『なつぞら』ダメ男でモテ男…兄を演じる岡田将生はまさにハマり役 | FRIDAYデジタル

『なつぞら』ダメ男でモテ男…兄を演じる岡田将生はまさにハマり役

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編⑤

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第8~9週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより
NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

ダメな兄とよくデキた妹

幼い頃に生き別れになった、なつ(広瀬すず)と兄の咲太郎(岡田将生)。なつは、いつか迎えに行くという咲太郎を信じて待ち、咲太郎はいつかなつを迎えに行くことを希望にそれぞれの時間を生きてきた。しかし運命は皮肉で、結果的になつが咲太郎を探すという巡り合わせに。そこには兄妹のささやかな矛盾があった。

咲太郎は確固たる自分を築いてから迎えに行きたかった。だからこそ、突然現れたなつに戸惑い強がりを言った。離れていた時間が長かったぶん、妹にがっかりさせたくないという思いを強くした兄は、いわば男特有、カッコつけの理想論。風呂敷を広げ、虚勢を張ってありもしない自分を演じる咲太郎の気持ちは痛いほど分かる。

かたや妹は、どんなかたちでも会えればいいという現実派。兄に会えるだけで、なつは嬉しかった。その小さなボタンの掛け違いが不憫でもどかしくて、やりきれない。そして舞台は十勝から東京へ。物語はふたりを中心に展開する。

設定からすれば、なつにとって東京はアウェー。ホームであるはずの咲太郎にホームアドバンテージはなく、どうしたらなつの力になれるのかわからず、何かにつけて言い争いを招き、なつに住む場所さえ与えられず情けない思いでいた。

早い話がダメ人間、そう思われても仕方ない咲太郎が新宿で生きてこられたのは、ひとえに人を思う純粋さがあったから。そして、人はそこを見ていた。咲太郎に人を見る目があったのではなく、幸運にも咲太郎という人間を見る目をもった人々に出会えたのだ。

不器用だけど純真、世話になった人には恩返しをするという咲太郎の確たる思いが出会った人々に関係を断ち切らせず、誰もが咲太郎の人生を後押ししようとした。それでも空回りし続ける咲太郎は、今だに何者でもないただの男だ。

そんな咲太郎にとって、なつは眩しすぎる。離れて暮らす間に逞しく成長し、夢をもって上京したなつを誇りに思っている。さほど上手くはないが、画を描くのが好きで、漫画動画の仕事をしたいという、なつの純粋な動機が羨ましいのだ。

岡田将生が演じると、どんなにダメ男でも愛おしく感じる… 写真/アフロ
岡田将生が演じると、どんなにダメ男でも愛おしく感じる… 写真/アフロ

咲太郎(岡田将生)はなぜこんなにモテるのか…

なつは、東洋動画の入社試験に落ちた。咲太郎が余計なことをしたことが原因だった。それでもなつは咲太郎を責めない。そればかりか、夢へのギアを一段階アップさせた。

「落ちたのは私の実力。そうじゃないと見返せないでしょ。次の試験に受かって、絶対に漫画映画を作ってみせる。それだけは絶対に諦めたくない。そう決めたんだわ」

力強いなつの言葉に咲太郎の心が揺れる。“同じサンドイッチマンでも、何かを誤魔化したり、言い訳をしながら踊るのはやめよう”。心の声を字幕にしたら、きっとそんな言葉になっただろう。

そしてなつは、二度目の試験で合格する。夢への扉を自力でこじ開けたのだ。

この先、なつには次々と試練がふりかかるだろうが、 それをひとつひとつ乗り越えて行く開拓者魂に、 あらたなキャストたちも心が揺さぶられていくことだろう。会社で いきなり因縁をつけてきた大沢麻子(貫地谷しほり) との距離感の変化には注意をはらいたい(おそらく大親友に!)。 東洋映画の大杉社長(角野卓造)にひとあわ吹かすシーンは、 ぜひとも盛り込んでほしいところだ。

それにしても咲太郎はモテすぎだ。母親がわりの元ダンサー亜矢美(山口智子)、川村屋のマダム光子(比嘉愛未)、川村屋のウエイトレス佐知子(水谷果穂)、クラブ歌手・煙カスミ(戸田恵子)の付き人である土間レミ子(藤本沙紀)、ストリッパーのローズマリーと、取り巻く女性たちはそれぞれ咲太郎にメロメロだ。

しかも咲太郎にとっては確信犯ではなく自覚症状なしのモテっぷり。ああ、ダメ男はなぜモテると腹立たしく思っていたが、よくよく考えれば咲太郎役は岡田将生だということを忘れていた。

昭和31年の新宿。戦後間もない夜の街に、戯けるようなタップを鳴らす咲太郎の胸にはキャバレー『スイートホーム』の看板が。

「さぁ、夢のスイートホームに帰りましょう」

声を張り上げる咲太郎の呼び込みが、戦災孤児となり歯を食いしばって生きてきた自分となつへのエールに聞こえてならない。笑顔の奥に哀しみを忍ばせる咲太郎の演技がせつない。まだ見ぬ千遥の行方を追いつつ、なつと咲太郎の借家暮らしはスイートホームとなるのだろうか。

<「なつぞら編④」 「なつぞら編⑥」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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