1975年、埼玉県生まれ。日本女子大学文学部史学科卒。01年よりサッカーの取材を開始し、03年ワールドユース（現・U-20W杯）UAE大会取材をきっかけにライターに転身。サッカーW杯４大会、夏季オリンピック３大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住

了戒 美子

<figure id="attachment_322932" aria-describedby="caption-attachment-322932" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="fac0385c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/25fd23f69b7c3e47ef76c6b6558b7784.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-322932" class="wp-caption-text">国内で合宿していたときの猶本光。11年間、世界トップの舞台と無縁だった悔しさを晴らせるか（写真：アフロ）</figcaption></figure>
20日開幕したサッカー女子W杯。女子日本代表（通称・なでしこジャパン）23人のうち、12年前のドイツ大会優勝を知るのは主将・熊谷紗希ひとりになった一方で、&#8217;00年以降生まれ６人と、世代交代、若返りを図り、池田太監督のもと将来を見据えたメンバーになっていることが伺える。そんな中、ひと際目を引くのは29歳で初めてW杯日本代表に選ばれた猶本光だ。
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’12年、日本で行われたU-20W杯では大注目を浴び人気実力ともに日本の将来を、と大きな期待がかかった。だが、そこから約10年間、彼女が代表の舞台で日の目を浴びることはなかった。２度のW杯、２度の五輪メンバー入りを逃しての今大会だ。６月、浦和で行われたメンバー発表会見は印象的だった。
＜なでしこジャパンとして大きな大会とは縁がありませんでしたが、ずっと……＞
と話し出したあたりで涙があふれ言葉に詰まる。
＜すみません、涙は枯らしてきたんですけど…＞
すでに流す涙はないはずなのにという意味のコメントで笑いを取るが、何度も目元を抑え、隣に座っていた高橋はなが優しく肩を支える。その様子がまた見るものの涙を誘った。
＜ずっと世界の舞台で戦うことを思い描いて、トレーニングを積み重ねてきました＞
涙をぬぐいながら、そう話し切ると正面を向きあらためて覚悟を口にした。
＜その思いをこの大会にすべてぶつけてきたいと思います＞
ともにW杯に向かうチームメイトに助けられながらの会見となった。
振り返れば４年前の&#8217;19年、フランス大会に臨むメンバーに選出されなかった猶本はドイツでプレーしていた。だが、成長の機会を求めてドイツ１部フライブルクに加入したものの、納得のいく日々を送っているとは言えなかった。
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筆者は当時、フライブルクを取材に訪れた際、当時は高倉麻子監督のもとでコーチを務めていた池田太監督が視察にきている場面に遭遇したことがある。つまり当時も当落線上ではあったということではあるが、最終メンバーには入らなかった。落選直後に行われた単独インタビューで猶本は気丈だった。
「（落選は）なんとなく予想もできてたから、（当落）両方の準備をしてましたね。もちろん入った時の準備はしていて、今はコンディション的にもすごいいいしメンバーに入ったらやれる自信もあるけど、外れる可能性もあるなと思っていました」
「なので、『どん底』みたいな感じではないです」
とも言った。すでに次へと切り替えているようだった。
<div data-friday-nextpage-lead="選出会見での号泣シーン"></div>
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<figure id="attachment_322933" aria-describedby="caption-attachment-322933" style="width: 1304px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="951b6504"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/2d6c6bd7484dcaeb78c62774e4336557.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-322933" class="wp-caption-text">6月14日、メンバー選出会見で号泣した猶本光（写真：「URAWA REDS LADIES OFFICIAL.TV」から抜粋）</figcaption></figure>
猶本自身は「本番までのチームビルディングにおける流れを考えれば落選だが、ピンポイントに今を見てもらえれば可能性はあるだろう」という複雑な心境だったのだろう。
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直後、浦和レッズへの復帰を果たした。この時点で目標としたのは’20年に予定されていた東京五輪だった。だが、そう簡単にはうまくいかず結果的に’21年に行われた五輪本大会メンバーに滑り込むことはできなかった。猶本光や安藤梢の専属トレーナーを努める吉崎正嗣氏は言う。彼は日常的にケアを行うなかで彼女たちの様子をつぶさに見てきている。
「僕の勝手な印象ですけど、代表も何度も落とされてきたこともあってサッカーへの向上心は本当にすごい。結局フライブルクから帰ってきた当時も、代表活動のためになどと本人は言っていたと思いますけど、パフォーマンスが上がらず結果が出なかったからと言う単純な理由です。それが今回はWEリーグで活躍し、代表にも選ばれたのはパフォーマンスが上がったと言うことの証にすぎないです」
浦和レッズ復帰後もすぐに毎試合先発、と活躍の場を与えられたわけではない。当時の森栄治監督のもと後半途中出場も多かった。だが、猶本はここで精神的にこらえた。吉崎氏が言う。
「たしかに、彼女の実力なら先発フル出場できると思っていました。でも監督から、60分からしか出場機会をもらえないのであれば、その与えられた30分間で結果を出す選手になれば良い、それだけの話。というような話を当時しましたね。まあ、ストレスはあったと思いましたけど、クリアできたから結果を出せて、今がある」
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14日に行われた最後の親善試合パナマ戦で猶本は70分から途中出場。プレーできた時間は20分と限られたが、得点にこそならなかったものの左サイドからのフリーキックが左ポストを叩く惜しいシーンも見られた。本番での起用法も想像できるような、ワンシーンだった。
最初にお茶の間に知られるようになったのが&#8217;12年だとすればそれから11年間、猶本はそんないくつもの壁を地道に着実に乗り越えてきた。ようやくたどり着いた世界の舞台で、彼女はどんなプレーを見せてくれるだろうか。

了戒美子

2011年大会以来のW杯優勝を目指すなでしこジャパンは22日、初戦・ザンビア戦を迎える。2012年に注目された後、代表に選ばれず、今回ようやく復帰した猶本光はこの間、どんな日々を過ごしてきたのか。

２度のW杯＆五輪を逃した“サッカー界の長澤まさみ”猶本光が「枯らしたはずの」涙があふれた11年間

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