『東京ラブストーリー』→『リコカツ』で見る“嫌がらせ女”変遷 | FRIDAYデジタル

『東京ラブストーリー』→『リコカツ』で見る“嫌がらせ女”変遷

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「おでん女」→「おかゆ女」→「筑前煮女」

離婚に向けた活動(離婚活動)がテーマとして描かれる、北川景子と永山瑛太によるドラマ『リコカツ』(TBS系)において、SNSで複数回にわたってトレンド入りを果たした“人気キャラ”がいる。 

自衛官・紘一(永山)の上官・一ノ瀬(田辺桃子)、通称「筑前煮女」だ。 

(イラスト:まつもとりえこ)

一ノ瀬は、紘一に思いを寄せているために、妻の咲(北川景子)に数々の嫌がらせをする。最初の嫌がらせは、バーベキューにやってきた咲を林の中に置き去りにしたこと。一歩間違えば命の危険すらある行為を、よりによって、人の命を救う仕事の自衛官がやるのだから、“嫌がらせ”では済まされない。

さらに、咲の母の誕生日パーティに、手作りの筑前煮とおでんを差し入れし、料理の苦手な咲に対してマウントをとってみせ、おまけに夫婦の寝室に勝手に入るという厚かましさを見せる。

職場の人の奥さんの母親のパーティ行くこと自体なかなかだが、自分の親世代の初対面の人の誕生日パーティへの差し入れとして、「手作りのおでんと筑前煮」をチョイスするセンスがすごい。

さらに、咲が勤める編集部までわざわざやってきて、紘一と別れたほうが良いという、何目線かわからない忠告をする。

おまけに、二人が離婚したことを知るや、早々に紘一の家に押しかける。いつもの自衛官スタイルとは異なり、髪をダウンスタイルにしてワンピース姿で現れるのは、なかなかベタだし、「煮物を作りすぎてしまって……」と言うのも、非常に古典的でベタだ。

ところが、一ノ瀬の斬新なところは、紘一が離婚後に一人暮らしをしているならともかく、父と一緒にいる「実家」に煮物を持ってくるところ。おまけに紘一の父・正と将棋を打ち、「次は負けません!」とまた来る約束まで父親相手に勝手にしてみせる。

かと思えば、紘一が離婚したことについて「私のせいで」と言い出し、「私の今までの悪事についてご報告いたします! 1つ!……」と3つまで挙げ、紘一に面と向かって大きな声で堂々と謝罪するのだ。何だろう、このベタさと新しさの不思議な融合は。

離婚に向けた活動(離婚活動)がテーマとして描かれる、北川景子と永山瑛太によるドラマ『リコカツ』(TBS系)(写真:アフロ)

「これ……この間、約束してたでしょ。おでん」関口さとみ(有森也実)『東京ラブストーリー』(1991年)

一ノ瀬がSNS上で「筑前煮女」と命名されたのには、もちろん超有名な元ネタがある。『東京ラブストーリー』(1991年)で有森也実が演じた関口さとみこと、「おでん女」だ。

『リコカツ』一ノ瀬もおでんを持ってきており、かの有名なおでん女へのリスペクトと差別化のためか、「筑前煮女」のほうがあだ名に選ばれるに至った。

さとみはカンチ(織田裕二)の愛媛の同級生で、カンチの親友でもあるプレイボーイの医学部学生・三上(江口洋介)と同棲していながら、三上の女関係で悩むたびにカンチに泣きつき、ちょっかいを出す。

今改めて観ると、恐ろしさと共にギャグにすら見えてくるが、突然チャイムが鳴ると、「これ……この間、約束してたでしょ。おでん」「作ってきたの。食べて」と熱々おでんを持って玄関先に立っていること。アポなしで熱々おでんを持ってきたら、交際中であっても引くレベルだが、まして彼女でも何でもない。

しかも、リカ(鈴木保奈美)と約束していたカンチが時計をチラリと見ると、「あれ? なんか約束してた?」「タイミング悪かったな」と言い、カンチが「行かなきゃ」「駅まで送るよ」と言うと、「うん」と言いながらも、「イヤ……行かないで……好きなの」と翻弄するのだ。

有森也実は当時、この「おでん女」があまりにハマってしまったことから、女性たちの反感を大いに買い、視聴者からカミソリ入りのファンレターが届いたと後に語っていたほどの嫌われぶりだった。

「自分が最低なこと言ってるってこともわかってる」関口さとみ(石井杏奈)令和版『東京ラブストーリー』(2020年)

しかし、令和版『東京ラブストーリー』の石井杏奈の演じる関口さとみもまた、震えあがるほど凄まじい。

カンチ(伊藤健太郎)がニューヨークに行ったリカ(石橋静河)と遠距離恋愛中に、風邪をひいて寝込むと、絶好のタイミングで「ご飯でも行かない?」とメールをしてきて、自宅にあがりこみ、おかゆを作る。しかも、“高校時代の友達”の顔をして入り込み、現彼女の絵葉書を見て「なんか素敵だね! あ、カンチ、愛してるって書いてある!」とか言っておきながら、弱音を吐いたカンチをハグし、キスする。

しかも、帰国したリカに、カンチとキスしたことを話し、「色々悩んでいるみたいで泣き出しちゃって」と自分に非がないような話しぶりで、さらにカンチのことが好きなのか問われると「今はまだわからない」という煮え切らない返事をしてみせる。かと思えば、カンチに対しては「あの日からずっと、永尾くんのことばっかり考えてる」と翻弄し、「自分が最低なこと言ってるってこともわかってる」といい子ぶってみせる。

平成版の「おでん女」は令和版では「おかゆ女」となっていたが、わかりやすく”女が嫌いな女“として描かれているのは、平成版の元祖だろう。

ゆるく斜め下で編んだり、ハーフアップにしたりというヘアスタイルやおとなしそうなファッションもさることながら、小首をかしげて上目遣いをしたり、すぐに困った顔をしてみせたりする表情や、はっきり言わないくせに、押しが非常に強いところなど、わかりやすいヒールぶりである。

それに対し、令和版のほうは、ぱっと見の印象であまり媚びを感じない。むしろ真面目な優等生タイプに見える。にもかかわらず、すぐに性に関する話を幼稚園という場で、同僚にペラペラしゃべったりするような下品さを持ち合わせていたり、彼氏でもない相手にちょっかいを出すときのラブシーンがものすごくねっとり濃厚で、見ていてドン引きするくらいだ。よく「ああいう真面目そうに見えるタイプのほうが遊んでる」と言われる典型かもしれない。

柴門ふみ原作のドラマ『東京ラブストーリー』(1991年)は“カンチ”こと永尾完治(織田裕二)と赤名リカ(鈴木保奈美)のせつないラブストーリー。’90年代の恋愛ドラマの代表作(写真:アフロ)

「私の今までの悪事についてご報告いたします! 1つ!……」一ノ瀬(田辺桃子)『リコカツ』(2021年)

こうした本家の「おでん女」~「おかゆ女」に対し、『リコカツ』の「筑前煮女」の新しさは、先述のようにちょっとずつズレた性質という点以外にもたくさんある。

そもそもヒロイン・咲にとってのライバルキャラでありながらも、むしろ咲よりも紘一にとって近い場所にいる同業者であり、おまけに紘一の「上官」というポジションにあること。

しかも、いわゆる男性にとって放っておけないタイプというよりは、理解者に近く、おまけに紘一とは「真面目で一生懸命で古風」という性質まで似ていて、結婚観も近い。

だからこそ、何度も二人の邪魔に入っては、視聴者をイラつかせていたものの、正直、“盗られる”危険な香りは全くしない。おまけに、離婚後に会いにやってきた咲には、「仕事に対する誇り」を共感され、好感を抱かれてすらいるのだ。

令和版『東京ラブストーリー』のように配信ドラマだったらいざ知らず、今、キー局のゴールデンプライム枠の連ドラでやるとなると、「筑前煮女」のように瞬間的には視聴者を沸騰させつつも、どこかズレていたり、ちゃんと謝罪したり、本質的な悪ではない“マイルドヒール”ぐらいがちょうど良い温度なのかもしれない。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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