浜村副会長が語る、日本eスポーツの「まとめ役」ができた理由 | FRIDAYデジタル

浜村副会長が語る、日本eスポーツの「まとめ役」ができた理由

eスポーツの現場から 第4回:日本eスポーツ連合(JeSU)副会長 浜村弘一

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JeSU副会長の浜村弘一氏
JeSU副会長の浜村弘一氏

2018年、流行語大賞のトップテンに入るほど大きな注目を集めたeスポーツ。日本国内でも、数々のイベントが開催され、競技人口も右肩上がりだ。その熱狂のど真ん中、eスポーツの「現場」にいる当事者たちはこの盛り上がりをどう感じているのか。

第4回目は、日本eスポーツ連合(JeSU)で副会長を務める浜村弘一氏。昨年2月に発足したJeSUは、いわば日本eスポーツの「まとめ役」だ。浜村氏はゲーム雑誌『週刊ファミ通』の編集長などを務め、「浜村通信」の名で数々のコラムを書き、長年にわたりゲーム業界を見守ってきた人物でもある。業界の指南役ともいえる浜村氏に、JeSUの取り組みを訊いた。

目的はeスポーツをオリンピック競技にすること

eスポーツ自体は10年も20年前から行われており、これまでにいくつかの団体も存在していました。その中から、日本eスポーツ協会、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟(JeSF)の3団体が統合し、誕生したのがJeSUという団体です。

我々JeSUは、eスポーツをオリンピックなどの国際大会の競技種目として登録してもらうため、JOCへの加盟を目指しています。通常、スポーツ団体は1競技に対して1団体が原則。そのために複数あったeスポーツ団体をひとつにまとめる必要があったのです」(浜村副会長)

最終目標にオリンピックへの参加があるのは間違いないが、JeSUの存在意義はそれだけではない。各団体やメーカーによってバラバラだったeスポーツ事業の取りまとめやゲーム業界外からの窓口として、個別対応でなく、包括的に対応できる組織としても存在している。

JeSUにはいろいろな仕事があるのですが、大前提としてあるのは、eスポーツの普及です。eスポーツを世の中に知ってもらい、認知してもらうこと。具体的にいうと、青少年のeスポーツ選手としての育成、選手の地位の向上、選手の活躍の場を増やすことを目標に活動しています」(浜村副会長)

eスポーツがオリンピック競技となるかどうかは、世間的にも見解が分かれている。実際、IOCが導入に前向きという報道があったと思えば、トーマス・バッハ会長が採用できない旨の発言をしたりと、先が読めない状況だ。

また、eスポーツは特定のゲームタイトルを競技とするため、著作権や放映権の問題が発生する。これらの権利関係をクリアにしないと、スポーツ競技として認められることは難しいだろう。浜村氏もその点については指摘する。

他のスポーツ団体と違うところは、eスポーツにはIPホルダー(著作権保有者、ここではゲームメーカー)が存在しているところです。なので、大会運営とIPホルダーを繋ぐ橋渡し的な存在が必要なんです。世論としてはeスポーツとリアルスポーツに乖離があると見られていることも多く、オリンピック競技になることに反対する意見もあります。そのあたりの働きかけや啓蒙活動をもっと地道に行っていかなくてはいけない」(浜村副会長)

2018年2月、JeSU設立に伴い、副会長に就任した浜村弘一氏
2018年2月、JeSU設立に伴い、副会長に就任した浜村弘一氏

eスポーツにおける「プロ」とはどんな存在なのか

実務的な作業としては、ゲーム作品の「公認eスポーツタイトル」への審査・承認、それに伴うプロライセンスの発行、国際大会への選手の派遣なども行っている。

このプロライセンスというものが厄介だ。2019年2月現在、JeSUが認定しているゲームタイトルは、『ウイニングイレブン2019』、『ストリートファイターV』、『パズドラ』、『ぷよぷよ』などの11タイトル。この認定タイトルで優秀な成績を収めた人物に対して、ライセンスは発行される。では、このタイトルはどのようにして決まっているのか。

基本的にメーカーからの申請により審査をしています。申請されたタイトルにeスポーツとしての競技性と、大会をある程度の期間続けられる継続性があるかなど、さまざまな基準を設け、それに見合うタイトルを認定しています。公認すべきタイトルと判断された場合でも、IPホルダーとJeSUの間で、具体的にどの大会から実施すべきかを協議しており、適切なタイミングを見計らって発表するようにしています」(浜村副会長)

世間では「企業がスポンサーについて支援を受けていればプロと呼んでいいのでないか」「認定タイトルにないゲームのプレイヤーはどうなるのか」など、このライセンス制度を疑問視する声があるのも事実だ。現在の日本の法整備では不可能とされる高額賞金問題も、いまだ解決していない。

色々と不透明な部分はあるが、そのことよりも現時点では一定のプレイヤーの基準、指針として存在しているという方が正しいだろう。資格や免許のように何かを許諾するためのものではないが、一般的にプロフェッショナルとアマチュアの線引きができ、大会参加基準などを設けやすくしている。また、世界的なイベントで活動する際にはJeSUの存在が重要になってくる。

昨年、ジャカルタのパレンバンで行われた「アジア版オリンピック」とも言われる「アジア競技大会」では、デモンストレーション競技として史上初めてeスポーツが採用された。この時に選手の派遣を行ったのがJeSUである。アジアオリンピック評議会が主催するこのイベントに選手が参加できたのも、JeSUがあってこそだ。

一方で、海外のeスポーツ選手が来日した場合に、一部のアスリートビザを発行する役割も果たしている。海外のプロスポーツ選手が日本に長期滞在する時に必要で、プロ野球やプロサッカーと同様にeスポーツにおいても発行されている。国際的な大会運営には重要なもので、これによって多くの海外の有力選手の参加を見込めるようになる。

昨年2月の『闘会議2018』ではトークイベントを行った
昨年2月の『闘会議2018』ではトークイベントを行った

求められる選手データベース

地方とゲームメーカーを繋ぐ橋渡し的な活動も行っている。JeSUの地方支部が設置され、地方自治体や地方企業などが、eスポーツイベントを開催するにあたり、メーカーへの許諾申請などを代理で行っているのだ。

昨年はeスポーツ元年と呼ばれ、多くの人に興味を持っていただけました。そのため、eスポーツをやってみたいという人や組織が増え、そういった方々の相談も今後は増加すると思っています。特に地方では企業や自治体など、eスポーツについて良くわかっていない方々も多く、それらに対応するために地方支部の必要性を感じています」(浜村副会長)

昨年11月、有馬温泉でeスポーツイベントが開催されニュースが記憶に新しいが、それもJeSUの兵庫支部(地方支部としての正式な認定は今年1月)の活動の一環である。

しかし、まだまだできていないことも多いという。たとえば、プロライセンス保持者のデータベース。JeSUのサイトでようやくベータ版が完成し、一部の選手のプロフィールや実績を確認することができようになった。

選手個人についての問い合わせも多いです。eスポーツ選手のサポートをしたいという話もあり、地域に密着した選手を紹介してほしいとか。たとえば、『青森県出身のプロ選手はいないですか』といった感じですね。データベースの完成は急ぎたいところです」(浜村副会長)

地方自治体にとって、地元出身であったり、在住の選手がわかれば、eスポーツイベントへのオファーができたり、観光大使としての活動を依頼することができる。

選手とチームやクライアントがマッチングするシステムや、選手を育成する学校への施策、eスポーツ施設に対してのレギュレーションの作成など、まだまだやるべきことは多い。

それに加えて、我々が思いつかないような選手側からの要望はぜひ言ってきて欲しいですね。まあ、手が回っていないことが多い中で、やってほしいことを募集するのはちょっと無理筋なのかもしれませんが、それでもJeSUが動いて改善できることがあるのであれば、ぜひ挑戦していきたい」(浜村副会長)

業界全体が過渡期にあるeスポーツ。そのまとめ役として、JeSUが取り組むべき課題は山積している。

はまむら・ひろかず/『週刊ファミ通』編集長、株式会社エンターブレイン代表取締役社長、カドカワ株式会社取締役などを経て、2018年2月より現職に。「浜村通信」のペンネームでも知られる Twitter:@Hama_Hirokazu

 

第3回:ゲームメーカー編

第2回:ゲーム配信会社編

第1回:プロゲーマー編

  • 取材・文・撮影岡安学

    ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスライターに。ゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、かかわった書籍数は50冊以上。現在は、esports関連とデジタルガジェットを中心にWebや雑誌、ムックなどで活躍中。ゲームやアニメ、マンガ、映画なども守備範囲。近著に「INGRESSを一生遊ぶ!」(宝島社刊)。【Twitter】@digiyas

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