まさにチーム戦! 朝ドラ『なつぞら』をサッカーにたとえてみた | FRIDAYデジタル

まさにチーム戦! 朝ドラ『なつぞら』をサッカーにたとえてみた

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編⑥

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第9~10週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより
NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

『チームなつぞら』十勝編の司令塔はまぎれもなく、闘将・泰樹じいさん

朝ドラはサッカーのようだ。緻密に組織された戦術が機能すれば、プレイヤー同士が響き合い相乗効果を生み出してゲームを支配し感動をもたらすが、それぞれの持ち味が絡み合わなければ淡白で大味なゲームとなる。これまでに数々の主演をつとめたヒットメーカーの広瀬すずでさえ、脇を固める役者たちと機能しなければ、演技が孤立し空回りしてしまうところだが、『なつぞら』では脇役陣との共演で伸び伸びとした演技をみせてくれている。

十勝編では、泰樹(草刈正雄)、富士子(松嶋菜々子)、剛男(藤木直人)をはじめ、実力派ぞろいの俳優陣となつが見事に呼応し、ひとつのチームを作り上げた。ふりかかるさまざまな悩みや困難にチーム一丸となって守備を固め、辛抱の連続から生まれたチャンスを見逃さず、わずかに空いたスペースになつを走らせた。

司令塔はGKの泰樹。最後尾からチームを鼓舞し、ピンチの場面ではがっちりとなつの心を受け止めた。目を見張るようなスルーパスやダイレクトパスはなく、ひとつひとつのプレーに体を張り、陣形が整うまでボールをキープし、わずかなチャンスを見逃さずに前線のなつにパスを送った。まだ荒削りななつは、シュートを芯で捉えられず外してばかり。それでも十勝の人々は、なつの夢を叶えさせるために、チーム一丸となって堅実に守備を固めた。

フォーメーションは、1トップのなつ以外はすべてDF。富士子がボランチの役割を果たすこともあるが、残る9人はすべてDFという稀な陣形。時折サイドラインを駈け上る富士子のクロスになつが飛び込み、相手DFと接触して転々とするボールを夕見子(福地桃子)がゴールしたこともあった。

守備に不安がある剛男がピンチを招き、照男(清原翔)と、悠吉(小林隆)、菊介(音尾琢真)がペナルティエリアへのクロスを頭で跳ね返す。スーパーサブの天陽(吉沢亮)が投入されたが、なつとのホットラインにはパスミスやタイミングのずれが生じて得点には至らない。ふたりが心を分かち合ったのはロスタイムだった。

ラフプレーの多かった咲太郎が、フェアプレーでなつを支える

ゲームはそろそろ後半戦へ。東京編になってしばらくぼんやりした試合展開が続いたが、なつが東洋動画に入社してゲーム展開は目まぐるしくなる。それまではラフプレーが多くファウルを重ねた咲太郎(岡田将生)が、ポジションをFWからボランチに変え、自分よがりのプレーを控えてなつの精神的支柱になっている。最終ラインとの呼吸はいまいちだが、ここしばらくでのラフプレーは、アニメーターの仲(井浦新)を池に突き落としたことだけ。身を呈してなつをサポートするプレーが目立ちはじめた。

もう一枚のボランチ、信哉(工藤阿須加)は、情報収集力と冷静な判断力でなつにパスを供給し、自らも咲太郎とともにゴールに詰める。なつや咲太郎を昔から知り性格を把握している信哉ならではのプレーがゲームを大きく動かすことは、なつの妹の千遥の住所をつきとめたことでも証明されている。おそらく千遥にも信哉の記憶は残っていることだろう。彼を新聞記者に据えたところも、ベンチのファインプレーだ。

おでん屋の女将で咲太郎の東京の母、亜矢美(山口智子)と川村屋マダム、光子(比嘉愛未)は、対照的なプレースタイル。ともにライバル心を掻き立て、噛み合わない場面もあるが、共鳴したときには甚大な力となるだろう。亜矢美のダンサブルなオーバーリアクションがカズダンスのようにチームの士気を高めてくれることを願う。

アニメーターの仲と井戸原(小手伸也)、セカンドの下山(川島明)は、なつの心のよりどころ。チャレンジ精神の裏側に潜む弱気を勇気に変えてくれるプレイヤー件応援団である。それぞれに持ち味を発揮しながらゴールを目指す意思共有がなつを鼓舞し、なつをひとつ上のステージに引き上げる。仲が、不振でもなつをベンチに下げず使い続けるのは、なつの才能を信じ、アニメーターの試験に落ちても、彩色の仕事を黙々とこなしながら自主練するなつの努力を知っているから。仲は、なつを一人前のアニメーターにするという使命感に溢れている。タイプは違うが、仲には十勝編の照男のような癒し役としての存在感もある。

麻子役・貫地谷しほりの存在がなつの心に火を点ける

セカンドの大沢麻子(貫地谷しほり)が登場したことで物語はぐっと引き締まった。麻子は、なつにとっていわば天敵でありライバルとなる人物。なつの才能を最初に見出したのも麻子だが、麻子は易々となつの才能を認めない。そうすることで、なつの才能をより引き出そうとする感じがしてしまうところに、貫地谷の演技の奥行きを感じる。ため息ひとつ、気配ひとつで緊張感を与える麻子は、なつにとって、衝突することでしか理解を得られない難敵だろうが、やがてかけがえのない存在になるのだろう。

仕上課で、なつの上役だった富子(梅舟惟永)の演技も素晴らしい。『愛と青春の旅立ち』の鬼教官のように、なつに厳しく接し、成長したなつに敬意をもって次のステージへと送り出す。仕上課を卒業するなつとのやりとりが印象的だった。

「そう、動画に行っちゃうのね」
「すみません。仕上げを裏切るようで」
「裏切る? あなた、裏切るような力、持ってたの?」
「あ」
「しっかりおやりなさい。あなたがきちんといい動画を描いたら、こっちできちんと仕上げるから」
「はい」
「そのときはあなたのことを、“なっちゃん”と呼ばせてもらうわよ」

光子、富子に続き、麻子に、“なっちゃん”と呼ばれる日はいつの日か。麻子から繰り出されるパスは簡単なものではないだろう。そればかりか、なつのポジションを脅かす存在になることは必至である。まだ後半戦のホイッスルは鳴らないが、このゲームにハーフタイムはない。夢と十勝と妹と(きっと恋愛も)、ハットトリックは日々15分の献身的なプレーの積み重ねの先にある。

<「なつぞら編⑤」  「なつぞら編⑦」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

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