色んな形があっていい…『なつぞら』が教えてくれた理想の父親像

作家・栗山圭介の『朝ドラ』に恋して なつぞら編⑪

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『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、物語を熱く振り返る。今回は好評放送中の『なつぞら』第20~21週から。

NHK連続テレビ小説『なつぞら』公式サイトより

坂場(中川大志)、成長したなぁ

第22週『なつよ、新しい命を迎えよ』ではタイトル通り、なつ(広瀬すず)が母親になるその瞬間がクライマックスになるのだが、子どもを身籠ったことで仕事との向き合い方に悩むなつと、なつの身体を気遣い、妊婦の夫として狼狽する坂場一久(中川大志)の姿が微笑ましかった。

東洋動画時代は、周囲の反対をよそに自分の考えを押し通していた坂場が、驚くほど穏やかでやさしい男に変貌を遂げていく。個性とも言えるほどの不器用さは、持ち前の探究心で少しずつ改善され、なつが富士子(松嶋菜々子)から譲り受けたレシピノートとにらめっこしながら、料理の腕前も上げ、今ではなつを支える立派な主夫に成長した。

とはいえ、時代的に男が専業主婦的な立場で家を守るというナンセンスが、大学教授で考古学者である坂場の父親・坂場一直(関根勤)にまかり通ったのかと疑問を抱くが、そのあたりは、戦災孤児だったなつの過去にはこだわらず、息子の嫁として受け入れた一直の懐の広さで解決済みか。

もし坂場の父親役に、関根とはちがうタイプの堅物を演じさせていたら一悶着あっても不思議はない。そう思えば、わずか一話だけの登場ながら、コミカルで大らかな父親を演じた関根勤の起用は効果大だったといえよう。

思えば坂場がなつとの結婚を十勝に報告に行ったときに、泰樹(草刈正雄)から、会社を辞めたことを叱られたが、今でも家で細々と仕事をする坂場を泰樹はどう思っているのだろう。おそらく、なつを献身的に支えている姿と引き換えに、仕事のことは不問にしているのだろう。

イタリアから帰国し、アニメーション会社を立ち上げた麻子(貫地谷しほり)が、突然、坂場家を訪れ、手料理をもてなす坂場の変貌に目を丸くした。

「変わったわね、一久さん。だって物分かりがいいんだもん。だけど、一久さんらしさを失って欲しくないけど。私としては」

自分を誘いに来た麻子に、坂場は心が揺れ動く。麻子は続けた。

「本当はあなた(なつ)のことを誘いたかったのよ。誰よりも真っ先に」

麻子はふたりの能力を認めるとともに、坂場が手掛けて失敗作と言われた『神をつかんだ少年クリフ』を評価した。

父親になって頼もしくなった坂場(中川大志)/写真 アフロ

泰樹(草刈正雄)と剛男(藤木直人)、男同士の微笑ましい語らい

坂場は麻子のもとで働くことを決めた。0歳児は保育所で預かってもらえないという現実から、一年間待ってもらうという条件で。本当は今すぐにでもアニメーションに再挑戦したい気持ちを抑え、なつを支え、子育てを手伝おうとする坂場に、夫として、父としての責任感が漂う。

なつと坂場にとって、アニメーション制作は単なる仕事ではなく、夢の実現。生半可な気持ちでは向き合えない神聖なものなのだ。なつのアニメーションに対する思いは、産休前日、新人アニメーター中島とのやりとりの中でほとばしっていた。

書いた原画に、なつから注意された中島が反論した。

「子どもはそこまで見てるでしょうか。時間がないのに無駄なことはしたくないんです」
「子どもはそこまで見ない? 私たちは子どもの想像力と戦っているの。それを越えたときに、初めて私たちは夢を見せられるんです。子どもを馬鹿にするなら、アニメーションを作る資格はないです」

技術よりも、気持ちの大切さを伝えるなつに周囲が静まり返る。中島を納得させるなつに、年中アロハシャツで強面の制作進行・荒井(橋本さとし)が、表情を崩す姿も良かった。なつの毅然とした態度には、じいちゃんを彷彿させる迫力と威厳があった。

なつだけではなく、夕見子(福地桃子)と照男(清原翔)にも子どもが生まれることを聞いて、坂場が「ベビーブームですね」と冗談めくと、泰樹は、「牛にはよくあることじゃ」と返す。いつだって、泰樹の心には牧場があるのだ。

「牧場は照男のものじゃ。菊介(音尾琢真)や砂良(北乃きい)さんもいる。わしのやることはもうない」

寂し気に話す泰樹に、なつがそっと言葉を添える。

「じいちゃん」
「照男はわしの夢を継いでくれた」

なつは無事、女の子を出産した。陣痛のときも、生まれるその瞬間にさえ泰樹と一緒に、牛の出産を手伝ったことを思いだしながら。なつもまた泰樹と同じで、いつも心に十勝が、牧場があるのだ。

なつは、子どもの名前を泰樹に付けてくれと頼んだ。

「じいちゃんの夢を、少しはこの子にも継がせてやってよ」

泰樹は、さだまさしの『親父の一番長い日』の歌詞のように、辞書を首っ引きで一週間もかけて、なつのために、『優』という名前を付けた。誇らし気に『優』と筆で書いた半紙を見せる泰樹に、もう頑固ジジイのそれはない。好々爺そのもの、田舎のじいさんだ。

「ありがとう、じいちゃん」

礼を言うなつに、剛男(藤木直人)がポツリ。

「優のじいちゃんは私なんだけどなぁ」

なつへの想いは人一倍ながら、いつも泰樹に一歩後れをとる剛男の小さな嫉妬もまた、柴田家の愛情物語には欠かせない要素である。富士子が東京に残ることになり、ひと足先に十勝に帰った泰樹と剛男が、長旅でどんな話をしたのか。ふたりのたどたどしさを想像するだけで可笑しくなる。

<「なつぞら編⑩」  「なつぞら編⑫」>

朝ドラに恋して「まんぷく編」 第1回はコチラから

  • 栗山圭介

    1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。2作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中。新作『ヒールをぬいでラーメンを』が8月末に発売決定!

Photo Gallary2

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