哀愁溢れる無言劇に見た志村けんさんの「コメディアン魂」

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美女を伴って店を出てくる志村けんさん。酒と美女に愛された、粋な人生だった(‘12年)

新型コロナウィルスにより、3月29日にお亡くなりになったコメディアンの志村けんさん。突然の死を悼む追悼番組が連日放送され、軒並み高視聴率を獲得した。

ドリフターズの加藤茶、仲本工事、高木ブーがそろった『志村けんさん追悼特別番組 46年間笑いをありがとう』(フジテレビ系)は21.9%を記録。『天才! 志村どうぶつ園 大好きな志村園長SP』(日本テレビ系)は平均視聴率、過去最高の27.3%。昭和、平成、令和、三つの時代を生きたレジェンドのまばゆいばかりの足跡には、目が眩むばかりだ。

志村さんの足跡をたどる上で、忘れてはならないのが、志村さんの”コント”への思い。売れて来るとテレビタレント化していく芸人が多い中で、志村さんはコント一筋。コントに賭ける情熱を最後まで失うことはなかった。

「早過ぎた晩年を間近で見て来た千鳥の大悟は、志村さんの笑いについて”お笑いの教科書の1ページ目”と表現。仕事を共にする内に、1ページ目から笑いを学び直す必要があることに気付いたと話しています。

志村さんは、寄席に出ている芸人と舞台中心の喜劇人とは、僕の中では違うと公言。ジュリー・ルイス、藤山寛美、三木のり平、由利徹、東八郎と言った喜劇人を愛し、本人も死ぬまで喜劇人としての人生をまっとうしました」(放送作家)

そんな志村さんには、伝説の番組『8時だョ! 全員集合』(TBS系)から生まれた”東村山音頭””ひげダンス””カラスの勝手でしょ”と言ったヒットギャグ。さらに『ドリフ大爆笑』の頃からやっていた”バカ殿”、『志村けんのだいじょうぶだぁ』(共にフジテレビ系)から生まれた”変なおじさん”、そして”ひとみばあさん”といった人気キャラが存在する。

「中でも志村さん自身のお気に入りは”ひとみばあさん”。度の強い眼鏡をかけた耳の遠いおばあちゃんが、ボケてボケてボケまくる。このキャラクターにモデルがいるのは有名な話。フジテレビがまだ新宿河田町にあった頃、志村さんは収録の後、新宿二丁目にあった24時間営業の居酒屋『ひとみ』によく足を運んでいました。そこの女将が”ひとみばあさん”のモデルなんです」(制作会社プロデューサー)

実は、当時「ひとみ」に足繁く通う志村さんを、私も目撃したことがある。いつもの席に陣取った志村さんの脇を固めるのは共演する田代まさしたち。後から製作陣、そして放送作家も駆けつけ、反省会を兼ねた酒宴はいつ果てるともなく続く。

こうした宴席から、今でも語り草となっている、あの”シリアス無言劇”が生まれた。

「”シリアス無言劇”とは、『だいじょうぶだぁ』から生まれたコントのないシリアスなサイレントドラマ。酒席で『人を笑わせるより、泣かせる方が簡単』と志村さんが豪語したことから始まった企画と言われています。10分前後のものから、30分近くある大作まで本格ドラマさながらの悲劇ばかり。宗次郎の奏でるオカリナの調べに乗って繰り広げられるこの作品にこそ、志村さんの隠れた傑作ではないでしょうか」(前出・制作会社プロデューサー)

最長の作品のストーリーを紹介しよう。志村さんと石野陽子の若夫婦が田舎から駆け落ちするも、生活が苦しく貧乏暮らし。やっと生活にゆとりができ妻が身籠もると、魔が差したのか、夫がホステス(河野景子)と浮気。それを知った妻はショックを受けて失踪。家で母子手帳を見つけた夫が慌てて後を追うも、妻は雪景色の中で息絶えていたという、なんとも物悲しい物語である。

「生前、志村さんは度々『哀愁があるから笑いがある』と、可愛がっていた中山秀征たちにも言っていました。それだけに”寅さんシリーズ”を始め、人間喜劇を描かせたら右に出る者のいない巨匠・山田洋次監督がメガホンを取り、志村さんが主演する映画『キネマの神様』が完成していたら、どんな作品になっていたか。悔やまれてなりません」(前出・放送作家)

松竹100周年を記念して、今年封切られる山田洋次監督の『キネマの神様』。無類のギャンブル好きな主人公ゴウ(志村)は、妻や家族に見放されたダメ親父。

そんな彼がたった一つ愛してやまないものが映画。映画の世界を駆け抜けてきた青春時代に、信じ続けてきた”キネマの神様”が時を超え、この家族に奇蹟をもたらすこの作品こそ、最後の喜劇人とも言える志村さんに相応しい作品。この映画から”哀愁溢れる喜劇人・志村けん”の新たなステージが始まるはずだったのだが、悔やんでも悔やみきれない別れとなった。

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓

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