『なつぞら』美しすぎる吉沢亮の死は、名場面として語り継がれる | FRIDAYデジタル

『なつぞら』美しすぎる吉沢亮の死は、名場面として語り継がれる

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編⑫

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第22~23週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより
NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

神々しささえ漂っていた

朝ドラにおける死の描き方は、それがどれほど哀しい史実であったとしても、その先の展開に希望を繋ぎ、ストーリーに太い幹のような意味をもたせなくてはならない。命が絶える瞬間に感情を溢れさせるだけではなく、その人が生きた証を太く濃く、そして静かに謳いながら記憶にとどめさせるための色づけが極めて重要となる。

天陽(吉沢亮)の死は、まさにそれだった。その瞬間は穏やかで美しく、オーラのような尊厳に包まれていた。それをドラマチックと言ってしまえば容易いが、視聴者の多くを映像の中に引きずり込んだシーンは豊かな余韻を残し、『なつぞら』の名場面として語り継がれるだろう。

命の残り時間を悟った天陽が病院を抜け出し、未完成だった作品を仕上げ朝を迎える。空一面に広がる眩いばかりの青色を、吸い尽くすようにして畑に倒れた天陽。その姿を美しいという言葉だけでなぞることはできない。

長い年月をかけ開拓した農地に、からだごと、魂ごとスローモーションで堕ちてゆく姿には、この世での最後の宿題をやり遂げた想いと、人々とのいくつもの愛を走馬灯のように巡らせるような満たされた想いが滲んでいた。天陽の最期をそっと包みこんだ畑が、開拓者として生きた天陽と一体となり、土に還った天陽からは神々しささえ漂っていた。

天陽のモデルとなった農民画家・神田日勝は、その遺作『馬』を描き終えることなく32歳でこの世を去った。氏の想いよ届けと、本編では病院から抜け出した天陽に筆を握らせたかどうか定かではないが、物語り特有の、脚色、演出の意義を存分に発揮したのではないだろうか。そこには天陽の、生き尽くしたという感慨が溢れていた。

『なつぞら』で天陽を演じた吉沢亮。美しすぎる吉沢亮の美しすぎる死に視聴者は涙…。/写真 アフロ
『なつぞら』で天陽を演じた吉沢亮。美しすぎる吉沢亮の美しすぎる死に視聴者は涙…。/写真 アフロ

死してなお続く友情

命と引き換えに描いた馬の画には、十勝で生きる覚悟をした天陽の人生そのものが溢れていた。なつ(広瀬すず)の娘・優は、天陽の画を見てなつに言った。

「ママ、本物だ。本物のお馬さんがいるよ」
「どうして本物だと思ったの? 動かないのに」
「絵を動かすのは、ママのお仕事でしょ」

そしてなつは、天陽の自画像と対峙する。

「どうしたんだよ、なっちゃん。アニメーターを辞めたいって悩んでいるのか? それなら答えはもう出ているだろ。絵を動かすのが君の仕事だって、優ちゃんに言われたんだろ。それで十分でないかい」

なつがアニメーターになりたいという夢に向かい、十勝を離れようとした頃、天陽が言った言葉が蘇る。

「なっちゃん、俺にとっての広い世界はベニヤ板だ。そこが俺のキャンバスだ。そこで生きている俺の価値は、どんなものにも流されない。なっちゃんも、道に迷ったときはキャンバスに向かえばいい。そしたら、俺となっちゃんは、いつだってキャンバスの中で繋がっていられる。頑張ってこい、なっちゃん!」

優とともに雪月を訪ねたなつは、雪之助(安田顕)から天陽に描いてもらった雪月の包装紙を見せられる。そこには、高台から十勝の大草原を見下ろすひとりの少女が描かれていた。雪之助が天陽との会話を回顧する。

「この女の子はさ、ひょっとしてなっちゃんかい?」
「なっちゃんみたいな人が、この十勝には、北海道にはたくさんいるでしょ。自然に開拓者精神を受け継いで逞しく生きている人が。僕の十勝も、そういうなっちゃんから始まっているんです。そういう出会いを雪月にも込めたいと思ったんです」
「なっちゃんが聞いたら喜ぶだろうね」
「したら、お菓子を送ってあげてください、東京に。もしなっちゃんが、何かにくじけそうになったときには、それで雪月のお菓子を包んで送ってあげてください。雪月のお菓子がたくさんの人を喜ばせるように、なっちゃんもたくさんの人を喜ばせなくちゃならないでしょ」

死してなお続く友情。キャンバスの中で繋がっているという天陽の言葉が、子育ての不安に揺れるなつの心に芯を入れる。雪月の包装紙だけではなく、たくさんの人たちの愛情に包まれて、なつはこの先の人生を開拓していくのだろう。

第24週は、東洋動画を辞め、麻子(貫地谷しほり)のマコプロダクションに移ったなつが、仲間たちと次の作品の舞台となる十勝へ赴く。泰樹(草刈正雄)たちが開拓した大地を、なつはアニメーションでどう耕すのだろう。忍び寄るなつロスの足音を振り払い、残された18話を愉しみたい。

<「なつぞら編⑪」  「なつぞら編⑬」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中。新作『ヒールをぬいでラーメンを』が8月末に発売決定!

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