『天才を殺す凡人』 著者・北野唯我氏を救った“共感の神”とは?

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世の中を変えるほどの天才的才能を発揮する人が、あっさりと凡人たちにつぶされてしまうーー歴史上の出来事でも、また現代の職場や組織での人間関係においても、しばしば起こる悲劇。そのメカニズムを解明した画期的な才能論『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』(日本経済新聞出版社)が売れており、10万部突破も間近だという。

著者は、新卒採用サービスを運営するIT企業の執行役員を務める北野唯我氏30代の若さで複数の会社経営に携わり、また文筆にも活動の幅を広げる彼もまた天才気質を携えた人物であり、世に出るまでにはさまざまな軋轢を経験してきた。かねてから「人の可能性を阻害するものに、憤りを感じてきた」という北野氏の才を育て、世に引き出した人物とは? 

誰の中にも「天才」「秀才」「凡人」がいる

〈あなたは何タイプ。向いているのはこんな職業です〉

就職や転職を前にしたとき、またはキャリアに行き詰まりを感じた際に、本や雑誌の記事でいったい何回、こんなタイプ診断を受けたことだろう。それらは大方類型的で、残念ながら実際に参考になることは少ない。北野唯我氏も、そんな現状に不満を持つひとりだった。

「そういうテストをやると、僕はだいたい『感受性が高い』と出るんですが、だから何なんだって話ですよね(笑)。『あなたには作家が向いています』と言われても、そうそう誰もがなれるわけじゃないし……。常々、実務に活用できない自己分析ツールには意味がないと思っていたし、会社の経営をやっている立場からしても実際に活かせるものを、と考え始めたのが出発点でした」

本書では、ある一つの会社を舞台にした物語形式で、「天才」「秀才」「凡才」という3人のプレーヤーが登場し、才能を殺し(つぶし)合ったり、時に助け合ったりしながら仕事をしている。「この3人は特定の誰かではなく、あなた自身の中にもいる3人です」と北野氏は前書きで述べている(イラストは『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』より)

北野氏が編み出したのは、創造性で評価を受ける「天才」、再現性の高い「秀才」、共感性の強い「凡人」という3タイプの人間の関係性が世の中が動かす仕組みを解明する才能論。ここまで読んで、んんん……そのタイプ分けってよく見かけるけど? と疑問に感じた人にこそ、本書を手に取ってほしい。北野氏の理論は、人間を3カテゴリーに押し込めて分断するのではなく、「天才」「秀才」「凡人」それぞれの中にもまた天才の創造性、秀才の再現性、凡人の共感性が備わっており、その力の発揮如何で社会が変わると説いているのだ。

世の中を、良くも悪くも前進させる存在である「天才」は、変革の途中で精神的に、もしくは物理的に殺されることが多い。その理由のほとんどは、コミュニケーションの断絶によるもの。大企業がイノベーションを起こせない理由と同じ構造だと本書は説く(イラストは『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』より)

「創造性」「再現性」「共感性」をバランスよく発揮

たとえば、と北野氏が引き合いに出したのは、何とポケモン1987年生まれらしいアナロジーである。

「ポケモンにはそれぞれに能力があって、それがHP(ヒットポイント)、攻撃力、防御力、素早さなどで表現される。攻撃力が高いから攻撃だけしていればいいというわけではなく、あくまでパラメーターですよね。すなわち、ある能力がある人とない人という分け方ではなく、創造性や再現性、共感性は誰の中にもあって、その力に高低がある。そうした個々人が、新しいものを生み出すとき、チームワークで物事を進めるときなどフィールドごとに求められる能力を発揮するには? と考えていけば、ほぼすべての状況を網羅できるとわかりました」

「創造性」の高い人が得意分野の技術を磨いて「再現性」を上げれば、さらに高い能力を発揮する「エリートスーパーマン」になれる。努力を惜しまない秀才が「共感性」を高めれば、「最強の実行者」に進化する。しかし、「再現性」を高める努力をしない天才は「病める天才」としてスポイルされ、天才に嫉妬し凡人を顧みない秀才は「サイレントキラー」となって組織や社会を蝕む……。読み進めていくと、あるある、と頷けることばかりだ。

「天才」「秀才」「凡人」間のコミュニケーションの断絶を防いでくれるのは、それぞれ2つの才能を掛け合わせた3人の人物。その3人を、北野氏は「アンバサダー」と呼ぶ(イラストは『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』より)

それにしても、30代になったばかりの若さでこうした構造を見抜き、解決策を提示できる北野氏は、相当の創造性、すなわち天才気質の持ち主。実際、「つぶされそうになった経験は、たくさんある」という。

「高校3年の頃から社会起業家として活動してきたんですが、思えば学校のルールを無視したことも多かったし、社会に出てからも上の人とぶつかったし……。学校とか会社とかどうでもよくない? と、若い頃から思ってしまうんですね。それよりは、世の中のためにやるべきことがあったらやればいいし、本として書くべきことがあれば書けばいいと。今思うとそれは、学校の先生やいわゆる真面目な人たちからすると、すごくムカつく態度だったんだろうと思います」

共感性を高めれば、凡人は「神」になる

しかし、その異能の必要性を感じ、世に解き放つために力を貸す人々も現れた。北野氏は「言葉としては失礼にあたるかもしれないんですが……」と前置きした上で、その人々を、自書の中に記した「共感の神」と位置付けている。カテゴリーこそ「凡人」だが、共感性が極めて高いがゆえに天才の能力を見抜き、根回ししながら育てることのできる、組織にとって稀有かつ貴重な存在だ。

この本の物語に登場するのは、この9タイプの人物。実際のビジネスシーンに落とし込んだ構成で、読者が普段の生活の中でイメージしやすくなっている(イラストは『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』より)

「最初の本(『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』ダイヤモンド社刊)を出すとき、やっぱり30歳という年齢でビジネス本を出すことに、社内で相当議論があったそうなんです。どんなに面白いことが書いてあっても、著者が若いというだけで読者には受け入れられないだろうと。でも、担当編集の方とその上の編集長は、僕の文章を読んで『論理的な思考力もあり、人の心を動かすパッションも備えている』と推してくださった。そのことに、すごく感謝しています」

天才を殺さず伸ばした「共感力」。それは、天才や秀才にもまた備わっているという。北野氏が親交を持つ為末大氏も、そんな力を発揮するひとり。元アスリートで現在は実業界や文化・スポーツ振興などさまざまなジャンルで活動する、多面体の天才だ。

年半ほど前、仕事の対談で出会ったんですが、『北野さん、面白いね!』と言って、その後もあちこちに引っ張ってくださった。まだ本を出す前だったのに、『いずれ有名になるだろうから、先にベットして(=賭けて)いるんですよ』と冗談を言いながら。いつも〈人間とは何か〉といった本質的なことを考えている為末さんはクレバーで、文字通りの天才ですが、僕からすると共感の神でもあるんです」

天才の才能を育て、世に生かすために

自分に共感し、支えてくれる人がいるーーその思いが、天才の力をさらに伸ばし、パフォーマンスを加速させる。そのサイクルは、人間関係だけでなく、経営の上でも有益だと北野氏は語る。

「前Google日本法人名誉会長の村上憲郎さんに、『Googleには天才がたくさんいますが、その人たちをどうマネジメントするんですか?』と尋ねたことがあるんです。そうしたら村上さんは、『天才をマネジメントすることはできないので、放牧しかしません』と言った。そして、自分にできるのは、天才が失敗したりルールを破ったりしたときに謝りに行くことくらいですと。才能あふれる人が働くとき、村上さんみたいな経営者の下と、『黙って俺に従え』と言う人の下のどちらを選ぶかといったら、絶対的に前者じゃないですか。おそらくですが、もともと天才エンジニアだった村上さんにとっても、天才でい続けるのは難しいことだった。年齢を重ねて、ある時期から根回しを担うようになったり、共感して支援する側になっていったんだろうなと思いました」

少子化、人口減が進む日本社会で今後もっとも必要とされるのは、もしかしたら天才を殺さない凡人力なのかもしれない。誰もが自分の中に埋蔵された力をあらためて見直したくなる、そんな一冊を著した北野氏。いずれは「国家戦略について書くのが夢」だという。


北野唯我 きたの・ゆいが 1987年兵庫県生まれ。神戸大学経営学部卒業後、博報堂に入社。経営企画、経理財務を担当したのち退社し、アメリカ・台湾で遊学。帰国しボストンコンサルティンググループ勤務を経て、ワンキャリアに参画。同社執行役員、子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問を兼任しつつ、18年、初の著書『このまま会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』を出版し、12万部に。『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ』は5刷7.5万部と版を重ねている。公式ツイッターはコチラ

 

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  • 取材・文大谷道子

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