藤岡 佳世

<h3>「何も考えない」って実は難しい…</h3>
ボーッとする状態は、脳にとって必要な時間といわれている。それによって、普段は思いもつかない閃きがあったり、考えがまとまったり、創造性が高まるなどのメリットをもたらすことが、脳科学的にも解明されている。
しかし、ボーッとするといっても、いざそうしようと思うとなかなか難しい。日常生活で、効果的にボーッとできる方法はないか、菅原脳神経外科クリニック院長、脳神経外科医・菅原道仁氏に話を聞いた。
<figure id="attachment_321301" aria-describedby="caption-attachment-321301" style="width: 5616px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="325eb452"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/5f2cc578e645e69eddc88c8286dc18c9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-321301" class="wp-caption-text">ボーッとしながら寝落ちするも良し。10分から15分程度の昼寝は、午後の仕事のパフォーマンスも上がるといわれる（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<h3>「ボーッとした状態」のとき、脳の中はどうなっているのか？</h3>
――現代社会では、ボーッとする時間が必要といわれますが。
「私達の脳は、手を動かしたり、何かを考えていたりするときに働いているだけじゃなくて、じつは、ぼんやりしている時間にも目まぐるしく働いているということが近年わかったんですね。それがデフォルト・モード・ネットワークという神経回路になります。 
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このデフォルト・モード・ネットワークというのは、何か意識したり、何かをしているときには影を潜めていて、逆に、ぼんやりしているときに活性化する神経システムなんです」（菅原氏、以下同） 
――なぜ、ぼんやりしているときにデフォルト・モード・ネットワークが働くんですか？ 
「人間はボーッとしていたり、寝ているときにも脳は働いていないと、何者かに襲撃されたときに反応できなくなってしまいますよね。 
何かのときに咄嗟に対応をするために、寝ているときでも全部をシャットダウンせずに、車のアイドリング状態のようにずっと動きっぱなしなんです。そのとき、待機しているだけではなくて、じつは情報整理をしているということがわかってきました。 
デフォルト・モード・ネットワークの活動が、情報の整理や、今まで見聞きしてきたことなどの情報を統合して記憶の整理をしてくれるので、それによって新しいアイデアが生まれたり、考えがまとまったりといったことがあります。あとはリラックスするという効果もあります。 
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そのデフォルト・モード・ネットワークが活発に働くようになるには、何も考えない、ボーッとする時間が必要なんです。 
ですから、この情報化の時代だからこそ、ボーッとする時間を積極的に作るというのが、新しい脳の使い方になってくるんじゃないかということですね」
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<h3>「頭を空っぽにする」つもりが、逆に色々と考えてしまう…</h3>
――ボーッとするというのが、実際にはなかなか難しい感じがするんですが。 
「たしかにボーっとしているときも、あんなことあったなとか、明日のためにこんなこと準備しなきゃなとか思ったり、いやいやこれはいいやとか打ち消したり、実際にはいろんな考えが浮かんできますよね。 
だから、デメリットもあるんです。デフォルト・モード・ネットワークというのは、実はたくさんのエネルギーを消費します。そのため脳が疲労するんです。」
――脳が疲れやすい状態とはどんな時でしょうか？ 
「たとえば、ネガティブな感情などが堂々巡りになることって皆さんありますよね。昨日あった嫌なこととか、あの上司ムカつくみたいなこと。とくに、そういうネガティブ思考が堂々巡りしちゃうと、ストレスになって脳が疲れやすい状態になります。 
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デフォルト・モード・ネットワークが暴走すると、過去の嫌だったことや不安などネガティブな感情がループしやすくなってしまうので、脳疲労につながるというデメリットがあります」 
<figure id="attachment_321302" aria-describedby="caption-attachment-321302" style="width: 4480px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d002f07d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/9faf61c801f3dddbc5efab11f8a3d0d6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-321302" class="wp-caption-text">素人には無になることは難しいといわれるが、どういう感覚になるのか、座禅体験は一度やってみる価値あり。多くのお寺で体験できる</figcaption></figure>
――よく、座禅をするとき「頭を空っぽにしなさい」といいますが。
「これはもうやっぱりベテランじゃないと難しいです。お坊さんとかは、たくさん修行を積んでいるわけですから。我々がすぐにそうできるというわけではないですね。 
雑念が浮かんでは消し、浮かんでは消しということをしている状態がいわゆる瞑想状態で、マインドフルネスというのが今話題になってますよね。それは、デフォルト・モード・ネットワークを上手にコントロールしている状況になります」 
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――ネガティブに考えないようにするのには、なにか良い方法はありますか。 
「それはもう達観して、第三者目線でそのことを見る。自分のことなんだけれど、当事者ではないような感じで、俯瞰で見る。これを『メタ認知』といいます。そういった意識で自分を見る練習をするのはいいと思います。呼吸に集中するとか、それだけでもいいとおっしゃる先生もいらっしゃいますね」 
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<h3>「時間を惜しんで」はNG…積極的に「ボーッとする時間を作る」</h3>
――デフォルト・モード・ネットワークが働きすぎると脳疲労のデメリットがあるというのは、取り入れ方が少し難しいですね。
「難しいからといってやらないんじゃなくて、積極的にボーッとする時間を作られるのがいいと思います。マインドフルネスが流行っていて瞑想する方もいらっしゃいますけど。そこまでいかなくても、お風呂で湯船に浸かってボーッと何も考えない時間を大切にしたらどうですか、ということです。 
あとは、ボーッとする時間を作るために、自宅でも30分から１時間ぐらい情報機器からちょっと離れる時間をとるのがいいと思います。デジタルデトックスといわれますが、スマホなどを積極的に手放す時間というのが貴重だと思いますね。 
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瞑想までいかなくても、目をつぶっている時間を増やすだけでもいいと思います。視覚からの情報を遮断するということです。椅子に座って、目をつぶって、ま、寝ちゃってもいいですけど」 
<figure id="attachment_321303" aria-describedby="caption-attachment-321303" style="width: 5120px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="107d9c05"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/527e51e079114eb134db57726f290e58.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-321303" class="wp-caption-text">目を閉じて視覚からの情報を遮断するだけでも、ボーッとするのと同様の効果が得られるという。もし、ネガティブな感情がループしたら、本を読み始めるなど何か作業を始めてデフォルト・モード・ネットワークを抑制するといい</figcaption></figure>
――「ボーッとしているとき」と「寝ているとき」というのは、どういう違いがあるんでしょうか。
「違いはないんじゃないですかね。だから、昼寝をするのもいいと思います。パフォーマンスが上がるというデータもありますし。ただ昼寝は寝すぎが問題で１時間とか２時間寝ちゃうとまずいので、10分から15分程度がおすすめです」
――不眠症の状態というのは、デフォルト・モード・ネットワークの働きにどういう影響を与えるんですか。
「やはり、記憶の整理とか、新しい考えが浮かんだりといったメリットが得にくくなると思います。脳が疲れすぎてる状況になるので。身体も疲労しますし。 
最近では、デフォルト・モード・ネットワークの不調で、うつ病や、認知症の早期発見ができるんじゃないかとも言われています。 
繰り返しになりますが、情報に晒されてて忙しい人はデフォルト・モード・ネットワークが影を潜めている時間のほうが長いということです」
——具体的にどんな行動からはじめるといいでしょうか？ 
「せっかくのお風呂の時間に読書なんかするよりは、お湯の温かさを感じてボーッとすることをおすすめします。情報をインプットするより、情報を整理する時間にしたほうが有意義だと思います。 
りんごダイエットを始めたらリンゴしか食べない、デジタルデトックスを始めたら今日はスマホは一切見ない、ということではなく、ちょっとした時間を作ることから始めてみてください。 
みなさん電車の中でスマホをいじってニュースとか見ていますけど、それをやめるだけでもいいと思います。ボーッと車窓を覗くとか。いつもは急行電車で通っているけど、時間のあるときは各駅停車の旅というか、ぼんやり窓の外の風景を見られるといいかなと思います」 
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菅原 道仁　脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック院長。医療法人社団赤坂パークビル脳神経外科理事長。頭痛、めまい、物忘れ、脳の病気の予防の診療を中心に医療を行う。著書に、『脳神経外科医が教える　一生疲れない人の「脳」の休め方』（実務教育出版）、『成功する人は心配性』（かんき出版）、『「めんどくさい」がなくなる100の科学的な方法』（大和書房）、など多数。

藤岡佳世

アフロ

ボーッとする状態は、脳にとって必要な時間といわれている。しかし、ボーッとするといっても、いざそうしようと思うとなかなか難しい。日常生活で、効果的にボーッとできる方法はないか、脳神経外科医に話を聞いた。

「ボーッとする時間」が閃きや創造性をもたらす…どうやったらスイッチを切るようにボーッとできる？

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