フリーアナウンサー・神田愛花「このコラム、何処で書けばいいんだ！」

フリーになった時からずっと、書く仕事をしてみたいと思っていた。人気のフリーアナウンサーは女性誌で連載を持ち、ライフスタイルやファッションについて語り、オシャレなイメージを植えつけることに成功している。知名度が上がった暁(あかつき)には私だって！　と努力してきた結果、初めて私に依頼をくださったのが、『ＦＲＩＤＡＹ』。芸能ゴシップと水着写真まみれの男性週刊誌から依頼を頂戴したことは、なぜかフリーアナウンサーのイメージとは違う方向にいってしまいがちな私らしい、有り難いことだった。決して得意なわけではないが、毎週楽しみながら書いている。

今年の２月からスタートして７ヵ月、今回で26本目。正直に言おう。「前の月の中旬くらいまでに翌月分のコラムを送る」なんていう当初の締め切りなんてとっくに守れなくなっており、毎週ギリギリのタイミングで提出している。イラストも毎回、バイク便を飛ばしてもらっている状態だ。編集部の皆さんには「もう一生コイツには当初の締め切りを守れるようになることなんてないな」と思われているだろう。でもこの連載は私の長年の夢。まだまだ続けたい！　ので、スピードアップのためにどこか良い執筆場所がないものかと、本気で探している。

連載がスタートした頃は飛行機の中で書くことが多かった。週１回、お仕事で福岡に行っていたので、往復で計３時間ある。誰からも話しかけられず電話もかかってこない機内は、文章を書くのにすごく気持ちが乗る場所だった。しかし３月末にそのお仕事が終了。それ以来、筆が進む場所が見つかっていないのだ。

文豪たちは皆、非現実的な空間に籠もって執筆していたイメージがある。静かで落ち着いた温泉旅館や、美しい自然が眺められるホテルの一室など。実際この春に宿泊したホテルでも、「このホテルから見える夕陽を見て、山崎豊子さんが『華麗なる一族』の冒頭文を書いたんですよ。そしてこれが使われていた机です」と説明を受けた。

私も書くスピードとクオリティを上げるために文豪たちの真似をしたいが、時間もお金もまったく足りない。

ただ――スマホのメモ機能で原稿を書いている私は、どんな場所でも書くことができる。そこで、私にとっては非現実的ないくつかの空間で試してみた。

お買い物の休憩で座る、銀座三越＆松屋銀座の中のエレベーター脇の椅子。高価だから普段は絶対に入らない、スターバックス。日焼けするのが嫌だから日中は出ない、自宅のベランダ。スマホでゲームをする時間に充てている、六本木に向かうバスの車内。どこも私にとって物を書くには非現実的な空間のはずなのだが……必ずあっという間にGo to Heaven。睡眠の世界に旅立ってしまう。

辿り着いた超非現実的空間

（ならば！）と、逆転の発想で思いついたのが「ベッド」だ。いつも私が左側、夫が右側に寝ている我が家のクイーンベッド。そこで原稿を書くなんて、すぐにGo to Heavenしちゃうだろう。だからこそ非現実的なんだ！

まずはいつも寝ている場所に座って書き始めた。するとヘッドボードが背中に当たって痛い。少し姿勢を崩し……でも中途半端だから完全に横になってみた。と、ほんの数分後にはGo to Heavenしてしまっていた。（ならば!!）。夫が寝ている右側に座ってみればいいんだ！　うん、いつもと景色が少し違う、これぞ超非現実的！　と思うも、さっきと同じパターンでGo to Heaven。（なにをー!!!）。もう最終手段だ！　完全に超超超非現実的な空間にしてやるからな！　と、夫側の脚元の位置に座って書き始めた。背もたれがないせいで寄りかかれず、疲れる。姿勢を崩すと、普段使わない筋肉を使うから集中できなくて、仕方なく身体を横にしてGo to Heaven。ダメだこりゃ。

そして今この瞬間は、いつもなら「ここで読めば買わずに済む！」と必死にファッション誌を読んでいるはずの、フットネイル中に書いている。すでに３回Go to Heavenしたが、たまに脚をガッと思いきり動かされるので目が覚める。お陰様でここまで書けた！　ついに見つけたぞ私の執筆の場を!!　だってもう書き終えるじゃないか！　でもネイルは月に１回。連載は最低でも月３回ある！　どうする!?　どうする愛花ぁぁぁぁ!!!

かんだ・あいか／1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2023年10月6日号より