多過ぎるアニメ制作 ソフト急減、配信手詰まりで打開策はあるか? | FRIDAYデジタル

多過ぎるアニメ制作 ソフト急減、配信手詰まりで打開策はあるか?

アニメ業界:2019年振り返り~2020年展望-3-

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2019年のアニメ業界で最も話題になったのは、人手不足問題だろう。とにかくスタッフが足りない。そのため、制作スケジュールの遅れや、納得の出来ないクオリティでの納品も少なくなかったようだ。

背景にあるのは、現在の制作本数が多過ぎるという問題である。テレビアニメの制作本数は急激な伸びは止まったが2014年以降、年300シリーズ以上が続いている。映画でも19年はおよそ100タイトルと過去最高水準。

しかも、その中でヒットするのは、限られた作品だ。19年は小・中学生〜ファミリー層、男女幅広くファンを獲得した『鬼滅の刃』が社会現象的なブームを巻き起こした。同じシーズンの他の作品は霞みがちだ。

数少ない成功例となっているアニメ版『鬼滅の刃』 Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
数少ない成功例となっているアニメ版『鬼滅の刃』 Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

さらに本数が増える一方で、スタッフの育成が追いつかないという問題もある。現状の制作本数とクオリティを維持するためには、国内スタッフの数が全く足りていないというのが大方の見方だ。2020年は、こうしたアンバランスをいかに解決するかが課題に浮上する。

問題はアニメの生産は、工場やラインを増やせばすぐ出来るものでないことにある。熟練したスタッフが必要で、短期間での人材補充は難しい。

ではどう解決されるのか。ひとつは作品数の調整である。実は20年代以降、制作本数が減るのでないかという見方がある。アニメ制作バブルの崩壊が始まっているというのだ。

もともとここ数年の制作急増は、米国向け、中国向けの配信権利を中心に海外向けの番組販売価格が高騰したことも大きな理由だった。しかしこれが既にはじけているという。海外販売だけで製作費が回収されたとされる『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』のようなケースは珍しい。

ある業界関係者は、「シリーズアニメを制作すれば中国の配信会社が高値で購入してくれるような時代はもうだいぶ前に終わっている」と話す。海外作品制限や、中国産の成長で中国での需要は大幅に低下している。米国でもかつてほどのライセンスの奪い合いはなく、購入価格は落ち着いている。日本で回収出来なくても、海外販売で回収出来るという時代は過ぎ去った。

期待された配信会社も、制作費をカバー出来るほどの金額を払えるのは『ULTRAMAN』『ケンガンアシュラ』などのヒット作のあるNetflixにほぼ絞られる。日系配信企業に予算のかかるアニメを支える余力はなく、海外勢でも期待されたAmazonプライムビデオのオリジナル作品は、『無限の住人-immortal-』ぐらい。予想ほどでないという。

2020年は新たな配信プラットフォーム、ディズニー系の「Diseny+」「Hulu」、ワーナー系の「HBO max」が日本アニメに関心を示す可能性はあるが、極めて不確かなのだ。

近年、売上げ減少が加速しているDVDやブルーレイの縮小はさらに続くだろう。これまでアニメ製作を支えてきたパッケージメーカーの出資もますます慎重になる。そうなれば製作出資は全体として絞られる可能性がある。アニメ制作本数が20年代以降、減るかもしれない。

一方でそれでも制作本数が減らないとの見方もある。それは自社が主体となってアニメ製作をしたい企業が増加しているからだ。

アニメビジネスの利益の源泉はIP(知的財産)にある。映像そのものよりキャラクターグッズやイベントなどの二次展開に頼る作品は多い。そこで自分達が権利をコントロールできる作品が欲しい企業が増えている。

2020年には吉本興行『えんとつ町のプペル』(原作:西野亮廣)を製作するし(制作実務はSTUDIO4℃)、IT企業や実写系映画会社の動きも活発だ。今後も新規参入企業が増えそうだ。

制作本数がさらに増えて競争は激化する。新規参入企業はライセンスの回しかたが必ずしも得意でなく、厳しい結果になるケースも出てくるだろう。

そうなると、ひと回りして自社独占でなく、それなりのノウハウを持った企業とのチームが見直されてくるかもしれない。むしろひとつの作品に複数の出資者が相乗りするやり方である。

このような権利のシェアは、実はこれまでもあった。日本のアニメ業界が長年得意としてきた製作委員会である。2010年代は、新時代のアニメ製作のファイナンスを必要とし、製作委員会限界論がしばしば唱えられてきた。しかし20年代に新しく「進化した製作委員会モデル」がないとは言い切れない。参加するだけの企業はなく、権利ビジネスを確実に進める少数の企業が集まった製作委員会といったかたちもあり得るだろう。

「“ポスト製作委員会”は“製作委員会”」、意外とそんな未来もあるかもしれない。

幅広い人気を集め、原作コミック増売の起爆剤となったテレビアニメ版の『鬼滅の刃』 Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
幅広い人気を集め、原作コミック増売の起爆剤となったテレビアニメ版の『鬼滅の刃』 Ⓒ吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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⇒アニメ業界:2019年振り返り~2020年展望-1- 劇場アニメ興収600億円突破 定番超えのオリジナル作品あった? を読む

⇒アニメ業界:2019年振り返り~2020年展望-2- アニメ300本!スタジオの奪い合い、囲い込み、続々新設の理由 を読む

  • 数土直志

    (すどただし)アニメジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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