『なつぞら』十勝編終盤にきた「神週」 中心人物はやっぱりあの人 | FRIDAYデジタル

『なつぞら』十勝編終盤にきた「神週」 中心人物はやっぱりあの人

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編④

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第6~7週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより
NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

第7週は「神週」だった

泰樹(草刈正雄)には泣かされっぱなしだ。頑固じじいの強がりは本音の裏側を映し出す。「ふざけるな」「勝手にしろ」「今すぐ出ていけ」そのどれもが心の裏返しであり運命への八つ当たりである。十勝へ来たばかりの子、なつが「働かせてください」と言ったとき、「それでこそアカの他人だ」と心を鬼にした言葉は、時を経て百倍になって泰樹に返ってきた。“お前のわがままでなつを東京へ行かせないのか”と。

なつの幸せと自分のわがままを天秤にかけたらどちらに傾くかは分かっている。十勝と東京になると怖くて天秤の行方を見られない。そんな想いを振り払えず、ついついなつに怒鳴ってしまう。怒鳴ったあとは後悔にまみれながら仔牛を撫でる。仔牛の従順な目に見つめられ、「なつよ、すまん」と言ったのだろうか。

家族に弱みを見せられない泰樹は、雪月のとよ(高畑淳子)を訪ね、雪次郎(山田裕貴)と一緒になつを東京へ連れて行ってくれと頼んだ。それがなつにしてやれる泰樹の精一杯だった。

神週だった第7週の名シーンが蘇る。

「お前のことは雪月に頼んできた。東京へ行け」

泰樹の意外な言葉になつが戸惑う。

「じいちゃん、もう家族ではいられんの?」
「いつでも戻ってくればいい。ここはお前の家じゃ。それは変わらん。お前がもし東京で幸せになるなら、それも立派な親孝行じゃ。それを絶対に忘れるな」

勇気をふりしぼった泰樹の言葉。もう後戻りはできないという覚悟が、なつの心に深く刺さった。

東京か十勝か、揺れるなつの心を押したのは天陽(吉沢亮)だった。天陽は、進路に悩むなつに、開拓者としてたったひとりで北海道に来た泰樹が見本だと諭した。混じりけのない天陽の言葉になつは決意した。

「じいちゃんがひとりで北海道来て開拓したように、私も挑戦したい。やっとわかったのさ、じいちゃんみたいになりたかったんだって。それが私には、漫画映画を目指すことなのさ。そんなの無理ってずっと思ってたけど、今はそう思えなくなったのさ。思いたくもない。じいちゃんごめんなさい。酪農を、じいちゃんを裏切っても私はやりたい」

「何が裏切りじゃ、ふざけるな」

膝を折り、泰樹がそっとなつの頬を撫でた。

「よく言った。それでこそわしの孫じゃ。行ってこい。漫画か映画か知らんが、東京を耕してこい。開拓してこい」

なつを東京へ送り出してやることが、泰樹にとって最後の開拓だ。『真田丸』の昌幸もそうだったが、強くて烈しくてやさしくて、ときに心が脆くなる泰樹に心酔してしまう。なつの送別会に出席しなかった泰樹が、牛舎で牛を撫でながらむせび泣く姿が目に焼きついて離れない。この先にあるとてつもないじいちゃんロスを思うと、寂しさと戦いながらながら視聴するようなものだが、それも名作へのファクターだろう。

草刈正雄 写真/アフロ
草刈正雄 写真/アフロ

さらば、十勝メンズたち

ときにわがままで思わせぶりななつに振り回され、それでもなつを励ます天陽は天使のようだった。天使の放つ矢は恋の軌道を避けていつもなつの夢に向かっていた。なつと離れなければならない現実に、頼れるのは強がりだけだと言い聞かせ想いを隠してきたが、なつの東京行きへの気持ちが固まると、ついに心を告げた。

「俺はなっちゃんが好きだ」

雪月での送別会で仲間を前にして言った言葉は、天陽にとっての卒業式であり次へのスタートの合図、そして自分へのエールでもある。言えずにいた、いや、言わないでいた大切なひと言を胸に、別々の場所で成長していくなつと天陽を見守りたい。

照男(清原翔)の恋の行方も楽しみだ。泰樹の期待を背負い酪農家として生きるために、何かを捨ててきたような寂し気な瞳は、『カーネーション』の時の綾野剛のような雰囲気だった。

ところが、砂良(北乃きい)との出会いで、陰に漂っていた色気をハニカむようなキュートさに変え、砂良の家で食べたミルク鍋を真似して家族に振る舞い得意気な顔をする。ミルクの御礼にと砂良が柴田家を訪ねて来たときに、砂良が「いつでも待ってるからね」となつに言った言葉に、笑顔で「はい」と答え、なつに「私が言われたの」とツッコまれると「兄としてだべ」とまたハニカむ。

クールな照男のルンルン現象に茶の間がホットになったことは必至だ。すでにかなりキテる清原翔だが、照男デビューの方もかなりいることだろう。

舞台は新宿へ。十勝メンズに後ろ髪を引かれながら、アニメーターを目指すなつの冒険がはじまる。なつ、夕見子、照男の、色違いの手編みセーターがしばらく見られなくなるのが、ちょっとさみしい。

<「なつぞら編③」 「なつぞら編⑤」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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