「時価」はもうNG!売り掛け廃止の余波でホストクラブに起こっている「変化」とは?
慶應卒ホス狂いライターが描くぴえんなリアル 令和6年、歌舞伎町はいま……第89回
4月になり、ついに歌舞伎町のほとんどの店舗で売り掛けが完全廃止に。それに伴い、今まで多くの店舗で「カード手数料」をプラス10%取っていたが、それを一律で撤廃するホストクラブが増えてきている。一方、その裏でしれっとサービス料を35%から37%に上げているような店舗も存在する。
「私の通ってる店舗なんて、サービス料40%ですよ。そこに消費税かかるんで、実際に支払うのはメニューの1.5倍の金額。でも、もう高いとか安いとかわかんなくなります。サービス料が低くてもテキーラが高い店とか、シャンパンの種類が少ないとか。ほんとお店によって金額もメニューもバラバラになってきましたね。まあ”通えば都”というか、結局担当が好きだったら店の方針に従いつつ通うだけなので……」(ミサ・仮名・22)
ホストクラブのメニュー表も警察の指導が入り、高級ブランデーなどの値段を「ASK」と表記することが禁止された。シャンパンタワーの料金システムもメニューに明記するなど、明朗会計への取り組みが増えている。
「酒の値段を隠すのがNGなら、高級鮨屋とかも全部アウトじゃないですか? でもまあ、女の子が注文した後に『値段知らなかった!』ってゴネたりしなくなるのはいいかもしれないです」(ユキト・仮名・24)
売り掛けの自主規制が段階的に始まった1月以降、ホストクラブではさまざまな変化が見られた。一つは顧客の来店日のバラつきである。
「夜職をしているお客様の来店数が、月初は減りましたね。みんなまとめて稼いでから来たいので、月末に偏る。だから、ホストクラブは月初がだいぶヒマになりましたね。『売り掛けでもいいからおいでよ!』って言えないから軽率に営業もかけづらい。
あと、お店に来た時に女の子に予算を聞くようになったかな。ぶっちゃけ、今まではちょっと予算をはみ出しちゃったら売り掛けにすればよかったけど、今はそうもいかない。だから『飲んだ勢い』で上げられる単価が減っちゃって。お金持ってても家に置いてある、みたいな子からの売り上げが減りました。カードを持ってる夜の子は少ないですし」(同前)
客単価がなかなか上がりづらくなったホストクラブでは、月末の「締め日」にも変化が起きているという。
「今までの月末のラストオーダーって、テーブルに紙が配られて、そこに書いた飲み物までを売り上げにカウントしていたんですよ。だから、他のテーブルの様子を探って『あと50万円上乗せしないとランキングで別のホストに負けるかも……』とか予測して、女の子に無理言ってシャンパンを入れてもらうみたいなことがよくあったんです。
でも、もうそれができなくて、女の子が持ってきた現金分しか売り上げが上がらない。そういう客とホストの間に起こる駆け引きみたいなのは少なくなりましたね。
本来の締め日って、エース客とかが呼ばれて、売り上げが足りなかったら売り掛けをしてもらうか立て替えで無理やり帳尻を合わせる世界。あまり予算のないタイプのお客さんが締め日に来るケースってレアでした」
そう語るユキトは「とはいえ負けたくない時もあるんで、店のロッカーに200万円入れてます。いざとなったら女の子に貸せるように」とも話していた。売り掛け規制により、締め日のあのピリピリ感がなくなるのは、少し寂しい気もする。
『FRIDAY』2024年4月19日号より
連載記事
- 取材・文:佐々木チワワ
ライター
’00年、東京生まれ。小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、大学ではフィールドワークと自身のアクションリサーチを基に”歌舞伎町の社会学”を研究。主な著書に「歌舞伎町モラトリアム」(KADOKAWA/'22年)、「『ぴえん』という病 SNS世代の消費と承認」 (扶桑社新書/’21年)がある。また、ドラマ「新宿野戦病院」(フジテレビ系)など歌舞伎町をテーマとした作品の監修・撮影協力も行っている。 『FRIDAY』本誌の連載が書籍化、「ホスト!立ちんぼ!トー横! オーバードーズな人たち ~慶應女子大生が歌舞伎町で暮らした700日間~」(講談社/'24年)が好評発売中。