岐阜 中2少女首吊り自殺“遺書に名前が残された加害者の言い分”

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“いじめ自殺”を振り返る ジャーナリスト須賀康氏が取材した現場から

自殺した愛娘の遺影に手を合わせる父親。仏壇の周りには千羽鶴や娘の思い出の品が飾られていた

いっこうに減らない学校でのいじめ。文部科学省によると、昨年いじめで自殺に追い込まれた小中高校生は322人にのぼるという。解決への糸口はあるのか。長年、少年事件を取材し続けてきたジャーナリストの須賀康氏が、’06年に起きた痛ましい“いじめ自殺”を振り返る。

……………………………

〈皆さんへ 今、誰かが私の手紙を見ている時、きっと、私は死んでいるでしょう。今まで、私を愛し、育ててくれた家族、ありがとう……〉

‘06年10月23日。14歳の誕生日を迎えた岐阜県瑞浪市立瑞浪中学2年生・吉村有里さん(仮名)は、自室で首を吊って自殺した。残された遺書には衝撃的な事実が書き込まれていた。遺書を続ける。

〈今まで、仲良くしてくれた友達。ありがとう—。部活のみなさん、特に〇〇さん、〇〇さん、〇〇さん、〇〇さん、本当に迷惑ばかりかけてしまったね。これでお荷物が減るからね。もう、何もかも、がんばる事に疲れました。それではさようなら〉(文中〇は実名)

わずか200字あまりの文字の中に、同級生の女生徒4名の名前が書き残されていた。14歳の少女が死を決意するまでに苦しめられた原因は何だったのか。誰に何を伝えようとして4人の実名を書きつづったのか。

部屋のゴミ箱から見つかった有里さんの遺書。黒く塗りつぶした部分には同級生の名前が書いてある

その日、有里さんはバスケット部の部活のため朝7時10分頃に歩いて10分ほどの場所にある学校に行った。当日は先生たちの研究授業日で、生徒は半日授業で帰宅している。有理さんが帰宅したのは12時頃だ。自宅で会社を経営する父親の雄二さん(仮名・当時45)が昼食で母屋に戻り、母親の紀子さん(仮名・当時43)も仕事先から帰り2階の有里さんを呼ぶが返事がない。部屋を覗きに行くと、高さ180㎝のクローゼットのドアに電気コードをかけ首を吊っている娘を発見したのだった。

有里さんの学校の成績は5がずらっと並ぶトップクラスで絵もうまくデザイナーを目指していた。成績表の所見には「仲間に対して思いやりを持って接することができる素晴らしい性格の持ち主です」と担任の教諭が記していた。

「うちの子はやっていない」

自殺の報を聞いて吉村さん宅に飛んできた校長は、遺書を見るとこういった。

「これって何ですかね。(有里さんは)どうされたんですかねー」

娘の死を悼む言葉もない校長の言葉に、雄二さんはあきれ果てた。真実を知りたいという両親と、事実から目を背ける学校との溝はこの日を境に大きく広がった。事件の翌日、学校側は、

「これまでまったく報告がなく、いじめが原因ではない」

と、いじめを否定した。だが、「おかしい」という声が生徒から上がり、同級生からは“いじめの証言”が次々に寄せられた。そして、自殺から5日目に吉村さん宅を訪ねた校長と学年主任は、

「(バスケット部の)部員の保護者が、『自分の子供が言葉や態度などで有里さんをいじめていた』」

といじめの事実を認めた。ところが、翌日の会見で校長はいじめを否定、前日と食い違う理由をこう説明した。

「事件後に2度、生徒に今考えていることを書いてもらったが、いじめがあったという話や、彼女のことをねたむような内容は一切なかった。亡くなった本人の気持ちを確認できない以上、いじめと結論は出しにくい」

学校が行った2度の調査は生徒が実態を告発しにくい“記名式”の調査だったのだ。遺族は3回目に無記名の再調査を依頼した。そこでやっと事実が出てきた。

10月30日に行われた調査の結果、「私はいじめられている場を見た」という情報は41件にも上ったのだ。いじめと自殺の因果関係を学校が認めたのは10月31日、自殺から9日目の事だった。実は、事件の数ヵ月前から有里さんは家族、学校にいじめ被害のSOSを出していた。

「自分の爪の皮を血が出るほど剥いたり、学校から帰って来るといつもイライラしていた。クラブを終えて帰る娘を迎えに行った母親の車に泣きながら飛び込んでくることもあった。『(4人と一緒にいると)どきどきして変になりそうになる』、と家で泣くようになり、様子が一変してきたんです」(雄二さん)

そのため自殺の1週間前には母親が学校に行き、担任と部活の顧問にいじめ被害の相談をしている。だが、そこで学年主任が出した指示は、「しばらく見守ろう」でしかなかった。

遺書の中で名指しされた4人の女生徒とその保護者は、その後遺族とどう向き会い謝罪しているのか。

「娘が遺書で名指しした4人の名前の順番も意味があるようです。『いじめで大きな傷を受け、有里が嫌っていた順番です』と娘の友達が証言してくれました」(雄二さん)

4人の少女は吉村さんの自宅からさほど遠くない距離に住み、そのまま瑞浪中学に通っている。’07年12月27日、文部科学省所管独立法人「日本スポーツ振興センター」から「災害共済給付制度」に基づく死亡見舞金が吉村さんに支給された。文科省が「いじめ自殺」を認定したのだ。私が、遺書で最初に名指しされたAの父親にこの件を尋ねると、

「文科省がいじめを認めたのは間違いだ!」

と強い口調で反発した。
3番目に名前の挙がったCの母親は、

「いじめはありません。うちの子はやっていないと言っている。遺書を見て、あれでどうやっていじめがあったといえるんです。この件はもう終わっているんです」

と、玄関の引き戸越しに大声で答えた。


名指しされた女生徒と保護者への対応を市教育委員会に尋ねた。

「(自殺の原因が)いじめだったということは本人や保護者には指導しています。途中で仲介者(弁護士)が入ってきたため指導が中途半端になりましたが、(有里さんの)心に傷を付けたことを4人の保護者は納得しているはずです」(平林道博・学校教育課長)

市教委と4人の保護者との認識はまったく異なる。雄二さんが憮然と言う。

「月命日に来る校長らに尋ねるのですが、『名指しされた生徒に定期的に面談し聞き取りをしても拒否され、口をつぐまれて聞き出せないんです』という。先生の立場はこんなにも弱いんですか」

こうした市教育委と学校の対応に、遺族が納得できるはずはない。

自宅の廊下には有里さんの思い出の写真が多数貼ってあった
有里さんの自室と勉強机。亡くなってからも、そのままの状態にしてあった
  • 取材・文・撮影須賀 康

    '50年、生まれ。国学院大学卒。週刊誌を主体に活躍。政治や経済など「人と組織」をテーマに取材。学校のいじめ自殺や医療事故などにも造詣が深い

Photo Gallary4

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