フリーアナウンサー・神田愛花「『お嬢様検定』を受けたいんです。」

ハッキリさせたいことがある。私は″お嬢様″なのか。

たとえば、番組で「40回以上ハワイに行った私が、オススメのお店を紹介します！」と言ったら、皆さんはどう感じるだろうか。私がお嬢様だと認識されていれば、すんなり受け入れられるだろう。だがそうでなければ、「は？　自慢？」と反感を買い、チャンネルを変えるきっかけになる。立場を正確に把握していれば、表現を変えることができるのだ。

私の半生を簡単にご紹介しよう。

母はハッキリお嬢様と言い切れる人だった。子供の頃から住み込みのお手伝いさんがいて、お買い物は三越の外商さんを通す家庭で育った。

そして結婚して生まれたのが、私を含む３人きょうだい。私たちは小学校受験もしたし、中高大と私学に通った。自宅は父が設計した３階建ての一軒家で、外国車にしか乗ったことがなかった。また、祖父から特に可愛がられていた私は、中学生になると「ちゃんとしたものを買いなさい」とクレジットカードを渡された。まだ子供なのにルイ・ヴィトンでお財布やバッグを買い、洋服はすべて百貨店で購入。さらに母の「日本の春夏秋冬に合わせてハワイに行くのよ」というまったく理由になっていない理由で、毎年４回、大学卒業までの10年間、一緒にハワイに行っていた。私が通っていた中高一貫の女子校はそんな子ばかりだったので、それが普通だと信じて疑わなかった。

だが大学で、自分に違和感を持ち始めた。ブランドのバッグで通学している子はほとんどいないし、足元は革靴ではなくスニーカーの子のほうが多い。芝生に座って缶ビールに直接口をつけて飲む子もいた。これまで出会ったことのないタイプばかりで、もしかして私は少数派なのか!?　と思った時、学食で私よりもはるかに高額なバッグを持った女の子が後ろの席に座った。電話で「ねぇパパ！　明後日から友達とハワイに行っていい？　部屋空いてるでしょ？　じゃあチケットよろしくね〜」と話していたのだ。興奮した。（急にハワイに行けて、しかも現地に部屋を持っているなんて！　お嬢様だなぁ!!）。違和感なんて吹っ飛び、私はお嬢様ではないと再認識した。

そしてNHKに入局し社会人に。その時初めて、「神田の感覚は一般的ではないよ。自分の経験が当たり前だと思っちゃいけないよ」と先輩に言われた。それを境に、言葉で何かを伝える人間として発言に気をつけるようになった。ニュースを勉強し、たくさん取材に行かせていただき、育った環境を客観的に見た時に（私はお嬢様だ）という確信を得た。

中途半端な″お嬢様″

その後フリーアナウンサーになり、「女子校出身のお嬢様」という括りで番組に呼ばれた。（容易い御用だ!）と、肩をぶん回しながら参加した。

ところがだ。他の共演者たちは桁違いのお嬢様たちばかりだった。今も執事がいる生活を送っている方、世界の社交界と繋がっている方、この世に数点しかない宝石を代々受け継いでいる方など。私のお嬢様レベルは「屁(オナラ)」みたいなもので、いるだけで恥ずかしくなった。（私はやっぱり普通の人じゃん!）と思い直した。

なのに今、フジテレビ『ぽかぽか』で、なんのためらいもなく「母とパリに行った時に……」と話すと、SNSでは「自慢話を入れてくる神田が嫌だ」と書かれるのだ。

こんな状況はもう嫌だ。毎日２時間の生放送でMCを全力で務めるには、世間ではどんな状況が揃えば過去を素直に受け止めてもらえるのか、知っておかないと無理がある。

そこで先日、とてもいいことを思いついた。″お嬢様検定″を創ってみたらどうだろう。お嬢様なら答えられる問題に解答し、点数をつける。一級に合格すると圧倒的なお嬢様の証となり、その人がどんな話をしても、世間の皆さんは「一級の人だもんね」で受け入れられると思うのだ。きっとタレントの森泉さんは、一級をトップで通過するだろう。私は三級くらいかな。で、もし三級もお嬢様だと認定されれば、「40回以上ハワイに行った」と私が言っても文句は言わないでほしい。お嬢様はそのくらい当たり前なんだから。逆に、三級はお嬢様じゃないと決めてくれれば、私が何を言っても、たかが三級の話なので怒らないでほしい。だって、上には上がいるんだから。

かんだ・あいか／1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2023年9月15・22日号より