山田裕貴、広瀬すず、吉沢亮 3人を繋いだ「開拓」という言葉

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編⑨

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第16~17週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

雪次郎をめぐる東京物語、終結…

毎度のことながら、雪次郎(山田裕貴)と雪之助(安田顕)親子には、ホロリとさせられる。

思えば雪次郎が、菓子職人になるために修業していた川村屋をやめ、演劇の道に進む決意をしたときもそうだった。真っ向から向き合いながらも不器用極まりない言葉のやりとり。その裏側にある想いを、どうしたら伝えられるのだろうという苦悩。父親に認めてもらいたい息子と、息子を認めてやりたい父親との間にある、互いに超えなければない一線を、実にもどかしく繊細に映し出している。

川村屋の厨房に並んで作業をする父子の間の埋められない距離を一蹴するために、とよばあちゃん(高畑淳子)が雪之助に強烈なビンタを見舞ったシーンもすごかった。その残像を残したまま、またしてもこの不器用な親子に名シーンが生まれた。

「父さん、言ったべや。諦めるときは、潔く諦めろって」
「あきらめたのか?」
「もう悔いはねぇんだ。だから決めたのさ。俺は菓子屋に戻る」
「馬鹿でねぇか! そったら中途半端な覚悟で菓子屋になれっか」
「父さん、俺を鍛えてくれ。中途半端な菓子屋として、人間として、俺を鍛えてくれ」

大役に抜擢された公演のポスターをくしゃくしゃにして、深々と頭を下げる雪次郎に、雪之助はいきさつなど聞かない。雪之助が知りたいのは、いつだって覚悟だけだ。

「本気か? 逃げてきたわけでねぇな?」
「逃げてねぇ。捨ててきた」

“捨てる”という言葉を聞いて身震いしたのは初めてだ。逃げるでも諦めるでも負けるでもない、“捨てる”という覚悟。強がりを匂わせながらも、生きる道を決めた言葉に、雪之助は骨太に成長した雪次郎を感じたことだろう。

雪次郎に演劇を断念させた蘭子(鈴木杏樹)が、亜矢美(山口智子)のおでん屋を訪れたとき、なつは言った。

「雪次郎君が言ってました。自分が開拓者になるなら、演劇じゃなくて菓子屋だ」と。

雪次郎もなつ(広瀬すず)も、開拓者の家で育ち、その精神を継いでいる。雪次郎の決意のほどを、なつは痛いほど感じただろう。

かつて、なつが漫画映画に挑戦したいと言ったとき、泰樹(草刈正雄)から言われた言葉がある。

「漫画か映画か知らんが、東京を耕して来い。開拓して来い」

そして、なつも雪次郎も、東京でそれぞれの夢を開拓した。演劇を捨てた雪次郎の開拓は終わったわけではない。数々の挫折を経て、菓子屋を継ぐことを決断した雪次郎の本当の開拓はこれからなのだ。

久しぶりに天陽(吉沢亮)の家を訪れた雪次郎が言った。

「なっちゃんは相変わらずだ。どんどん先行くぞ。脇目も振らずって感じだな。俺は結局、なっちゃんには追いつけもせんかった」
「競走じゃないべ。生きるのは」

十勝を離れることを選ばなかった天陽もまた、自分なりの開拓をしているのだろう。淡々と語る天陽の素朴な言葉に、三人の友情が映し出される。

「おかえり、雪次郎」
「ただいま、天陽」

十勝と東京。それぞれの場所で、生きる若者、その家族。それにしても、心の内をさらけ出す場面の十勝弁にはやられる。なんだかんだと週に一度は十勝を挟み込んでくれることにも拍手を送りたい。

<「なつぞら編⑧」  「なつぞら編⑩」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中。新作『ヒールをぬいでラーメンを』が8月末に発売決定!

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