日テレドラマの秘策 世帯視聴率は最下位でも個人視聴率で圧倒! | FRIDAYデジタル

日テレドラマの秘策 世帯視聴率は最下位でも個人視聴率で圧倒!

『白衣の戦士!』『俺のスカート、どこ行った?』『あなたの番です』 「春ドラマ」決算報告

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GP帯で放送された春ドラマの世帯視聴率を局別で比べると、トップは唯一二桁に乗せたテレビ朝日で、最下位は8.1%の日本テレビとなった。

ところが同局の3本平均を個人視聴率でみると、C層(4~12歳)からT層(13~19歳)・1層(20~34歳)・2層(35~49歳)までは、男女とも全てトップに躍り出る。

去年4月にスポットCMの取引基準が世帯視から個人に変更された。これを受けて同局では、今年から番組の評価を個人視聴率に変更している。

今や若年層のみを狙うドラマを並べる日テレのドラマ戦略を分析してみた。

日テレドラマの見られ方

4月クールの日テレドラマは、ビデオリサーチの世帯視聴率(関東地区)でみる限り、3本とも7~8%台と低調だった。
中条あやみと水川あさみのW主演『白衣の戦士!』が8.7%。古田新太主演『俺のスカート、どこ行った?』も8.7%。海外番販を視野に2クールに渡って放送される、原田知世と田中圭のW主演『あなたの番です』は7.0%。
菅田将暉主演『3年A組』が牽引した今年1月クールと比べると、3本平均で2.5%も世帯視聴率を下げ、ここ5年あまりでもワースト2という実績に終わった。

一見かなりの不調に見えるが、スイッチ・メディア・ラボによる個人視聴率(関東地区)では、評価は正反対となる。
C層(4~12歳)から2層(35~49歳)までは、男女とも全てトップを占めた。3-層(50~64歳)ではTBSとフジに次いで3位、そして3+層(65歳以上)では最下位と、極端に若年層狙いのドラマを並べていることがわかる。

特に若年層では他局のドラマを圧倒している。
FT層(女13~19歳)では、2位フジの1.6倍。F1層(女20~34歳)では、2位TBSの1.3倍。そしてMT層(男13~19歳)やM1層(男20~34歳)でも2位の1.3倍と、若者で抜群の力を発揮している。

日テレテレドラマの特徴

同局の水曜10時枠は、女性向けの作品をラインアップしており、20代〜40代の女優が主演する作品が多い。“女性応援”が基本コンセプトだが、当然視聴者層は若年層が多い。

土曜10時枠(17年1月クールまでは9時枠)は、94年放送の安達祐実主演『家なき子』が大ヒットし、視聴者層のすそ野拡大に成功して以降、ローティーン向けの作品が何度も放送された。“家族一緒”の視聴が意識された枠なのである。
そして10時に移された17年4月クール以降は、1層をメインにその前後の層に向けた作品が並ぶようになったが、DNAとしては“家族一緒”が続いている。

日曜10時半枠は、15年4月クールから新設されたドラマ枠。
もともとは“大人の男性”を視野に入れて始まった。番組表全体のリーチアップが意識され、同時に「配信や映画、舞台への派生など、ストックコンテンツの充実」というビジネスの論理が念頭に置かれた。
ところが放送が続くに従い、若年層が多く見るドラマが並ぶようになった。加藤シゲアキ主演『ゼロ一獲千金ゲーム』、賀来賢人主演『今日から俺は!!』、菅田将暉主演『3年A組』、原田知世と田中圭のW主演『あなたの番です』と、この1年若年層の個人視聴率をゴソッと持っていくドラマが並んでいる。

結果として、日テレドラマは世帯視聴率と若年層の個人視聴率の乖離が大きくなっている。
例えば17年夏から18年冬にかけての3クール、平均世帯視聴率は2%以上下落した。ところが49歳以下でも24歳以下でも、若年層の平均視聴率は落ちなかった。
高齢層の日テレドラマ離れが起きているかもしれないが、若年層の支持は変わらなかったのである。

『3年A組』『家売るオンナの逆襲』が平均を大きく引き上げた今年1月クール、同局ドラマのクール平均は久々に二桁に乗った。若年層の個人視聴率も順調に伸び、他局との差を拡大していた。
ところが今年4月クールの世帯視聴率は不調だった。8.1%はここ5年でワースト2だ。それでも若年層の個人視聴率は、世帯も個人も好調だった今年1月クールに次ぐ2位の記録を打ち立てた。つまり高齢層の日テレ離れは一層進んでいるかも知れないが、結果として若年層の含有率が高まっているのである。

世帯視聴率と広告収入の関係

では世帯視聴率が低くても若年層の個人視聴率が高いと、テレビ局にとってはどんなことが起こるのか。
前回の『世帯視聴率トップ独占 テレ朝ドラマ「勝利の方程式」の落とし穴』で詳述したように、世帯視聴率が高いと広告収入が増え、低いと減るような相関関係が近年は明らかに薄れている。

では日テレの場合はどうか。
17年度第1~2四半期のP帯(夜6~11時)の世帯視聴率は、前年同期比でプラスだったが、その後下降傾向となりマイナスが6四半期続いた。さらに全日(6~24時)の世帯視聴率に至っては、17年度第2四半期を除き、全て前年同期比でマイナスだ。
それでも日テレの広告収入は、この2年間でほぼ横ばい。世帯視聴率が大きく痛んだのとは無縁だ。

広告主がテレビCMを出稿する主な目的は、新製品や新サービスの認知度を上げるために、広く多くの生活者に広告を届けること。ただし新製品・新サービスの顧客層は若年層であることが多い。
しかも高齢者は広告に影響されて商品を購買することが少ないが、若年層への広告効果は大きいため、重要なターゲットとなっている。

ここ数年で広告効果に厳しい目を向けるようになった多くのスポンサーは、若年層の含有率も気にし出している。
徒に高齢者が多いと、広告費が高いのにターゲット層に届かない。ターゲット層となる若年層の含有率が高い番組は、費用対効果の視点で効率的な番組と位置付けられ、出稿意欲が高まるという論理なのである。

テレビ広告費全体は、このところ減少傾向だ。
しかもネット広告費が二桁の成長を続け、今後もテレビ広告費は苦戦が予想されている。この状況の中、スポット広告の取引指標が変更されたことも受け、日テレはいち早く世帯視聴率を捨てた。しかも高齢層をも想定しない番組作りに舵を切ったようだ。

若年層狙いの番組は、録画再生視聴率も高くなり勝ちだ。ネット上での見逃しサービスでも視聴数を獲る。SVODなどの有料サービスにも貢献する。さらに海外番販でも、大きな利益を生む番組となる。
かつて最も(世帯)視聴率に拘っていた日テレが、今や個人視聴率を重視し、広告収入とライツビジネスによる利益最大化にまい進し始めた。
この切り替えが、どこまで成果を出すのか注目したい。

→ 『世帯視聴率トップ独占 テレ朝ドラマ「勝利の方程式」の落とし穴』 を読む

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  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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