フリーアナウンサー神田愛花　43歳の誕生日の願い事とは？

いや〜今年も５月29日がやって参ります！　ジョン･Ｆ･ケネディさん、美空ひばりさん……そして神田愛花さんのお誕生日です！　パチパチパチ★　人生の約半分の、43歳になるぞ！

若い頃想像していた43歳の自分はこうだ。ＮＨＫアナウンサーとして、数年前にはとっくに視聴者や現場の皆さんからの信頼をＧｅｔ！　数々の報道番組を歴任し、最終目標であるＮＨＫ会長になるため局内の政治的駆け引きに明け暮れている。強い労働組合のおかげでしっかり休暇を取り、大好きな海外旅行をしながら「こんなに充実してて、バチ当たらないかなぁ？」が口癖の女だ。

だが実際はこう。ＮＨＫはとっくに辞めてフリー11年目。バラエティ番組にどっぷり浸かり、マネージャーに「次のお仕事はコチラです」と連れて行かれた先で、一分一秒を必死に踏ん張っている。いつこの業界から消えるかわからない恐怖と不安がつきまとい、サランラップみたいな薄さの自信を何枚か重ねながら、なんとかカメラの前に立たせてもらっている。マネージャーへの「今日の私ちゃんとやれていました？」が口癖の女だ。

前者が目標だった頃は、ことあるごとに怒っていた。出世こそが自分の価値を作り、生きている証。ＮＨＫという枠の中で、誰よりも大役を任され、誰よりも輝くべき。それは私に課された義務であり、果たせる人間なのだと気を張っていた。なので少し上の先輩や同期が優遇されると、「なぜ私じゃない！」と底知れぬ怒りに溢れていた。

そんな一日中エンジンを吹かし続ける私にも、28歳の頃、少しだけ疲れた夜があった。後にも先にもその一度だけ。10年先輩の女性アナウンサーに「常に周りとの戦いでムカムカして……この仕事疲れませんか？」と聞いてみた。「大丈夫、30歳になったら自分は自分と思えるようになって楽になるよ」が答えだった。

それから30歳になる日が楽しみになった。２年後に楽になるなら、今は悩まず思うがまま♪　そして待ちに待った30歳の誕生日。さらに１ヵ月後……半年後……。心境の変化なんて微塵も起こらない。それどころか優秀な後輩に対する焦りから新たな怒りが生まれ、私には先輩の言葉は当てはまらないとわかった。

ＮＨＫを辞めて数年間、この個性はお仕事の依頼が少ない時期の私を苦しめた。テレビをつけると楽しそうに笑っているフリーアナがわんさか。見るのも辛く、彼女たちが登場しないＢＳの嗜好番組しか見なくなってしまった。このままだと仕事が楽しくなくなってしまう！　怒りの原因を探ることを試みた。

早く50歳になりたい

怒る前、私は相手と自分を無意識に比較している。その結果「私だってできるのに！　なぜやらせてくれないんだ」と怒る。だが、考えれば答えは簡単にわかる。実力がないか、魅力がないからだ。これを冷静に受け止めたとき、悲しくて涙が出そうになった。それでもまだ「じゃあその子にどんないいところがあるわけ!?」と怒りが収まらない。

本当は、心の中ではわかっているのだ。その人には、私にはない才能や個性があることを。そしてそれが周りに評価されていることを。でも悔しいので自分より魅力的な人を「認識もしていないし、気づいてもいません」というふりをして、自分に嘘をついている。しかし心の底では羨ましいと思っているから、嫉妬心が怒りというひねくれたカタチで表に出てくる。怒りの原因はすべて自分にあるというカラクリに気づいた。

すると自分を客観的に見られるようになり、怒りはすーっと消え、湧くこともなくなった。私は私、誰かの真似もできないし誰も真似できない。と、気持ちがとても楽になった。あのときの先輩のアドバイスが、10年以上経ってようやく自分のものになったのだ。

そして今の私は、早く50歳になりたくて仕方がない。十分″おばさん″扱いされていい年齢のはず。なのに周りが気を遣ってしまっているのがビンビン伝わってくる。でも私は私。混じりっ気のない43歳の女性で、それ以上でも以下でもない。おばさんが、おばさんらしく振る舞い、おばさんらしく扱われる。それがみんなが楽になれる自然なカタチだ。そのためには50歳という数字がモノを言うのではないか。一日でも早く50歳になりたいと願う43歳の誕生日だ。

1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2023年6月9日号より