その美しさ、謎だらけ。「日本の美しいウニ」

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ショコタンをはじめ、マニア急増中! 日本の海で、お目にかかれる神秘に満ちた「ウニの世界」とは?

世界でいちばんウニを食しているのは日本人だという。ウニというと黒っぽいイガグリのような姿を思い浮かべるが、実は、非常に多種多様だ。そして、棘(とげ)のうちに隠れた“殻”は美しいものが多く、驚くほどカラフルだったりする。

近頃、標本コレクターも増えているという、「美しいウニの世界」。ウニに魅せられた若き研究者、田中颯さんにその魅力を語ってもらった。

【ノコギリウニ(キダリス目・ホンキダリス科)】くっきり五放射のラインが美しい褐色の大型種で、殻径は55mm程ある。現存するウニ類の中で最も原始的な特徴を持つキダリス目は、昔と今で生態が大きく変化していないと考えられ、ウニ綱の“生きた化石”といわれる
キダリス目の特徴は太く大きな主棘で、ノコギリウニは主棘の基部近くにノコギリ状の突起物がある。主棘は海藻やコケムシなどの付着生物に覆われカムフラージュとなっている

そもそもウニとは、どんな生物なのか 

「ウニはヒトデやナマコに近い生物で、“棘皮(きょくひ)動物門”というグループに属します。棘皮動物は、同じ形が中心から5つ放射状に並んだ“五放射相称”という形状が特徴です」 

星型をしているヒトデは五放射相称であることが一目でわかるが、棘に覆われたウニではわかりにくい。ウニの場合、殻だけになると五放射相称をはっきりと観察することができる。この五放射の模様がカラフルで綺麗なものが多いため、近年、ウニ殻も貝殻に次ぐコレクション対象として人気が高まっているという。

「ナマコもわかりにくいですが、輪切りにすると筋肉などが五放射相称になっています。実際、ナマコとウニは分類学的には非常に近くて、イメージとしては、ウニをタテにグーンと伸ばして、横に置いて、棘を取ったら、ほぼナマコになるという体の作りをしているんです」

ウニとナマコが近いとは…。かなり意外な事実。

「ウニは世界中に1000種類近くいますが、食べられているのは10種類ぐらい。みなさんがイメージする黒っぽいイガグリ状の棘を持つウニは、むしろ少数派で、どんな形が一般的かと言われると答えに困ってしまうほど、ウニは多様性に富んでいるんです。 

現存するウニは、五放射相称の円形の殻を持つ『正形類』と、タコノマクラやカシパン、ブンブクなど左右対称の殻を持ち、砂や泥などの中に潜って生息する『不正形類』に大別されます。不正形類は、恐竜が繁栄していたジュラ紀に正形類から分岐した、比較的新しいタイプのウニです」

【ベンテンウニ(アルバキア目・アルバキア科)】アルバキア目は、カマロドント目との生存競争に敗れ大部分が絶滅、現在は一部の系統しか残っておらず詳細はほとんどわかっていない。鮮やかな紫色の「五放射模様」がエンブレムのよう。殻径30 mm程と小さく、棘が長い
主棘は、淡黄緑色の地に朱赤の太い横縞が入っている。長い棘や、極彩色の体色の意味はわかっておらず、毒も特に持っていないが、「すごく目立つような見た目にしておいて、必要以上に他の生き物がぶつかってこないようにしているのかも」と田中さん

ウニの研究をしようと思ったのは

海に囲まれた日本。水産の研究をしている人は多いが、ウニの“分類学”の研究者は非常に少ないという。 

「僕がウニと初めて出会ったのは図鑑の中です。子供の頃から昆虫などの生き物好きだったので、親が図鑑を買い与えてくれました。海は身近ではなかったのですが、気軽に手が届かない反動か、なぜか図鑑のなかの海の生き物にハマっていき、ヒトデやウニ、ナマコといった棘皮動物に魅了されていきました。 

大学に進学して、ナマコかウニのどちらかで何かを研究したいと考えていましたが、あるとき“新種を見つける”という学問分野があることを知りました。それが『分類学』です。新種を見つけて学名を付けたり、『この種とこの種は同種なんじゃないか』とか、『日本にはこの種類が何種類いるのか』などを明らかにしていく学問です。 

最終的にウニを選択したのは、正直、ウニの方がナマコに比べて標本が作りやすかったというのが理由の1つです(笑)。ウニは棘を全て除去して殻にしてしまえばコンパクトな標本になるので、貧乏学生の頃でもスペースを作って標本を集めることができました。ナマコは標本を作るとなると、全身が浸かるだけの標本瓶や薬品が必要で、学部生の頃に扱うのが困難でした。ナマコもウニと同じくらい多様で魅力的な動物なので、悔しいところでしたが」

【ジンガサウニ(カマロドント目・ナガウニ科)】カマロドント目は、バフンウニ、ムラサキウニなど日本で食用としているウニと同目。殻長50mm程の楕円形の殻は、淡い緑色に五放射の模様が美しく入っている。石垣島などで稀に食用とされる
非常に強い波が打ち寄せる岩礁や転石に強く付着して生息する。主棘は先端が平たいテーブル型になっていて、棘というより甲冑のようになっているため“陣笠”の名が付いている。流線型の形状によって波の抵抗を和らげ、固着し続けられるようになっている

新種「コーヒーマメウニ」の発見!

2019年、「コーヒーマメウニ」という新種のウニを発見し、“学名”と“和名”を命名した田中さん。国内ではウニは37年ぶりの新種記載だった。

「学生の頃、大学の帰りに鎌倉や葉山の海辺を散策してウニの殻を拾うことが日課でした。最初はムラサキウニやタコノマクラなどの比較的大型のウニの殻を集めていたのですが、やがて目が肥えてきて、殻長1 cmほどのマメウニの仲間の死殻がたくさん漂着していることに気づきました。マメウニは砂のなかに生息するカシパンの仲間です。 

たくさんの殻を集め、大学の研究室の一角を借りて顕微鏡などで入念に調べたところ、今まで発見されたことのない形態を持っていたことから、新種の可能性が高いことが比較的早い段階で分かりました。しかし、死殻はたくさん拾えるものの、その海域で潜って調査をしても生きた個体がなかなか見つけられず、研究はしばらく難航しました。マメウニが含まれるカシパンの仲間は砂地に生息していると考えられていましたが、砂地には全く見つからずで…。 

ところがあるとき、離島での調査の最終日、今回の調査でも生体が採れなかったな…と、半ばやけくそ気味に魚取り網で岩場をこすってみたら、網に生体が入っていたんです。結局、このコーヒーマメウニは普通のカシパンと同じように砂地に生息しているのではなく、岩礁の上に堆積した薄い砂の層に潜って生息するという変わった生態を持つことが分かってきました。生体が採れたことから研究が進み、新種記載にこぎつけました。

この発見によって、『新種って、こんな近傍でも見つけられるんだ』と分類学の面白さに気づき、一気にのめり込んでいきました」 

【コーヒーマメウニ(カシパン目マメウニ科)】田中さんが発見、2019年に記載した新種〈Fibularia coffea Tanaka et al. 2019〉。生体の体色が、他のマメウニの仲間からすると濃いめで茶色っぽいためコーヒーの名が付けられた
岩礁上に堆積した薄い砂中に生息するという、カシパン目としては珍しい生態を持つ。殻長5.5mmほどで、とても小さくかわいい。「横から見た少し平べったい形もコーヒー豆のようだった」と田中さん

ウニにはユニークな名前が多い

コーヒーマメウニもかわいい名前だが、ショコタンこと中川翔子さんが好きなことでも知られるスカシカシパンなど、図鑑を見るとウニのネーミングはなかなかユニークだ。

「ウニはユニークな“和名”をつけられがちな分類群なんです。キツネブンブク、タヌキブンブク、フジヤマカシパンとか。スカシカシパンの仲間では、2つしか透かし孔をもたないフタツアナスカシカシパンという舌を噛みそうになるような和名も存在します。 

私も歴代の和名に習ってちょっとヒネった和名を付けるか、と「コーヒーマメウニ」という和名を考えた際も、周りの研究者から、『ウニだったらもっと変な名前つけてもいいんじゃないの』と言われたぐらいです。 

ちなみに私達、分類学者は、和名より学名を命名するほうが大事です。世界共通で使われる“学名”は厳密にルールが決まっていて(国際動物命名規約というルールブック的なものがあります)、その運用は厳密に定められています。例えばコーヒーマメウニの〈Fibularia coffea Tanaka et al. 2019〉という“学名”は、この種類が存在すると考えられる限りはずっと科学の世界に残り、使われ続けます。この、学名をつけることが我々『分類学』研究者の最終的な目標なんです。 

一方で和名にはルールが存在せず、皆がこう呼んでいたらこう、というような慣用的な運用がなされています。後世の研究者の独断によって、和名がコロコロと変えられてしまうこともあります。実はウニはユニークな和名が多いですが、これは歴代の分類学者の独断によって、何度も変更されて徐々にユニークなものにされてきたという背景があります」

【バサラブンブク(ブンブク目・ヘンゲブンブク科)】和名は、型破りな生態・形態にちなんで“バサラ”。主疣(しゅいぼ)が著しく発達し、星マークにスタッズをちりばめたようなハードな見た目。他のブンブク目と違い、砂泥に潜って身を隠さず、砂泥底を堂々這って生息する
他のブンブクの仲間は毛のような細かい棘に覆われ、砂や泥に潜って生息するが、バサラブンブクは潜って外敵から隠れるのではなく、頑丈な棘を生やし外敵から身を守る戦略を採用したと考えられる

キレイな色には意味があるのか

ウニの中には、毒を持つものもいるという。あまりに派手な色をしていると、毒を持っていそうなイメージもあるが。

「実は、何もわかっていないんですね。たしかに、鮮やかな色をしているものも多いのですが、その色がなんの意味を持つのかは、ほとんどわかっていません。カラフルな色と毒の有無も特に関係がありませんし、殻の色が生きているときの表皮や棘の色に反映されていないことも多いです」

【ヤマトベンテンウニ(アルバキア目・アルバキア科)】生体も殻も非常に美しいが、体色の意味は不明。毒はなく、鮮やかな体色は「危ないから近づくな!」というアピールからかと想像される。日本近海のみで見られる種
深場の種類だが稀にダイバーに目撃されている。殻径30mm程と小さいが、朱赤色の主棘は必要以上に長く、深海でかなり目立っている。他国では記録がなく、九州南端から相模湾までの日本近海で見られるため、ヤマトの名が付いている

棘はなんのためにあるのか

ウニといえば棘。現在見つかっているウニはすべての種類が棘を持っているというが、思いもよらないような棘の形状もあり、その使いみちも種によってかなり違うようだ。

「岩場の表面などで生息するウニの場合、棘は外敵から身を守ったり、歩くための足として用いられます。 

カシパンやブンブクといった砂の中に生息するウニでは、棘は砂に潜るために使われます。砂の中では外敵に襲われにくいので、長い棘は退化しています。代わりに細かい毛のような棘が体表をみっしり覆っていて、これによって体が砂で完全に覆われて窒息しないようにしているんです。 

この毛のような棘が哺乳類っぽい見た目のためか、キツネブンブク、ネズミブンブクといったユニークな和名が付けられたと思われます。

ブンブクやカシパンという名称は明治以降に付けられたもので、ブンブクは昔話の『分福茶釜』のタヌキが化けた茶釜がモデルに、カシパンは『甘食』のようなお菓子に見立てたと考えられています」

【フタツアナスカシカシパン(カシパン目・スカシカシパン科)】カシパン目の仲間は、中央に五放射の花紋がマークのように入っているのが特徴。殻を貫通する透かし孔がスカシカシパンでは5つなのに対し、これは2つと稀な種類。殻長は90mmほどある
フタツアナスカシカシパンの生体は紫色。細かい棘がみっしりとベルベット状に生えている。日本固有種のスカシカシパンは茶色っぽく、横から見るとまさに甘食のような形

田中 颯(たなか・はやて) 1994年京都府生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士前期課程修了。タコノマクラ目、カシパン目の系統分類が専門。大学生の頃にウニの新種(今のコーヒーマメウニ)を発見したことをきっかけに、ウニの分類学にはまる。現在はIT企業でエンジニアをしつつ、日本産ウニ類の分類の研究をライフワークとして続ける。ウニの研究では、コーヒーマメウニと同時期に発見した、オシムギウニの新種記載が進行中。日本近傍で見られるウニを紹介した著書『ウニハンドブック』(文一総合出版)がある。ちなみにウニは食べない。

  • 取材・文藤岡佳世写真大作晃一・田中颯(コーヒーマメウニ)

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