と書いてある。可愛らしい奥様がイカツイ殺虫剤に辿り着き、でも人にあげるときは高級ブランドの紙袋に入れるというのが、愛らしくて笑ってしまった。

早速、「効いてくれぇ！」と願いながらベランダの縁に沿ってぐるっと１周吹きかけた。

そして迎えた５月。例年ならもうベランダはアカダニの大運動会のはずなのに……なんと、１匹も出現しない！　そう、３年にわたるアカダニとの戦いに、ついに勝ったのだ！　信じられなくて、嬉しくて、裸足でベランダを歩いた。

その後はアカダニのことなんてすっかり忘れ、窓を開けて気持ち良くリビングで掃除機をかけていた。床に置いてあった雑誌をどかす。１冊、２冊。その時、夕陽色の小さい点がサーッと動いた。「え？」顔を近づけて、目を見開いて、しっかりと確認する。……ヤツだった。家の中にヤツがいた。しかも２匹。逃げ場を求めて網戸を通り抜けたのか!?　それとも、もともと入り込んでいたのか!?　こうして、私とアカダニの戦いは、場所を変えてゴングが鳴った。

1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2023年6月16・23日号より