秋田児童連続殺人事件 「娘を殺害した母親の素顔」が見えた瞬間

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第14回

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2006年、秋田県北部の田舎町、藤里町で児童が連続して死亡する事件が発生した。容疑者として名前が上がったのは、被害者の一人の母親である畠山鈴香だった。警察の捜査が進展しない中、マスコミの報道は徐々に加熱し、彼女の実家前には大勢のテレビ、新聞、雑誌の記者が並ぶことになった。当時の様子をノンフィクションライター小野一光がレポートする。

任意の事情聴取を受けるため能代署へ向かう畠山鈴香

現地に到着した私は、彼女の実家を正面に見据える場所に立ち並ぶ、報道関係者とカメラの数に圧倒された――。

2006年5月19日のことだ。私が訪れたのは秋田県能代市の外れにある、とある民家に続く道だった。

18日にその場所からほど近い米代川の川岸にある草むらで、前日から行方不明になっていた同県藤里町の小学1年生・片山信二くん(仮名、死亡時7)の遺体が発見されたとの一報を受けての現地入りだった。

この年の4月10日には、同じく藤里町を流れる藤琴川で、前日から行方不明になっていた同町の畠山愛梨ちゃん(仮名、死亡時9)の遺体が発見されていた。愛梨ちゃんと信二くんはすぐ近くに住み、互いに顔見知りだったことから、児童に対する連続殺人の疑いが持ち上がったのである。

ただし、この時点では信二くんの首には絞められた痕があって事件性が疑われたが、愛梨ちゃんに対しては、事故との判断が下されていた(後に秋田県警は事件と事故の両面で捜査中だったと否定)。

私がやって来たのは、愛梨ちゃんの母である畠山鈴香(逮捕時33)の実家。彼女が愛梨ちゃんと住んでいた藤里町の自宅から車で約15分の距離にある、2階建の一軒家だ。その家屋から約20m離れた場所に、15台ほどの三脚に据えられたテレビカメラとスチールカメラが列をなし、50人近い報道関係者が集まっていた。顔見知りのワイドショーディレクターは言う。

「18日の午後から捜査員2人が乗った警察の覆面車両が、実家の敷地内に24時間態勢で置かれるようになったんです。秋田県警は『マスコミと被害者との間でトラブルが起きるといけないので、被害者家族の要請により、捜査員を置いている』と説明していますが、結果として捜査員の動きをマークしようという、多数の報道陣が集まってしまいました」

さらにこのディレクターは、声を潜めて言葉を続ける。

「あとやっぱり、こういうことには慎重なNHKでさえカメラを据えているというのが大きいですね。なんらかの確証があるんじゃないかって、みんな噂してますよ」

捜査員はもちろんのこと、同業他社がいる限りは帰れない。そうした状況が、異例のメディアスクラムを生んでしまったのだった。とはいえ、私自身もその当事者のひとりであったことは間違いない。理由の如何は関係なく、みずからの行動について反省している。

あえてその際の様子を記すと、翌20日になっても、取材陣は前日と同様に畠山家が見渡せる場所に陣取っていた。すると午後4時半を過ぎた頃、実家の玄関が開いたのである。そして黒いシャツを着た鈴香が家を出ると、脇目もふらずに警察車両のもとへと向かったのだった。やがて彼女の怒鳴り声が耳に入る。

「だいたい警察が居るっていうのがおかしいじゃないですか。マスコミのトラブル対策なんて聞いたことがないって言われましたよ。迷惑なんですよ……」

私が聞いていた「被害者家族の要請」という言葉とは異なり、彼女は明らかに捜査員に対して怒りをぶつけていた。敷地内で警察が自分への監視を続けるから、報道陣が自宅前に集まるのだと抗議している。

やがて鈴香は警察車両から離れると、居並ぶカメラの列に向かって歩き始めた。私は背後から小走りで彼女の横に並び、声をかけた。

「あの、鈴香さん。我々もこうやって実家前にいることを申し訳ないと思ってます。なんとか一度、お話ができる場を設けませんか」

だが怒りに我を忘れた彼女は、私を睨みつけると、「ふざけんな……」とだけ小声で呟いて前に向き直ると、再び歩き出す。途中、敷地内に捨て置かれている朽ち果てた車のボディをガン、ガン、と2回激しく蹴ったと思うと、カメラの列へと一直線に進む。

「鈴香さん……」

私が再び声をかけると、彼女は立ち止まり、カメラの背後から駆け寄って正面に対峙することになった数名の記者とカメラマンらに向かって、声を荒げた。

「いいかげんにしてください。いますぐ全員撤収してください」

彼女の向かいにいた、小型ビデオカメラを持ったテレビディレクターが、「できれば、お話を聞かせていただくことは……」と切り出す。しかしその途中で遮るように、「ふざけんなっ」と鈴香は声を上げる。

「あなた方がいることだけでもプレッシャーになるんです。邪魔なんです。とっとと帰ってください……」

そこまで言うと、鈴香はふいに横から写真を撮っていたカメラマンを睨みつける。

「そこ写すなって言ってんだろ。お前は。おら、フィルム出せ。出しなさい。出せって言ってんだろが……」

彼女はカメラマンに詰め寄り、手を差し出して迫る。カメラマンが後ずさると、今度は別のカメラマンに近づく。

「おら、お前もフイルム出せ。写真撮るなって言ってるだろうが……」

そうするとそのカメラマンが後ずさる。

信二くん(仮名)の遺体発見現場。土地勘のない人間には入りづらい場所だった

鈴香と報道陣とのこうしたやり取りは、家から出てきた家族が彼女をなだめて連れ帰るまで、5分近く続いた。後に鈴香が逮捕されてからテレビニュースで幾度も流れた映像は、このときのものである。

そのように、実家前に居並ぶ報道陣に対して怒りをまき散らしていた彼女だが、あるとき突然、態度を変えたことがあった。愛梨ちゃんの四十九日にあたる5月27日のことだ。彼女は突然、以前よりも離れた場所で実家を見守る約30人の報道陣を実家に招き入れて、囲みの会見を開いたのだ。

ただし、この会見に参加するためには、玄関先で全員が名刺を提示する必要があった。その際に彼女が気に食わない媒体は入れてもらえないのである。該当するのは主に先行して彼女の疑惑を報じている週刊誌で、当然ながら『FRIDAY』もそのなかに含まれていた。何人かの記者が断られるなか、具体的な説明は避けるが、我々は策を凝らしてICレコーダーを持ち込むことに成功し、そこで撮影された写真も入手した。

その場で鈴香は、愛梨ちゃんの死の真相を知りたいと切々と訴え、これまで週刊誌等で報じられた、自分がネグレクト(育児放棄)をしていたという情報はまったくのデタラメだと断じている。さらには突然、信二くんが殺害される10日から2週間くらい前に、自宅近くで不審な車が停まっていたと話し始め、なかに乗っていた男が、下校する子供たちを目で追っていたと説明するなどした。

その8日後となる6月4日、鈴香は秋田県警能代署に任意同行を求められ、信二くんに対する死体遺棄容疑で逮捕されたのである。

 

<続きはこちら>

秋田児童連続殺人事件 娘を殺害した犯人「職場での悪評」

秋田児童連続殺人事件 娘を殺した犯人が拘置所で語った「本音」

  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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