秋田児童連続殺人事件 娘を殺した犯人が拘置所で語った「本音」 | FRIDAYデジタル

秋田児童連続殺人事件 娘を殺した犯人が拘置所で語った「本音」

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第16回

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2006年に秋田県藤里町で発生した児童連続殺人事件。被害者の一人の実母が犯人という衝撃的な事件について、ノンフィクション・ライター小野一光氏が2回に渡って報じてきた(第1回はこちら 第2回はこちら)。小野氏は犯人逮捕後も取材を続け、やがて彼女をよく知るA氏にたどり着く。

飲み会での畠山鈴香。酒には弱く、チューハイを1〜2杯飲むと眠り込んでしまうほどだったという
飲み会での畠山鈴香。酒には弱く、チューハイを1〜2杯飲むと眠り込んでしまうほどだったという

2006年に起きた「秋田児童連続殺人事件」では、逮捕された畠山鈴香(逮捕時33)の”過去”についても取材が進められたことを、前回(第15回)取り上げた。

そこで彼女は20歳のときに、能代市内のラウンジでホステスとして働くも、複数の客と肉体関係を持ったことが店のママの耳に入り、途中で来なかった1カ月を含め、3~4カ月で辞めることになったと記した。

じつは鈴香は後に、このラウンジ時代の同僚ホステスとの間で、盗難騒ぎを起こしていた。当事者の同僚ホステスは語る。

「鈴香が店を辞めてしばらく経ってから、突然うちに電話がかかってきて、『今日、遊びに行く』と言ってきたんですね。それでその日のうちに、まだ生まれて間もない娘を連れて、うちに来たんです」

この新生児の娘こそが、後に彼女が殺害することになる、ひとり娘の畠山愛梨ちゃん(仮名、死亡時9)である。

「そのとき、生まれたばかりの子供を連れてきてるわけだから、てっきり子供の話題になると思うじゃないですか、なのに鈴香はダンナの稼ぎが悪いという話と、金に困っているという話しかしないんです。おまけに赤ちゃんは“おくるみ(布)”もなく、汚れて伸びたような産着を着せられてました。オネショしてるのにオムツの替えも持ってきてないから、見かねた私がうちの子供のオムツを使って、取り替えてあげる始末でした」

わざわざ彼女の家を訪ねた鈴香だが、10~15分くらいしか滞在はしなかったという。

「私がお茶を用意して居間に戻ってきたら、急に『帰る』って言い出して、帰っていったんです。なんか変だなと思って確認したら、うちの大事なものをしまっておく場所に置いていた3万円のうち、2万円くらいがなくなってるんですよ。もう、鈴香がやったとしか考えられないじゃないですか。だからすぐ彼女の実家に電話をかけると、鈴香本人が出たんですけど、絶対におカネを盗ったとは認めない。『盗ってないよ。盗るはずないじゃん』って。そこで私が『じつはうちには隠しカメラがあって、それに写ってるだよね』と言ったところ、『ああ、盗った』ってやっと認めたんです」

そこで彼女は、知人と一緒に鈴香の実家に出向くことになった。

「鈴香はお母さんと一緒に玄関先に出てきました。その場で彼女はまた『盗ってない』って言い出し始めたんです。なので私が、『さっき自分で盗ったって認めたでしょうが』と言ったところ、やっと諦めたのか、『ああ、はい』っておカネを返したんです。横のお母さんは黙ったままで、私に対する謝罪の言葉は一言もありませんでした」

この盗難事件を起こした時期、鈴香は生命保険会社でセールスレディーの仕事に就いていた。だが、そこでも問題を起こしている。保険会社の当時の同僚は言う。

「先輩のお客さんに対して、平気で体を張った“枕営業”をかけては客を奪っていたんです。それが問題となって、1年も経たないうちに辞めています」

続いて釣具店、パチンコ店などで働くようになり、やがて犯行に至ったというのが一連の流れである。

娘を転落死させた現場といわれる大沢橋
娘を転落死させた現場といわれる大沢橋

こうした鈴香についての取材活動は、07年9月に彼女の初公判が始まってからも続く。その際に出会ったのが、鈴香を昔から知るA氏という男性だった。彼は公判中の鈴香と面会しており、そのときの様子を聞けた。

「拘置所の鈴香と面会したのは08年2月の後半です。黒くなった髪を束ね、明るい色のトレーナーを着て面会室に入ってきた鈴香と目が合うと、笑顔はなく、ちょっと涙目になっているのがわかりました。そこで私が『元気か?』と尋ねると、『うん』とだけ答えてました」

鈴香の外見について、逮捕前より頬の肉が落ち、若干痩せたとの印象を抱いたそうだ。

「ただ、細かった若い頃を知ってるので、昔に戻ったという感じもしました。頬にたくさん吹き出物が出ているので、それはどうしたのかと尋ねると、『もともと沢育ちだから、(拘置所の)水が合わない』と口にしてました」

A氏の目を見て話す鈴香だったが、話題が事件のことに及ぶと、顔色を変えたそうだ。

「マスコミが鈴香の家の前につめかけているとき、私が彼女に『(殺人を)本当にやってないの?』と聞くと、『絶対やってない』と答えていました。そこで、なんであの時に嘘をついたのか尋ねたところ、目の前の鈴香は急に顔色を変え、『うーん』と言って黙り込みました。結局、最後まで理由を口にすることはありませんでした」

この話題を続けると鈴香が心を閉ざすと感じたA氏は、彼女をなごませようと、鈴香と愛梨ちゃん、A氏の3人で地元の居酒屋に行った時の思い出話に切り替えた。

「鈴香はいつも飲み過ぎてしまうため、それを心配した愛梨ちゃんが居酒屋で飲む前に『お母さんは3杯で終わりだよ』と言っていたね、という話を切り出したところ、『そうそう』と懐かしそうな顔で、初めてニコッと笑顔を浮かべました」

頃合を見てA氏が、鈴香が殺害した藤里町の小学1年生・片山信二くん(仮名、死亡時7)の遺族に対する謝罪について触れたところ、鈴香は「片山さんに対してはすごく謝りたい」との言葉を口にしている。

「『(遺族に)読んでもらえるか、読んでもらえねえか、わかんねえけど、(謝罪の)手紙は毎日書いてる』と話していました。そこで私が、その場その場の思いつきだけでなく、ちゃんと反省して、気持ちを整理してから謝罪の手紙を書いたほうがいいと勧めると、神妙な顔で『わかった』と答えていました」

父親(故人)から子供時代にたび重なる暴力を受けていたことを法廷で語った鈴香だが、A氏から『自分は両親のどっちに似ていると思う?』と水を向けられたところ……。

「『やっぱり、オヤジにいつも叩かれたりして、自分もそういう性格になってると思う』と、父親の気性が激しかったから、自分もそうなのだと認めていました」

A氏と鈴香の面会時間は約15分で、愛梨ちゃん、信二くん殺害の理由について、最後まで語られることはなかった。

「刑務官からもう時間だと告げられ、私が『また来るから』と告げると、頭をコクンと下げて面会室から出て行きました。鈴香は私の質問に答えるばかりで、ほとんど向こうから喋ることはありません。ただ、愛梨ちゃん、信二くんの話になると目に涙を溢れさせていましたし、憔悴している様子でした」

その後、無期懲役が確定した鈴香は現在、東北地方の刑務所に服役している。

  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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