織田裕二『スーツ』 イメージ・内容・コロナ禍で3つのミスマッチ | FRIDAYデジタル

織田裕二『スーツ』 イメージ・内容・コロナ禍で3つのミスマッチ

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成田空港での織田裕二(2010年10月)  撮影:濱崎慎治
成田空港での織田裕二(2010年10月)  撮影:濱崎慎治

織田裕二主演『SUITS/スーツ2』(フジテレビ系)が始まった。

初回視聴率11.1%で、メディアは「2ケタ発進」など高評価だ。SNSも「素敵」「キャストが豪華」など、絶賛の声が少なくない。

ただし世帯視聴率はまずまずに見えても、層別個人視聴率では不安材料が散見される。

15秒毎の接触率波形も良くない。海外ドラマとトレンディドラマを足して2で割ったような内容は、コロナ禍に苦しむ今の日本の状況とミスマッチなのかも知れない。

“初回好発進”の光と影を考えてみた。

「月9」8作連続の2ケタ発進

「月9」初回の世帯視聴率は、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(18年夏・沢村一樹主演)以降、8作連続の2ケタ発進となった。

ひと頃の不調を、「月9」は完全に克服した感がある。

SNS上も高く評価する声が少なくない。

「ドキドキハラハラするなー。目が離せない」
「最高のドラマです!!」
「すっきりするドラマは大好きです」
「良い男と良い女を大量に摂取できる神ドラマ」

さらに新型コロナウイルスの感染拡大で多くのドラマがロケを中止し、初回延期が続出している中でのスタートだ。

閉塞状況の中での一服の清涼剤と、ポジティブに受け止めた人もかなりいた。

ストーリーは大手法律事務所の敏腕弁護士と経歴詐称のアソシエイト弁護士が、秘密を共有しながら数々の訴訟や問題に挑んでいく一話完結ドラマ。

米国では既にシーズン8まで放送された大ヒット作品で、韓国に続きフジテレビがリメイク版を制作している。

それだけに、流石に本(シナリオ)は良く出来ており、高評価の声が多いのも納得できる。

ただしつぶやきの中には、評価しつつも気になる言い回しも散見される。

「面白い! けど難しい話が多い」
「絶妙にトレンディドラマ感を散りばめてるところが古き良き時代のフジテレビドラマって感じ」
「昭和の感じが満載で今の若者には受けないやろうけど」
「月9って若者の恋愛ドラマのイメージだったけど、そのまま持ち上がり、むかしの若者向けになったみたい」

シーズン1と2の違い

絶賛の中に混じる懐疑的な声。

実は18年秋の「シーズン1初回」と「全体平均」、そして「シーズン2初回」を男女年層別個人視聴率で比較すると、懐疑的な声がデータと符合していることがわかる。

シーズン1初回の世帯視聴率は14.2%。全体平均は10.8%、そして今回のシーズン2初回は11.1%となった。

シーズン1は初回こそ好調だったが、シーズンの中盤から終盤にかけ世帯視聴率は下降気味だった。

ただし若年層には、「海外ドラマ+トレンディドラマ÷2」は新鮮に映り、全体平均は一定程度の粘りをみせた。ところが中高年の中には、ついて行けない人々が発生していた。

それがシーズン2初回では、一転して男女若年層の離脱が目立った。

シーズン1初回の各視聴率を1として、シーズン1全体平均とシーズン2初回を指数化すると、MT~M2(男性13~49歳)とFT~F1(女性13~34歳)は、0.7以下と大きく下がっていた。

今はコロナ禍で人命が脅かされ、明日の生活が見えない状況だ。

学校が休みになり、内定取り消しや派遣切りなど、仕事がなくなっている若者にとって、大手法律事務所でのエリートたちの物語は遠い物語と映ったのかも知れない。

逆に男女65歳以上は健闘した。自分たちの青春時代の匂いが、こんな状況を忘れさせてくれる上質の娯楽になったのだろうか。

「今の若者には受けないやろうけど」「むかしの若者向けになったみたい」などの声が、まさに時代状況とドラマの関係を言い当てているようだ。

シーズン2初回の接触率波形

インテージ「Media gauge」が調べるインターネット接続テレビの15秒接触率が、ドラマの課題を示す。

全体は明らかに右肩下がりで、見始めた人の4分の1が途中で脱落している。

脱落の基本パターンは、CMで流出した人の多くが戻って来ないこと。「次の展開から目を離せない」ほどには引き込まれていない人が少なからずいた証左だ。

つぶやきにあった「難しい」も原因の一つだろう。

“相手をはめる”とか“生き馬の目を抜く”様な、えぐいネゴシエーションを生理的に受け付けない人が、コロナ禍の今は少なからずいそうだ。

通奏低音のように大都会・東京のイメージを、これでもかと強調する演出にも問題がありそうだ。

オープニングのタイトル音楽30秒のバックで、大都会・東京のカットが出てくる。一見とてもカッコ良い編集なのだが、その後に同様のイメージ3カットが12回も出てくる。

CM明けやシーン変わりにテンポよくお洒落に編集されているが、15秒接触率データでみると、実はシーン変わり6回中5回で流出率が高まっている。

「トレンディドラマ感」は「昭和の感じ」でもあり、良しとしない層が一定程度いる。力を入れたイメージ戦略が、若年層を中心とした今の視聴者にミスマッチだった可能性がある。

ハラハラドキドキか? ご都合主義か?

初回ではもう1ヵ所、視聴者が大きく流出したシーンがあった(図2の★部分)。

主人公・甲斐正午(織田裕二)のアソシエイト・鈴木大輔(中島裕翔)が、ベストセラー作家・桜小路都(友近)のPCから情報を盗み出すシーンだ。

桜小路が2階に上りお茶を用意している間に、大輔が彼女の指の動きだけでパスワードを見破り、決定的な情報を盗み見しようとする。用意を終えた彼女が階段の下の方に降りて来るまで、大輔はPC画面を凝視するカット割りだが、次のカットで、大輔は飾り棚の前にまるで瞬間移動したかのように編集されている。

良く言えば“ハラハラドキドキ”の名場面だが、客観的には物語を面白くするためのご都合主義に見える。

シーン終の大都会・東京3カットで流出が急増してしまった。

視聴者の目は誤魔化せないということだろう。

コロナ時代とのミスマッチ

最後に男女年層以外の切り口で、どんな層が初回で離脱していたかをみてみよう。

スイッチ・メディア・ラボの「SMART」は、サンプル世帯が登録時に、視聴者属性(性別、年齢、趣味・嗜好、年収、よく使うメディアや好きな番組ジャンルなど)を登録しており、属性別の個人視聴率が分析できる。

シーズン1初回とそん色がなかったのは、年金暮らしなど「無職」と「低所得層」。

一方で大きく下回ったのは、「経営者・自営業者」と「パート・アルバイト」、そして「世帯年収300万円以上600万円未満」「1500万円以上」だった。

コロナ禍で先が見通せない状況が続き、会社やお店の経営に苦慮する人々がいる。また営業停止などで仕事を失ったパートやアルバイトの人々も、当面の暮らしをどうするかで悩んでいる。

どうやら苦境に直面する人々ほど、エリート層の大金をかけた交渉物語を見る気になれなかったようだ。

テレビ番組の放送は、“なぜ今か”が成否にかかわることが多い。

繰り返しになるが、『SUITS/スーツ』自体は米国での大ヒットドラマで、本はよく書けている。見た人の多くは、高く評価をしている。

それでも今回は新型コロナウイルスの感染拡大という時期で、タイミングが悪すぎた。

大都会・東京のイメージを、ポジティブに受け取れない人がいる。エリートのビジネス戦に違和感を抱く視聴者が少なくない。

時代状況も物語の内容と合わなかった。

これら3つのミスマッチが、2話以降に大きく響かなければ良いが、今後の見られ方が心配だ。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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