マネーライター、ファイナンシャルプランナー／証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資１年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる！ キャッシュレス決済で絶対得する本 』。

松岡 賢治

<p><span class="strongInContent">１月に開催された日銀の金融政策決定会合以降、早ければ３月にも「マイナス金利政策」が解除されるとの見方が広がっている。そのため、長期金利は上昇し、メガバンクの固定型の住宅ローン金利は、小幅ながら引き上げられた。では、住宅ローン利用者の７割以上が利用しているという【変動金利】はどうなるのか？　専門家が解説する。</span></p>
<h3><span class="strongInContent">「10年固定型の金利」はすでに引き上げへ</span></h3>
<p>１月31日、日銀は、金融政策決定会合で出た「主な意見」を公表した。そこでは、参加者から、「大規模金融緩和策の転換に前向きな発言相次いだ」とされ、にわかに、金融政策変更の思惑が強まっている。</p>
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<p>これに金融市場は反応し、長期金利は小幅に上昇。それを受けて、<span class="strongInContent">三井住友、みずほ、りそなの各行は、それぞれ10年固定型の住宅ローン金利をこの２月から引き上げている。</span>10年固定型の住宅ローン金利は、長期金利に連動するからだ。なお、ここでいう長期金利とは、残存期間が約10年の10年物国債の利回りを指している。</p>
<p><span class="strongInContent">一方、利用者が圧倒的に多い【変動金利】はまったく動いていない。10年固定型や全期間固定型とは、異なるメカニズムで決定されるからだ。</span>まずは、その仕組みについておさらいをしておこう。</p>
<figure id="attachment_358072" aria-describedby="caption-attachment-358072" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="51716cc0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/3632a12825492015fec2fc726cc6867f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358072" class="wp-caption-text">【固定金利】の住宅ローンの金利は引き上げられているけど、【変動金利】は、なぜそのまま？</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">【変動金利】は「短期プライムレート」に連動する</span></h3>
<p>住宅ローンの【変動金利】は「短期プライムレート」（以下「短プラ」）に連動する。正確にいうと、連動するのは「基準金利」の部分だ。基準金利が上昇すれば、実際の借入金利である「適用金利」も上昇することになる。</p>
<p>短プラとは、金融機関が、企業に１年以内の短期資金を融資するときの最優遇貸出金利のこと。個人向け融資では、住宅ローンの他に、自動車ローンや教育ローンの基準にもなっている。<span class="strongInContent">したがって、短プラが引き上げられた場合、その翌月には、住宅ローンの【変動金利】だけでなく、自動車ローンや教育ローンも引き上げられる可能性が高い。</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">日銀の政策金利が「短プラ」に影響する</span></h3>
<p>では、どういう状況になったら短プラは上がるのだろうか？　短プラは短期金利に影響を受けるが、実質的には、日銀の政策金利に連動する、といえる。そして、この政策金利とは「無担保コール翌日物」だ。金融機関だけが参加するインターバンク市場で取引される、１日で満期となる超短期の貸出金利のことである。いろいろな略称があるが、以下、「翌日物金利」として説明を続けよう。</p>
<p>日銀は、翌日物金利の誘導水準を決めており、現在は－0.1％。翌日物金利は、日々、－0.1％を軸にして変動しているが、日銀が金融政策を変更しない限り－0.1％という誘導水準自体は変わらない。そして、その日銀の政策変更の第一歩が、「マイナス金利解除」なのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="マイナス金利「３～４月解除説」の根拠は？"></div>
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<h3><span class="strongInContent">マイナス金利政策の「３～４月解除説」の根拠とは？</span></h3>
<p>冒頭で触れたように、<span class="strongInContent">金融市場では、「早ければ３月にも解除があり得る」という見方が浮上している。例えば、日本経済新聞では『日銀１月会合、マイナス金利解除射程に　３～４月視野』という記事を配信した。</span></p>
<p>日銀は、’13年１月から、「インフレターゲット政策」を導入している。これは、デフレを脱却し、物価の安定を政策目標とするもので、具体的には、消費者物価の前年比上昇率２％がターゲットだ。’22年の前半の段階で前年比＋２％は達成しているものの、日銀は、「賃金の上昇を伴う形での持続的な物価上昇が見通せない」という理由で金融緩和を続けてきた。それが、今年の春闘で賃上げ率が大きくなれば条件が整う、というのが「３～４月解除説」の根拠となっている。</p>
<figure id="attachment_358073" aria-describedby="caption-attachment-358073" style="width: 5179px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a4796210"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/7050f0b36c0b316c5d33477463296c4e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358073" class="wp-caption-text">植田総裁は、２％の物価目標を達成できる見通しが立つまで、現在の大規模な金融緩和策を維持するというが…（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">物価が落ち着く今年後半は解除が困難になるおそれ</span></h3>
<p>しかし、<span class="strongInContent">この説には、３～４月を逃すと解除のタイミングを失ってしまう、という隠れた背景がある。</span>実は、消費者物価の前年比上昇率はピークを超えている。東京都区部の数字から類推すれば、今年後半には１％台で推移する可能性が高い。もしかすると、’25年には１％台を割るかもしれない。となると、インフレターゲットである２％が遠のき、マイナス金利解除の根拠がなくなってしまう。</p>
<p>物価が高水準にあり、春闘で賃金アップが注目されている時期に、日銀が自分たちを正当化するためにマイナス金利解除をする、というのが「３～４月解除説」の見方だろう。しかし、今年後半、物価上昇率が低下してきたときに、日銀はどんな説明をするというのか。大いに疑問が残る。</p>
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<h3><span class="strongInContent">実質賃金は21ヵ月連続でマイナスを記録中</span></h3>
<p>目下の経済状況を冷静にみれば、まだ、マイナス金利を解除できる状況ではないだろう。なんといっても、物価動向を加味した会社員の実質賃金は、直近データの’23年12月まで、21ヵ月連続でマイナスが続いている。賃金は上昇しているが、物価上昇分をカバーできていないのだ。</p>
<p>前述したように、物価上昇のピークは超えるとみられるが、賃金上昇は依然追い付かず、今年はマイナスが続く可能性が高い。たしかに春闘の賃上げ率は大きくなりそうだが、それは大企業の話。中小企業の賃金の大幅アップは、まだ望めそうもない。</p>
<p><span class="strongInContent">実質賃金のマイナスは２年目に突入している。「マイナスの翌年にまたマイナス」となっているわけで、家計の実態は数字以上に厳しくなっているはず。こうした状況下で、さらに国民の負担が増す、短プラの引上げにつながるようなマイナス金利解除の妥当性は低い。</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">マイナス金利解除から「ゼロ金利政策」への移行</span></h3>
<p><span class="strongInContent">話を戻すと、まず、３月のマイナス金利解除は100％近くないだろう。春闘の結果は出ているが、中小企業の賃上げはまだ見通せない時期だ。年度末も控えているため、金融市場の価格変動リスクを増幅するようなことを、日銀が率先してやるとは考えにくい。</span></p>
<p>住宅ローンでいうと、【変動金利】の見直しは半年に１回、４月１日と10月１日に行われるので、３月に解除して短プラが上がったら、すぐに影響が出る可能性がある。【変動金利】には、返済額の見直しは５年に１回という「５年ルール」があるので、４月から返済額が増えるわけではないが、返済計画の修正は余儀なくされる。また、５年ルールを採用していないネットバンクもある。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="【変動金利】はいつ上がる？"></div>
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<p>４月の解除は20％くらいの可能性がある。年度末要因がなくなり、賃金動向も見えてくるため、短プラの引上げにつながらない政策変更があるかもしれない。そもそも、マイナス金利政策とは、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部の金利をマイナスにすること。その副次的要素として翌日物金利の誘導水準を－0.1％にしている。もし、日銀がマイナス金利を解除するなら、翌日物金利は０％にするのではないか。「ゼロ金利政策」の復活である。</p>
<p><span class="strongInContent">この場合、短プラは引き上げられない可能性が出てくる。過去、’16年にマイナス金利が導入されたときも、銀行は短プラを引き下げなかった。今回、当時のようなことが起きても不思議ではない。但し、原則的には、短プラは銀行が独自に決めていい金利なので、日銀の思惑通りにいく保証はどこにもない。</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">これから約２年間は【変動金利】に変更なし……</span></h3>
<p><span class="strongInContent">最後に個人的な予想を。マイナス金利解除は、早くても10月の金融政策決定会合ではないか。米国の利下げの進捗次第では、’25年にズレ込む可能性もある。その理由については、これまでの繰り返しになる部分が多いので省略するが、重要なことは、解除されてもゼロ金利政策に戻るだけなので短プラの変更には至らず、よって【変動金利】も引き上げられない、というケースの蓋然性が高い点だ。おそらく、２年くらいは現行の水準が継続されるのではないか。</span></p>
<p>現在、【変動金利】の住宅ローンを組んでいて、それほど余裕資金がない人は、くれぐれもNISAなどはやらずに、コツコツと繰り上げ返済をしたり、来るべき変動金利の引上げに備えて貯蓄に励むことが賢明だろう。</p>
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松岡賢治

早ければ３月にも「マイナス金利政策」が解除されるとの見方が広がっている。そのため、長期金利は上昇し、メガバンクの固定型の住宅ローン金利は引き上げられた。では、利用者が圧倒的に多い変動金利はどうなるのか

「Xデーは近い？」住宅ローン利用者必読！ メガバンク・固定型は引き上げ…【変動金利】はどうなる

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