『なつぞら』奥原三兄妹の見事な「伏線」の回収…そして最終週へ 

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編⑬

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第24~25週から。

なつ(広瀬すず)の妹・千遥を演じる清原果耶/写真 アフロ

17歳・清原果耶の引き込まれるような演技

千遥(清原果耶)が娘の千夏(粟野咲莉)を連れてマコプロを訪ね、帰り際になつ(広瀬すず)に呼び止められた瞬間、物語は最終章へと踏み出した。振り返る千遥の顔。そこには運命に翻弄され、人生を彷徨わざるをえなかった女性の複雑な感情が滲んでいた。これが17歳の女優が演じる表情かと疑うほどに深く引き込まれ、物語を遡ってはやりきれない気持ちになった。そしてその翳りある瞳の奥の細い糸のような願いが物語を動かした。

「来てくれてありがとう」
「娘がソラのファンなんです。毎週楽しみにしていて。どんなところで作っているのか、私も見てみたくなって」

千夏にかこつけて、なつに会いに来た千遥。それが千遥なりの精一杯だった。まだ、なつを“姉”と呼べるほどの心の距離ではない。どう振る舞えばいいのか、何を伝えればいいのか、どう甘えていいのか……会えないでいた30年間が、姉妹の埋められない距離を映し出す。それはなつも同じだった。今、ここで、すべて答え合わせをしたい気持ちを抑え、その距離をじっと保つ。

「今、どこにいるの」
「神楽坂で料理屋をしています。もしよかったら、お客様としていらしてください」

客として。言葉を選ばなければならない絶対的な距離感。しかし姉妹は、その距離こそが、あらたな物語の扉だと感じていた。料理屋で女将として働く千遥は、自分の生きてきた証を、客として兄姉に感じてもらいたかったからだ。

なつたちと千遥の料理屋を訪れた咲太郎(岡田将生)がそっと聞く。

「女将さんが料理を作るんですか」
「私は料理人ですから。何かお好みはありますか」
「それなら最後に天丼が食べたいです。それがどうしても食べたくて」

今作の鍵を握り、これまでに何度も印象的なシーンを重ねてきた天丼。その天丼を、妹が、“客”の兄姉にこさえる。

「これだよ。戦死した父が、昔つくってくれた味と同じなんです。間違いなくこの味だ。俺の、俺たちの父親も料理人だったんです」
「そうなんですか」

初めて知った事実に、千遥がはっとする。“俺たちの”と言い直した咲太郎の言葉に運命の妙を感じたのだろう。

「その父親が昔、つくってくれた天丼の味が忘れられなくて、食べたくて。どうして女将にはそれがつくれたんでしょうね。不思議だ、本当に不思議だ」

“君が妹だから。父親の血を継いだ家族だから”。言葉の裏側にある咲太郎の声が、千遥の強がりをそっと剥がしていく。

咲太郎、なつ、千遥がついに家族になった

なつもその懐かしい味に想いを蘇らせる。父親の揚げた天ぷらを、いつも横で働いていた母親が出汁をとりタレをつくっていたことを。天丼をつくる千遥の姿が、母親に似ていたから。

千遥にとって、カウンターの奥のふたりが客から兄姉へと変わっていく。帰り際になつが手渡した、父親からの手紙が、千遥をふたりの妹に戻ることを決意させ、千遥をもういちどマコプロに向かわせた。

「千春の料理を食べてよくわかった。千遥がどんなに誇りをもって料理をしているか」
「私も奥原なつの作品をずっと観てきました。本当に強く生きてきたんですね。ソラを観ていてもそれがわかります。だから私も食べてほしかった。私がちゃんと生きてきたことをわかってほしかった」

言葉ではなく、料理を通して生きてきた証を伝えることができた千遥が、ようやく口にできた言葉。

「おねえちゃん」

少し間をおき、息を呑んで言った言葉が、なつぞらを最終章へと走らせる。千遥は離婚を決意したことをなつに告げ、隠し続けていた過去を打ち明けることを決意した。“もう私はひとりじゃない。私には家族が、兄姉がいる”。千遥の心の声が聞こえるようだった。縮まった兄姉との距離が、千遥に本当のことを話す勇気を与えたのだ。

「千夏にまで嘘をついて生きるのはもう嫌なんです。私は、堂々と生きられるようになりたい」

千遥の覚悟を、姉として聞きいるなつの目が潤む。

「おねえちゃん、また家族になってくれる?」
「そんなの当たり前じゃない。千遥はもう、自由になっていい。堂々と生きていい。また一緒に生きよ」

戦地で父親が綴った手紙、天丼の味、母親の姿、そして三人がそっと抱えてきた兄妹への想い‥…丁寧に蒔かれたいくつもの伏線が回収されていき、物語は最終週へ。すっかり秋色に模様替えした青空が、いまいちど夏色を取り戻す。

<「なつぞら編⑫」  「なつぞら編 最終回」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中。新作『ヒールをぬいでラーメンを』が8月末に発売決定!

Photo Gallary1

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