「なつぞら」が描く家族の絆 物語の鍵を握っていた「ひと言」 | FRIDAYデジタル

「なつぞら」が描く家族の絆 物語の鍵を握っていた「ひと言」

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編⑦

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第12~13週から。

俳優を目指す雪次郎(山田裕貴)の父で、菓子職人の雪之助 を演じる安田顕(15年4月)
俳優を目指す雪次郎(山田裕貴)の父で、菓子職人の雪之助 を演じる安田顕(15年4月)

小畑家を巡る物語が感動を呼ぶ

第13週は「なつよ、『雪月』が大ピンチ」のタイトル通り、小畑家が中心となる展開となった。芝居にのめり込み、『川村屋』を抜け出した雪次郎(山田裕貴)に修行を続けるよう説得するために、雪次郎の父、雪之助(安田顕)と母、妙子(仙道敦子)、祖母のとよ(高畑淳子)が上京する。ここで繰り広げられた家族劇に多くの視聴者が胸を打たれたことだろう。十勝編では、なつ(広瀬すず)をとりまく柴田家の家族の絆が存分に描かれたが、もうひとつの家族、小畑家のそれもまた感動を呼ぶにあまりあるものだった。

雪次郎の居場所がわからず、おでん屋『風車』になつを訪ねた雪之助が、女将の亜矢美(山口智子)に、土産のバタークッキーを差し出した。

「そんなもの、けっこうです」
「僭越ですが、土産は、”そんなもの”ではありませんよ」

雪之助の菓子への想いの深さとプライドが、雪次郎への憤りをより募らせる。
このひと言が、その後の展開をぐっと引き締めることになった。

アパートへやってきた雪之助たちに、雪次郎が「夢を追わせて欲しい」と懇願するが、雪之助は断固反対する。雪之助は、覚悟を決めて川村屋のマダムと職長に申し出た。

「私もここで働きます。もちろん無給で。こいつがここにおちつくまで何日でも働きます」

父の覚悟に反論すらできない雪次郎は、雪之助とともに川村屋の厨房に立った。ふたりの様子を見にきたとよが、父の横で泣きながら菓子づくりをする雪次郎に見かねて言った。

「雪次郎、もう行きな。そのかわり、もう二度とここに戻って来るんじゃないよ」
「ばあちゃん‥…」

泣きじゃくりながらその場から去る雪次郎を、雪之助が追おうとすると、とよが両手を広げて阻み、雪之助の頬を引っ叩いた。

「自分の子どもに惨めな思いさせるんでないわ」
「かあちゃん…‥」

”ばあちゃん”と”かあちゃん”。息子も孫も黙らせるとよの強さに、開拓者魂のそれを見た。その強さと、その裏側にある深いやさしさが、『雪月』とその家族をこしらえたのだ。泰樹(草刈正雄)が牧場と柴田家をつくったように。だからこそ、とよと泰樹は、かけがえのない開拓者仲間であり戦友なのだ。

雪之助が課したバターケーキづくりに、雪次郎は誠意と覚悟を決めた。その味に、雪之助は、これまでの修行の日々と、夢に向かおうとする息子の気持ちを知った。

「雪次郎、何をするにもこれぐらいやれ。これぐらい努力して、これぐらい一生懸命やれ」

『雪月』を守ることが使命の雪之助にとって、菓子づくりを離れ、役者へ身を投じようとする雪次郎を、易々と送り出すことはできない。ただ自分が持てなかった夢に向かって真っすぐな思いを貫く息子を、心のどこかで羨ましく思ったことだろう。最後の言葉に、雪之助の本音が覗いた。

「お前がこれからやろうとすることは、いくらあきらめてもいいことだ。あきらめるときには、いさぎよくあきらめろ。そして帯広に帰って来い」

息子の夢を応援する自分と、息子と一緒に『雪月』をやりたい自分が交錯する。あきらめたときには故郷に帰って来いという懐の深い言葉の裏側には、本当はお前と一緒に店をやりたいんだという想いが垣間見えた。

なつには新たな恋の予感が

一方、なつがはじめてアニメーターとして手掛けた『わんぱく牛若丸』は大ヒットし、なつはアニメーターとして少しずつ自信を身につける。その制作が終了した時点で、なつは同じ会社で働く天陽の兄、陽平(犬飼貴丈)から、天陽が結婚するという衝撃的な事実を聞いた。恋の行方を左右するはずと思われた天陽がまさか結婚とは。脳裏を巡る天陽との想い出に、すべての音が遮断されるなつ。これでなつをスキー対決で争った天陽と照男(清原翔)はふたりとも既婚者に。

そして、あらたな恋の予感も。同じ東洋動画の演出助手の坂場一久(中川大志)とは、性格も考えも合わないが、劇的な場面が用意されていた。

社内の階段。いつものように動画の描写に悩んでいたなつに、「また馬ですか」と坂場が声をかける。「もしお役にたつのなら、私が馬になってここを駆け下りましょうか」と、珍しく協力的な言葉も。

やり取りの中、階段でバランスを崩し、手でバタバタするなつを坂場が手を掴んで助けた瞬間に、悩んでいた馬の描写のアイデアを思いついたのだ。

馬の話がきっかけで接近したふたり。思えば天陽とは並んで乗馬をし、天陽の描いた画も力強い馬だった。今後も何かにつけて、馬がなつの恋の鍵を握るのだろうか‥…。

週が明け、物語は急展開する。

麻子(貫地谷しほり)とふたりで短編映画の原画を任され、新たなチャレンジに燃えるなつに、富士子(松嶋菜々子)から電話が‥…。

「なつよ、千遥はいま、あの懐かしき人々にかこまれているよ」

ウッチャンのナレーションが、激動の週の幕を開けた。

<「なつぞら編⑥」  「なつぞら編⑧」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

  • 写真時事通信

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