完結!『なつぞら』は最後まで広瀬すずが進化し続けた作品だった | FRIDAYデジタル

完結!『なつぞら』は最後まで広瀬すずが進化し続けた作品だった

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編 最終回

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は『なつぞら』最終週から。

広瀬すずと清原果耶のライバル意識が最終章を盛り上げた

朝ドラ100作目のヒロインという重圧のなか、最後までに見事に演じきった広瀬すず/写真 アフロ
朝ドラ100作目のヒロインという重圧のなか、最後までに見事に演じきった広瀬すず/写真 アフロ

半年間、全156話の放映。撮影期間を含めれば一年以上にも及ぶ長丁場を乗りこえながら役者は成長する。若手だけではない。ベテランも大御所と呼ばれる名優もみな同じだろう。それが演技というものの難しさと奥深さ、なによりも醍醐味ではないだろうか。

それは今作のテーマとなった開拓者精神にも匹敵するように思える。台本の前では誰もが平等、日々始まるチャレンジの前に緊張感を強いられ、役者としての幅を広げ、質を高めるために深く追求していく。互いを高め合うために台詞に魂を入れ、時に烈しく、時に静かにぶつかり合う。

今作でヒロイン「なつ」を演じた広瀬すずは、まさに共演者たちに、自分を晒し、自分をぶつけていた。名場面を数多く生んだ泰樹(草刈正雄)との共演シーンもそうだが、終盤になり再登場した妹・千遥(清原果耶)とのやりとり、互いをライバルと意識し合うような緊張感が物語の背筋を伸ばした。

それは第24週のラストシーン、千遥が娘の千夏(粟野咲莉)の手を引いて、なつに振り返ったシーンからはじまった。満を持しての再登場となった清原果耶は、役柄を存分に理解し、その瞬間に備えていた。30年もの過去を一瞬の表情に滲ませる演技は、終盤にさしかかった物語に、あらたなゴングを鳴らしたようだった。

一方のなつも、30年間会えずにいた妹に、感情を抑制しながら静かに対峙する迫力の受けの演技。運命のいたずらを恨みながら再会したふたり。そこからなつには、『姉』という役柄が与えられていく。

千遥に「おねえちゃん」と言わせるまでのふたりの時間は、静かな戦いだった。会いたくても会えなかった30年の時。千遥は永遠に封印しようとした時間を、自分なりの思いでもういちど取り戻そうとした。そこには、厳しさと頑固さが垣間見え、これまで生きてきたプライドと、自分の過去を知ってほしいという願いがあった。

そして料理を通して、なつは千遥との閉ざされていた時間を理解し、千遥はなつに心をほどいていく。千遥が、妹の顔になり「おねえちゃん」と呼んでくれるのを待っていたかのように、なつはすっと千遥を受け入れる。この瞬間、ふたりにとっての戦争は終わったのだ。

泰樹の言葉にすべてが詰まっている

柴田家を訪れたなつと千遥が、優と千夏を挟んで、寝床で語りあうシーン。なつがこどもたちを見ながらそっと言った。

「あの頃の私と千遥みたいだね」

「あの頃は、こんな布団で眠った記憶はないけど」

「よく生きたね」

「育ててくれてありがとう」

「なに言ってるの。千遥がいてくれたから、あの頃生きられたんだよ。辛い思いばかりさせたけど」

「でも私、浮浪児でよかったって思ってる。今まで出会えた人がいるから」

ふたりに辛かった浮浪児の頃が蘇る。

「元気でいてくれてありがとう、おねえちゃん」

「こちらこそ。生きてくれててありがとう、千遥」

母になったふたりが、子どもを挟んでそっと笑う。ワンシーンごとに著しい成長を感じさせるふたりの演技は、互いを高め合うライバル関係のそれに他ならなかった。

アニメ『大草原の少女ソラ』のラストシーン。獣医になるために都会に出たレイが、ソラの待つふるさとに帰ってきた。

「ただいま、ソラ」

「お帰り、レイ」

「ソラ、会えなかったけど僕はずっとソラといたよ。だから成長できたんだ」

「夢が叶ったのね」

「ソラと家族になっていなかったら、今の僕はなかった」

「それは私も同じよ」

「これからまた始めよう、ソラ。何も夢を叶えてないんだ。これから始まるんだ」

戦災孤児として十勝に渡った頃の孤独から、なつは柴田家という家族を得、天陽(吉沢亮)や雪次郎(山田裕貴)らの友人を得、仕事仲間を得、坂場一久(中川大志)という夫、娘の優を得、そして最後に千遥の姉となった。その誰もが十勝と同じ、なつの大切なふるさとだ。

そこには、いつも「おかえり」と「ただいま」がある。運命がいたずらをしようと、どれだけ時間が経とうと、誰かの命が絶えようと。

「なつ、わしが死んでも悲しむ必要はない。わしの魂もこの大地に染み込ませておく。お前は大地を踏みしめて歩いていけば、それでいい。わしはもうおまえの中に生きとる。それで十分じゃ」

泰樹の言葉が、人は誰もが開拓者であるということを物語っていた。

<前回「なつぞら編⑬」

朝ドラに恋して「まんぷく編」  第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中。新作『ヒールをぬいでラーメンを』が8月末に発売決定!

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事